第7話 激突前の駆け引きと激突
「――どうじゃ、われら
無縫院
一室に監禁されている鈴村
「……そ、そんな、警察の精鋭部隊である
「……廃寺のときは
その疑問に、
「――それはのう、わらわが『マインドサイバー攻撃』をしかけたからじゃ。テレハックやマインドウイルスといったものを駆使してのう。警察はその攻撃を
「――マインドサイバー攻撃ですってっ?!」
「――でも、それって違法行為じゃないっ!
だが、それを聞いた
「――それはない。絶対にのう。なぜなら、
「なんですって!?」
「――だから
「……そ、そんな……。テレポート交通管制センターだけでなく、
「――ここへ連れて来られる際、おぬしは目隠しされておったから気づいておらぬじゃろうが、ここは
「ええっ?! ウソッ!?」
「――おぬしにウソを言うてどうする。なにもできぬ無力なおぬしに。言うておくが、チュウニビョウなどという怪しげな妄想では、わらわは倒せぬぞ」
「……くっ……」
痛い所を突かれて、
「……アンタ、いったいなにをするつもりなの?
そして、
「――
「――でも、それは無理だって観静が言って――」
「――わらわも言うたはずじゃぞ。ある施設を使えばそれは可能じゃと」
「……ある施設って、まさか、それが――」
「――そう、この
満面の笑みを浮かべて答えた無縫院
「――
「……そ、そんな……」
「――そして、本来なら危険が伴うマインドサイバー攻撃も、
「……………………」
「――むろん、それはマインドサイバー攻撃のひとつ、記憶操作も例外ではない。
「……………………」
「――これなら、わざわざ一人一人に記憶操作装置をかぶせる必要はない。この施設からの記憶操作だけですむ。それも一瞬でのう」
「……………………」
「――あとは国民どもに、第二日本国の天皇が、
「……で、でも、それは無理だと、観静が……」
「――管理局の機能を使えばそれも可能じゃ。操作した記憶と現実が矛盾しておる人物を、管理局の機能で特定し、その人物の環境を変えてしまえばよいのだから。記憶操作で獲得した天皇の権威を駆使すれば、造作もない」
「……………………」
「――むろん、『天皇簒奪計画』を実行するにあたって最大の障壁となるのは、
「……………………」
「――フフフ。どうじゃ。わらわの立てた計画は。やはり壮大で完璧であろう」
(――ええ、確かに壮大だけど、やはり完璧とは言いがたいわね。その計画は――)
その声は
「――観静っ!?」
(――話は聞いたぜ。観静のテレハックで鈴村の視聴覚に
「――
「……そう言えば、おぬしたちが残っておったのう。すっかり失念しておったわ……」
ボソリとつぶやく
(――そういうこった。だからおまえの計画は完璧とは言えねェのさ――)
ヤマトタケルが言う。
(――首を洗って待ってな、無縫院。テレポート交通管制センターで。そこをてめェの墓場にしてやるぜ――)
「――はっ!? 待ってっ! タケルっ!」
(――安心しろ、鈴村。お前はオレが助ける。絶対に。てめェら、鈴村にかすり傷でもつけてみろ。絶対に許さねェからな――)
「――そうじゃないわっ! 無縫院がいるのは、テレポート交通管制セン――」
だが、そこまで言ったところで、
「――残念じゃったのう。伝え損ねて」
そう述べる
「――そこへむかっても、
「――久島。そっちに
(――はっ――)
久島
「――これで
「……で、でも、今このことに気づいたら、間に合うかも。テレタクだってあるし……」
「――それは無理じゃよ、鈴村。テレタクの利用に必要な施設――
「……そ、そんな……」
「――残念じゃったのう。最後の希望が絶たれて。だから大人しく待つがよい。わらわが第二日本国の天皇として君臨する瞬間を。その時になれば、おぬしは自分の意思に関係なく――否、自分の記憶にしたがってわらわを崇めるようになる。わらわが書き換えた記憶にしたがってのう」
「……………………」
「――ではその時が来るのを待っているがよい。『大神十二巫女衆』の筆頭巫女とやら」
そう言って
全身にのしかかる絶望の重圧に、今にも押しつぶされそうであった。
テレポート交通管制センターの内外に散らばっていた
その作業の指揮を執っていた久島
「――ふんっ! ヘタレなヤツらしい行動だ。同じ士族の子弟でも、龍堂寺の方がまだ立派に見えるから困るぜ」
テレポート交通管制センターの一室に潜んでいる久島
「――それにしても、バカなヤツらだぜ。たった二人でなにができるっていうんだ。こっちは四十人はいるっていうのに。しかも、計画を阻止するのにこんな見当違いなところへ来るとは。てめェら、せいぜい遊んでやるがいい。警察の
「……フフフフ。ついに、ついにこの時が来た。この世から身分制度と男卑女尊が一掃される日が。オレの人生がバラ色に変わる日が」
久島
そして、久島
第二次幕末の動乱で武名を挙げた士族の子弟として生まれ、なにひとつ不自由なく育ち、特権をむさぼりながらの将来を約束されている
しかし、それだけなら、久島
平民の上に立つ士族の子弟にふさわしく、強くて立派な人間になろうと努力しているのなら。
だが、小野寺
将来立派な軍人になって、豊かな人生を送りたかった
そしてトドメとなったのが、中学を通して超常特区で送っている、
実家の道場で過ごしていた時とほとんど変わりがなかったのだ。
その気になれば、エリート軍人として周囲から羨望の眼差しで見られる人生を送れる、非常にめぐまれた身分と教育環境に身をおいているのに、それを喜ぶどころか、悲しんでいるのだ。
将来、専業主夫になりにくくなってしまうと言う理由で……。
それを
その行動を開始したのは、そんな最中であった。
「――あの時、無縫院の話に乗ってよかったぜ。まさかあんな方法でこの世の中を変えられるとはなァ」
「――つまり、無縫院は探していたんだ。自分の目的を達成させるのに必要な手足を。そして、オレはそれに選ばれたんだ」
おそらく、
――すべては、
「――さて、無事『天皇簒奪計画』が達成したら、オレはなんになろうかなァ」
「――まァいい。それは後でゆっくり考えよう。今はあの二人を片付けるのに専念しねぇと」
もはや、久島
「――ヤマトタケル?」
「……あいつ、どこかで見たような……」
むろん、それは昨日までの間のことではない。もっと昔――そう、七年前、小野寺の道場の門下生としてそこで過ごしていた、あの時に起きた事件で――
「――いかん。今はそんなこと考えてる場合ではない。っていうより、そんなこと考える意味がねェ。どうせオレには関係がなくなるんだから」
(――どうだ。ヤツらは来たか?)
