第25話 ハロウィーンパーティー

「あたしたちは、鉄さんに無理させ過ぎたんだ。もともと体が強い方じゃねえのに」

「滋養がつきそうな物っていったら軍鶏かねぇ」

「そろそろハロウィーンも近いはず。パンプキンパイと、軍鶏鍋にシマショウ?」

「ハロウィーン?ってのはなんだ」

「ハロウィーンは秋の収穫と先祖に感謝するお祭りヨ。南瓜をパイにして食べたり、お菓子を子供に配ったりするの。決まり文句はトリック オア トリートよ」



ここ数日、旅籠の中では鉄之助の休暇に際して一行も休みを取る計画がたてられつつあった。

「東春はよぶのかい?」

「呼ぼうぜ。何せ鉄さんの病気を見抜いたんだからな。鉄さんの命の恩人だ」

「南瓜のパイに軍鶏か。酒は出るのかい?」

美星が聞くと

「i will preparing alcohol(アルコールを用意する)」

パーカーが返答した。

珍しく、パーカーも乗り気で酒を本国から輸入している中から、振る舞う予定だった。

「爺さま。分かってるネェ。楽しくなりそうだ」

お珠が浮かれる。もともとお祭りは大好きなのだ。


女性3人が、集まって計画を盛り上げているころ。鉄は二階で本を読みながら臥せっていた。

体が重い。というか、だるい。東春に薬をもらったが苦い。これは、おそらく漢方だと予想が付いた。高麗人参を粉にしたものも滋養が付くからとパーカーが貰ってきてくれた。

(オブラートがほしいなぁ。葛粉かなんかで代用できないのかなぁ)

分かりやすく言えば葛粉を解いてゼリー状にしてオブラートの代わりとして売り出せばいい商売になるかもと考えていた。のだが

「げっほっげほ!」

突如咳が鉄之助を襲ったために思考はそこで途切れてしまった。


ダンダンダンダン


階段をかけ上がる足音が聞こえて、続けて

スタァーンとふすまが乱暴に開かれて

「鉄さん!」

「Tetsu!」

3人が部屋に入ってきた。

「なんです⁉️」

「咳が聞こえたから、急いできたんだよ」

「大げさですよ」

「wow♥️」

「寝間着が捲れてる♥️」

「イヤっはーーー❤️」

お珠が身を低くして、鉄に抱き着こうと、畳を蹴った。

お玉の奇声を聞きながら、鉄は北斗の劵のモヒカン頭を思い出した。

そして次に思ったのは

(あ、ヤられる……)

ということ。しかし、お玉を見星が引き留めた。

「待て!」

「うげぇ!」

ガクンと美星が衿をうしろから掴んで勢いを止めたために首がしまり、ヒキガエルのような声がお玉の喉から絞りだされた。

「……ありがとうございました。美星さん。襲われるのかと思いましたよ」

あのまま抱き着かれたら多分押し倒されて、全身をまさぐられるに違いない。

そう考えると、本気で鉄は寒気が走った。

「ああ、すまねぇ。でも鉄さんも悪いぜ。前合わせおっ広げたまんまなんて襲って良いって言ってるようなもんだ」

「すいません……げほ」

「please dont wake up……(起きないで)」

ロザリーが鉄を寝かそうとし、頬におやすみのキスをした。

「あ!」

「あー!あー!」

お珠と美星は口をあんぐりと開けて抗議したがロザリーは利いた感じはない。

むしろしてやったりと、ほほ笑んでさえいた。



「招待状?うちにどすか」

「ああ、あんたは鉄さんの病気を見事当ててくれた。鉄さんの命の恩人だ。そんなアンタをハロウィーンパーティーに招待しようと思ってよ」

「ハロウィーン?」

「ハロウィーンってのは盆と収穫祭が一緒になった……みてぇなお祭りさ。場所はいつもの旅籠だ。南瓜料理にうまい酒もでるし、軍鶏鍋もあるぜ」

「ええどすなぁ。滋養が付きそうなもんばっかりや。そうやなうちも参加しますえ」

「よっしゃ。そう来なくっちゃな」

(おそらくパーティーは口実や、あの旦那のために滋養のあるもんを食べさせたかったんやな)

お珠は惚れている。完全に尽くしている。

相手にされなくても、そうせずにはいられない。

女は男に貢ぐことはこの世界では良くあることだし、それくらいしなくては女の価値を示せない。

自然と男をリードしてこそ、という気概が無くては女としては半人前である。

ともあれ、東春はハロウィーンパーティーに参加することにきめた。


外見はいつもの旅籠だったが、二階に上がってみるとそこは宴会場に早変わりしていた。

オレンジと紫で飾り付けられた何かの装飾。

南瓜を人の顔の形にくり抜いたモノ。

(けったいな飾り付けやな)

皆一段とめかしこんだ服装に肝試しでもないのに、なぜか口端に血のりを付けておどろおどろしくメイクをしていた。

普通の格好は東春と、鉄だけだ。

パーカー、お珠、美星、ロザリーは仮装をしていた。

「Welcome to Halloween!」

パーカーが東春を中に招きいれた。



「旨いなァ」

「Even so, it's a special (そうだろうとも、特別だからな)」

「鉄さん食いな」

両隣から、差し出される箸。

そして、

「Drink(飲め)」

座った目で、東春に酒を注ぐロザリー。

「Drink(飲め)」

パーカーも便乗して酒を進める

「I thought a good doctor. It ’s just an oriental mystery.(いい医者だとは思っていた。まさに東洋の神秘だな)」

