第31話 密偵という職業とこれからのプラン
兼はアーネストサトウに近づくのは
イギリス公使館で、と決めていた。
(おそらく、相手を惚れさせるのが最短なんだろうな)
兼はそう思う。
用意された部屋で、準備をし、胸元には護身用の短刀を忍ばせておく。
アーネスト サトウは女だ。襲われることも
考慮しておかねばならない。
(銃は僕向きじゃないな)
兼はそう思い、パーカーから借り受けたSAA銃は畳の下へと通じる部屋に保管してあった。
(相手がどういう思考をするのか…か)
兼は、そんな考え方をするのも、初めての切り口だったし、そんなのを知っても自分には利用価値が見いだせそうにない。
だから、まずは、相手がどういう好みなのかを知って鉄之助とパーカーへ知らせる事になっていた。
2
兼から、得た情報をもとに実行プランをたてる。それが鉄之助の行動の発端であった。
もし、怒りやすい相手ならば、言ってはいけない情報を怒りに任せていう可能性もあるし、情に流されやすいのであれば、逆に兼を使ってデマ情報を流してもいい。
きっと、アーネスト・サトウは、情に流されてくれると鉄之助は見ている。
そんなことを思いながら、鉄之助はみ星をつれて雪代屋へと集金に向かっていた。
試作した銃、50丁は木箱ですでに偽装した状態で雪代屋へと納品されている。
あとは雪代屋が納得すれば、ライフリングなしの後込式の試作品を正規品として売り出す。
もし、満足しないか、改良を打診されたらライフリングを施して、高値で売り付ければいい。
性能的に改良する余地があるということはわかってはいるが、性能は確約すみだし、ライフリングはこの時代ではオーバースペックなのも分かっている。
テストはユーザにして貰い後からアップデートしたものを出すことで質が良いものが売れるし、もし、この時代の銃にライフリングなしで勝てることがわかれば、ライフリングはもう少し後にとっておく。
ライフリング技術を隠し持っておくことが出来るし、技術を秘匿しておき、頃合いを見て英国、米国、オランダ、幕府に最新技術として売り混めばいい。
かのマイク●ソフトも良くやる手で、新しい物を買うときは誰かが生贄になる必要があるのは仕方ない。
バグというか不具合はでたら対処する。
この時代にPL法はない。
クレームをいれてくるユーザもいないわけではないが少ないし、クレームをいれる先は雪代屋だ。鉄之助たちに流れてくることはない。安心である。
それにライフリングを施したものは製造コストがかかるし、英国からの輸送費も時間も必要であるために、今すぐにはまとまって生産は出来ない。
(英国にライフリングを教えるのはまだ先だ。連射式ガトリングガンまで開発できれば、いいけど…)
連射式ガトリングガンを製造できれば、戦列を蹂躙できるし、それにあわせてタイヤを作れれば移動式の銃座を作れると考えていた。
連射のつぎはガトリングガンを運用する戦術を考えておく必要もある。
(このあとは、ガトリングを使った塹壕戦術の構築、榴弾の開発、トーチカ戦術の発案、そして艦船でのシーラインの封鎖、ゆくゆくは航空機を使っての爆撃何てのもあり得る)
鉄之助の妄想が大きくなり始める。
(ライセンス、特許権を持っておく必要もあるな)
「クククク……」
鉄之助がとなりで声を殺して笑うのをみ星は不思議そうに眺めていた。
(うれしいことでもあったのかねぇ)
惚れた男がとなりで楽しげに笑う状況はみ星にとってとても良いものだった。
「なんかうれしいことでもあったのかい?」
「……いえ、少し妄想をしていました」
「妄想……?」
み星は鉄之助の妄想とやらが気になった。
「どんな妄想だい?その……もしかして、あたしといちゃつきたかった……とか?」
み星の言葉に鉄之助は一瞬、半眼になって固まった。そして
(ああ……勘違いしちゃったかぁ…訂正をしないと)
「いえ、そういうのではなくて…」
鉄之助はみ星の食い付きに少しいいよどんだ。
「内容をちょっとでいいから教えておくれよ」
(……エロ方面に頭がいってるなぁ。きっと勘違いしてる)
「まわりにだれもいないところでなら」
「ああ…たしかにねぇ。そういう話は二人でないとね」
「まぁそういうことです。宿に帰ったらお話しますよ」
パーカーへの相談も含めた武器の改良の話をする。
「イヤぁ。そうかい。へっへ……」
み星は嬉しいのかデレデレとし始める。
(教えてくれるんだねぇ。焦らしてくれるじゃないか)
少しくらいまたされたってどうということはない。むしろ、スパイス程度にしか感じない。
この世界の女の男に対する許容は現代人と比べて大分広い。
(可愛いもんだよねぇ……他の男はこうはいかねぇからな)
他の男なら女に言い寄られたら、半眼になる。そして決まってこう言われるだろう。
「はぁ?なに言ってるんですか。気持ち悪いから馴れ馴れしくしないで頂きたいですね」
と。
鉄之助はあとにはきっと教えてくれるはず。
み星は邪険に扱われなかっただけで充分なのだった。
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