第23話 騎士の心を力に
朝っぱらから最悪だ。
ティアレシアは起きて早々ため息をこぼす。
起きたら目の前にルディのにやけ顔があるし、何故かフランツは寝室の扉の前で固まっている。
「お目覚めですか、俺の姫」
なんてルディがフランツの前で寝起きのティアレシアの手の甲に口づけを落としたものだから、フランツは苦い顔をして寝室を出て行こうとする。ティアレシアはルディの手を払いのけ、フランツを呼び止めた。
「待ちなさい、フランツ。あなたの今後について、私は話を聞きたいと思っているの」
ベッドから降りると、何も言わずともルディがガウンを持ってきてくれる。ガウンに腕を通し、姿勢を正したティアレシアは、フランツをソファに座るよう促した。ティアレシア自身も、ソファに座る。
しかし、フランツは座らない。
「私は、昨日のことを謝罪しに来たのです。出過ぎた真似をいたしました」
そう言って、フランツは膝をつく。
昨日のこと。そう言われて、ティアレシアはフランツの腕の中に包まれたことを思い出す。フランツのことを知っているから、ティアレシアは強く拒むことができなかっただけだが、確かに公爵令嬢に対しての行動としてはよろしくない。それに、あの時はルディも現れて余計にややこしくなった。ティアレシアを引き合いに出して、ルディとフランツが火花を散らし、付き合いきれなくなったティアレシアがその場から怒って逃げ出したのだ。
その時の不敬を、フランツは律儀にも謝りに来たという。侍女の仕事のことばかりに気をとられていたために、今の今までそのことを忘れていたティアレシアは、フランツの渋面に苦笑を漏らす。
「私は気にしてないわ。それより、謝罪の気持ちがあるなら座りなさい」
命令口調でなければ、フランツは退いてしまうだろうと思い、ティアレシアは淡々と告げた。そうしてようやく、フランツはソファに軽く腰かけた。ルディは従者らしく、ソファの側に控えている。
「フランツ、あなたはこれからどうするつもりなの?」
指名手配中の、前女王の騎士。そして、十年前の真実を知る、重要な人物。
フランツは、ティアレシアにとって切り札となる存在であるはずだ。しかし、フランツ自身がそれを望んでいなければ、意味がない。
「私は……クリスティアン様が大好きな父王を暗殺したなどという濡れ衣を着せられたままのこの現状が許せません。何より、クリスティアン様が守りたかったブロッキア王国が、失われようとしていることに憤りを感じています。この国のあり方を、変える布石になれたら、と思っています」
そう語ったフランツの瞳は、強い光を灯していた。そこには、現実に絶望し、自分を責め続けていた憐れな男はもう存在しなかった。
「フランツ、あなたは騎士です。その忠誠心を捧げる主君は、誰ですか?」
ティアレシアは、真っ直ぐにフランツを見つめた。彼は、迷いなく答えた。
「私の忠誠心は、今も昔もクリスティアン様ただ一人のものです」
その答えに胸が締め付けられながらも、ティアレシアとして冷静に頷いた。
「それでいいわ。私はあなたに忠誠心を求めない。でも、少しでも私を守りたいと思ってくれるなら、この国を変えたいと思うなら、あなたの力を貸して頂戴」
ティアレシアは、冗談ではないのだと強い意志を持って話す。
(お父様、せっかく忠告してくれたのにすみません。私はきっと、レミーア神の加護を受けられないでしょう……)
悪魔に魂を差し出したから。もう復讐の歯車は止まらない。シュリーロッドが女王の座から崩れ落ち、地にひれ伏すまで。
そのために、ティアレシアには”力“が必要なのだ。ルディの悪魔としての魔力ではなく、人が決意を持って困難に立ち向かうための“力”が。フランツ一人では、きっと小さな力だろう。
しかし、彼がティアレシアの”力“になれば、時代は動く。
ティアレシアはそう確信していた。
「私にできることであれば何なりと……」
フランツが床に膝をつき、頭を垂れて、ティアレシアに笑みを向ける。クリスティアンだった時に見慣れていたその光景に、しばし思考が止まってしまう。しかし、まだ過去に思いを馳せる時ではない。
「ありがとう。早速だけれど、動いてもらえるかしら?」
ティアレシアの言葉に、フランツは頷いた。
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