英語でまくし立てられ、握手をされとうしゅんは困惑していた。

(酔うてるんか。でもいい爺様やん。仲間を助けようと必死やったんやな)

男同士の絆なのかも知れないと東春は考えていた

「いただきますえ」

カップを指しだすと、ワインが口いっぱいに注がれた。


「鉄さんと酒が飲めるなんてなぁ!最高だぁ」

「あんまり飲みすぎたら駄目ですよ」

鉄はお珠に酌をしながらたしなめる。

(きっと水商売のおねぇさんはこんな気持ちで酒を注いでるのかもしれない)

そんなことを思いながら、左横から手が伸びてるのを見つけて、軽く手をどける。

「触らしとくれよ!ちょっとだけ。指のさきっちょだけでいいからさぁ!」

「さきっちょって言い方が厭らしいので駄目です」

「怒られてやんの。お珠はこれだからなぁ」

「けっ。気取りやがって。そういう美星だって触りたいくせに」

「ああ。触りてぇし、抱きてぇ。だが、あたいは男と酒が飲めるこの状況に感謝してる」

鉄の神格化度合いは日に日に増している。

「あたしだって、ロザリーだって感謝してらぁ。ここまで一緒に何かをやってくれる男はいねぇよ」

「ぼくはただ翻訳をしてるだけです。パーカーさんのオマケですよ」

「そんなことあれへんと思うで」

何時のまにか、後ろにはパーカー、ロザリー、東春が立っていた。

「いまや、君は立派な商人だ。自信を持ちたまえ」

パーカーの言葉にロザリーが頷いていた。



パーティーも時間が立つにつれて、皆、酔いが回りはじめた頃、

「軍鶏鍋ってのはこんなに旨かったんですね。初めて食べました」

鉄之助は酔いが回り始めてしみじみと感想を語りだした。

「あたしも二、三度しか食べたこたぁねぇ……が上手いよねぇ」

「Cool(イケてる)」

ロザリーもうまそうに軍鶏を食べている。

「Go ahead(どうぞ)」

鉄はロザリーの器に追加でパンプキンパイを取り分けてやると、

「thanks♥(ありがと)」

ロザリーが受け取りながらさわさわと指を撫でて来た。

「please、Dont touch me(触んないでください)」

「NO♥(イヤ)」

さわさわさわ。ロザリーの指が鉄の手をまさぐる。

「ロザリー!なに触ってやがんだ!」

「Sharap! Don't interrupt!(シャラップ!割り込んでこないで!)」

「ムキィー!」

和やかだったパーティータイムは終わりを告げて、代わりにおとずれたのは、女同士の修羅な場面。

キャットファイトとは呼びがたい、お互いが銃を突きつける三すくみの状態。関連していないのは医師の東春だけだ。

「あんたはんら、熱うなりすぎや。頭冷やし」

「先生はだまっててくんな。いまは女として引いちゃぁいけねえ局面なんだよ」

ガチリ

美星がハンマーを起こす。

「そうさ。目の前で好いてる男を取られたとあっちゃあ、江戸っ子の恥さらしってもんだ」

お珠もファニングをいつでもできる体制に入る。

「再教育してやるわ(I'll re-educate)」

ロザリーは美星とお珠に両手に一丁づつもった銃を向ける。一触触発の状況下で打開策を打ったのは、やはりパーカーだった。

「Stop the idiots(止めんか馬鹿ども)」

飽きれたような声を上げて酒瓶をラッパ飲みして見せる。

「Put the gun in. this is an order(銃を収めい。これは命令だ)」

オーダーの言葉がつげられつげられると、皆、意味は分かっている為に動けなくなった。

「喧嘩しないでくださいよ。せっかくのパーティじゃないですか」

鉄之助も説得しようとするが、

「鉄さんの態度がいけねんだ!あたしらはヤキモキしてるんだぜ」

「同意するわ。でも、そんな態度も好き」

「ロザリー。いますぐその軽口をやめろ。でないと引き金を引いちまう」

「あんたの弾なんて当たるわけないわ。アンタに銃の扱いを教えたのはあたしよ?」

「挑発スルでない。今一度、命令する。銃をしまえ」

ドンと強めに置かれた酒瓶の音でやっと全員がハンマーを戻した。

「今回だけよ。パーカーさんの命令だから、見逃してあげる」

そう言ってロザリーは部屋を出て行き。

「てやんでぇ。そっくりそのまま返してやらぁ」

美星もそのまま、どっかりと腰を下ろしてそっぽを向く。

「ちっ!爺様の命令なら仕方ねぇ」

お珠もホルスターへ銃をしまいながら部屋を出て行ってしまった。

しかしこの事態を止めたことに一人感心するものが居た。東春である。

(なかなか、肝のすわった爺様や。がならず、ことをおさめるとはやるやないの。この中で要はこの爺様や。間違いない)

東春は明晰な頭脳で、誰が一番中心にいるのかを瞬時にはじき出す。


ともあれ、おそらく日本で初になるであろうハロウィーンパーティーはこうして秘密裏に行われ、最後はどうしようもない空気の悪さで終わったのである。

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