第29話 馬関戦争

1864年の戦闘を馬関戦争(ばかんせんそう)と呼び、1863年の戦闘はその「原因となった事件」として扱われることが多い。


馬関は下関の古い呼び名であり、現在では1863年のことを下関事件、1864年のことを四国艦隊下関砲撃事件と呼んで区別し、また両者を併せた総称として「下関戦争」と呼ぶ。


孝明天皇の強い要望により将軍徳川家茂は、文久3年5月10日(1863年6月25日)をもっての攘夷実行を約束した。幕府は攘夷を軍事行動とはみなしていなかったが


「撃てー!」

「whats happend?!(何事だ?!)」


長州藩は馬関海峡(現 関門海峡)を通過する外国船への砲撃を実施した。

事の発端は以下である。


文久3年(1863年)5月、長州藩が馬関海峡を封鎖し、航行中のアメリカ・フランス・オランダ艦船に対して無通告で砲撃を加えた。

約半月後の6月、報復としてアメリカ・フランス軍艦が馬関海峡内に停泊中の長州軍艦を砲撃し、長州海軍に壊滅的打撃を与えた。

しかし、長州は砲台を修復した上、対岸の小倉藩領の一部をも占領して新たな砲台を築き、海峡封鎖を続行した。あり得ない胆力と

実行力だといえる。


先に砲撃を加えたのは長州藩である。

現在の法に合わせて言えば、過失は長州藩に8割、もっと言えば9割あると言えよう。

「流石、長州…やることが違うねぇ」

江戸にいた、勝は書状を読みながら大きめの胸を文机に乗せた。

「今日はだいぶ胸が張る。月のモンが来たのかねぇ」

月のモノとは「月経」の事だ。

「しかし、ちぃとばかしやりすぎだなぁ。参ったね」

国際問題の引き金を引いたのだ。

それも、アメリカ・フランス・オランダ艦船に対して無通告で。

相手からすれば「ヤラレタ」のであって、完全なる闇討ちであった。



「やっちまったわねぇ」

砲撃成功の報に長州藩は大はしゃぎであったが、長州藩の中で冷静な女がいた。

高杉晋子である。


前年(文久3年)の、長州藩による馬関海峡を通過する外国船の無差別攻撃に対し、その報復として8月5日から行なわれたのが、英米仏蘭四カ国連合艦隊による、下関砲撃。

直前に京都において禁門の変で敗北を喫していた長州藩にすれば、泣きっ面に蜂のようなタイミング。

あくまで外国船の海峡通過を許さないという長州藩の攘夷の姿勢に業を煮やした列強による、懲罰的意味合いの攻撃で、参加した艦船は17隻にのぼった。


これに対し長州藩は、およそ2000の兵力で沿岸の120門の大砲で応戦。

しかし、主力が禁門の変への参加で不在であり、さらに火力の差も圧倒的で、前田砲台など、連合軍陸戦隊が上陸して破壊された砲台も出た。


上陸した陸戦隊に、旧式銃の長州藩兵は歯が立たず、唯一、弓が意外に効果を上げていたらしい。しかし総じて惨敗なのにはかわりなかった。


8月8日、藩庁は講和使節として、高杉晋子を抜擢。

高杉はこの時、脱藩の罪で牢につながれていたが、急遽、任じられたのは、胆力を買われてだった。

高杉は家老・宍戸備前の養子、刑馬(ぎょうま)と名前を変えて身分を偽り、連合軍の旗艦ユーリアラス号に乗り込む。

イギリスのキューパー司令官との談判に臨んだ高杉は、終始傲然とした姿勢を崩さず、その様子をイギリス人通訳アーネスト・サトウは、「魔王」のようだと評したという。


そして、その情報は、パーカーたちにも届いていた。

「Is it the Demon King? They're pretty scared, right?(「魔王」ですか。ずいぶんとびびっていますね?)」

「It can't be helped. I don't listen to anything. Negotiations have been difficult (仕方あるまい。なにを言われても聞かぬのだからな。交渉は難航したろうさ)」

このときは鉄は、まだ、さすが高杉だなぁ。と、そんなことを鉄は考えていたのだが、後に大事になる。

鉄は高杉に抗議をするべきだったと後述している。のだが、またそれは別の話である。

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