『公爵令嬢ティアレシアの復讐』《非公式》SS

【コミカライズ御礼/番外編】

「キスの日」


#キスの日 というタグをみつけて書いたSSです。


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「ティアレシア」


 名を呼ばれ、振り返ると従者のルディが笑顔で立っていた。

 またノックもなく令嬢の部屋に入ってきたらしい。


「こんな時間に、何の用かしら?」

 時刻は、夜の九時。

 すべての予定を終えて、あとは自室で一人のんびり過ごそうと考えていたところだった。

「今日が何の日か知ってるか?」

 ルディはティアレシアの質問には答えず、問いで返してきた。

 一応、ティアレシアは考えてみる。

 誰かの誕生日でも、大きな行事があった訳でもないはずだ。歴史的な記念日というわけでもない。

「……分からないわ。でも、今更何の日か聞いたところで何もできないわよ?」

 もうすぐ今日は終わるのだ。

 ルディは一体何がしたいのだろう。

「大丈夫だ、まだ間に合う」

 魔性の笑みを浮かべて、楽しそうにルディは言った。その表情に、なんだか嫌な予感がした。

 ティアレシアは後ずさるが、すぐにルディに距離を詰められ、


 ――ちゅっ。


 湯浴みを終えたばかりの艶やかな銀色の髪に、そっと何かが触れた。

 それが何かは分かっていたので、瞬時にティアレシアの顔は熱くなる。

 ティアレシアが動けずにいると、ルディはにこりと笑って額にもキスをした。


「今日は『キスの日』らしいですよ、お嬢様」


 そう言って、ルディはティアレシアの目の前に顔を近づける。

 ほんの少しでも動けば唇が触れてしまう距離。

 逃げようとすると、腰に手を回されてしまい、身体まで密着することになってしまった。


「……は、離しなさいよ」

「お嬢様からキスしてくれたら」

 そう言って、ルディはティアレシアを抱きしめる手に少し力を込めた。

 逃すつもりはない、と言外に告げている。

「む、無理に決まっているでしょう……っ!」

 心臓がもたない。

 緊張とドキドキでティアレシアが涙目になったところで、ルディはようやく解放してくれた。

「仕方ない。俺からのキスで慣らしてやるよ」

 言うが早いか、ルディはティアレシアの頬や首筋に軽いキスを落とす。

 それだけで激しく鼓動が暴れた。ルディに触れられることが本気で嫌ではないことに、自分でも戸惑いながら。


(も、もう無理……)


 ルディの色気にあてられて、ティアレシアは気を失った。

 そんなティアレシアを横抱きにして、ルディは寝室まで運ぶ。


「ったく、警戒心は強いくせに、無防備にも程があるな」


 ティアレシアの寝顔を見つめて、ルディはふっと笑みを溢した。

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