(――いや、まだ来ていない――)
施設の各所にいる
(――確かに、まだ来る気配はねェな……)
「……そろそろ到着してもいい頃のはずだが……」
不審そうにつぶやいたその時、
(――久島さんっ! ただちに管理局へお戻りくださいっ!)
それは、無縫院
(――なにがあったっ!?)
(――はいっ! 実はヤツらが――)
(――なんだとっ!?)
その
(――わかった。今すぐ部下たちを連れて戻る。それまで持たせるんだっ!)
久島
それを出した張本人である無縫院
いっこうにテレポート交通管制センターに現れないヤマトタケルと観静
『天皇簒奪計画』は順調に進捗している。あと少しで完了するであろう。にも関わらす、あの二人が気になるのだ。特にに観静
無縫院
なぜなら、このショートカットの少女こそ本当の
むろん、その事実はすでに知っている。自分の母親がその時に遺した数々の発明や
「……なかなか来ぬのう。どうしたのじゃろうか?」
(――二人の行方は?)
ちなみに、施設の管理局員は
(――わかりません。
(――
(――はァイ。どう。『天皇簒奪計画』の進捗状況は――)
聞き覚えのある声が、
「――観静っ!」
思わず声に出す
(――その様子じゃ、まだ達成はしてねェようだな――)
それは、ヤマトタケルであった。
(――そりゃそうよ。もしすでに達成していたら、とっくにアタシたちの記憶からこの件が削除されているわ。どう考えても、
(……観静、いったい、どうやってわらわのエスパーダに
(――テレハックよ――)
(――アタシがそれをアンタに仕掛けて、強制的にその状態にしたのよ。
「……くっ……」
(……それで、いったいなんの用で
内心の動揺を鎮めて、
(――なに、たいしたことじゃねェさ。目的の施設に潜りこんだっていうのに、出迎えがまったくなくてな。肩すかしを喰らったところなんだ。こっちこそいったいどういうことなんだい?)
これはヤマトタケルの返答と反問であった。
「なんじゃとっ?!」
その内容に、無縫院
(――そんなバカなっ?! すでにテレポート交通管制センターに潜入したのなら、そこで待ち受けている
(――へェ、そうなんだ。でもそんなこと言われても、いねぇもんはいねェんだけど――)
(……で、では……)
(――ま、それならそれでいいさ。それに越した事はねェしな。今からでも鈴村
(……………………)
(――返す気はなしか。わかった。もし少しでも傷つけていたら、死ぬよりも痛い目を遭わせてやる。絶対にな。それまで覚悟を完了しておけ――)
脅しには聞こえないセリフを残して、ヤマトタケルは
「……くっ、
「……だめです。
「そんなはずはなかろうっ!、
「……おそらく、
べつの
「――しまったっ! それがあったわっ! わららとしたことがっ!」
くやしげな声を上げて机をたたく。
「――
『――――――――っ!!』
その瞬間、
「――いかんっ!
「はいっ!」
指示を受けた
「――ふふふふふ。もう終わりね、無縫院」
ツーサイドアップの少女――鈴村
「――だから言ったでしょ。タケルなら必ず助けに来てくれるって。
「……………………」
「――さァ、わかったんなら今すぐ降伏しなさい。これ以上の抵抗はむ――」
「――フ、フフフ。うふふふ。ふふふふっ! ふははははははははははっ!!」
突然、
「――なっ?! なにがおかしいのよっ!?」
言葉をさえぎられた
「なにがおかしいじゃと。当然であろう。わかっておらぬのは、鈴村
「なに言ってるのよっ! さっきまで激しく狼狽してたくせに、強がってんじゃないわっ!」
「――あれは演技じゃ。忘れたのか。わらわの表の本職を」
「……………………」
「――思い出したようじゃのう。脳内記憶の完全保存機能のあるエスパーダを装着しておらぬから、忘れてもうたのかと思うたぞ」
「……また、もてあそんだのね。アタシを……」
「――ひっかかる方が悪い。こんな見えすいた演技に」
「……それでも、アンタと計画がおしまいなことに変わりはないわ。タケルが強いことにも。主力をテレポート交通管制センターに置いてきた少数の
と、そこまで言ったところで、
「――なっ?!」
喉を詰まらせたように絶句する。
無縫院
黒ずくめの少年たちが、突如そこに出現したのだ。
その数、およそ四十人。
「……どっ、どうしてこいつらが
「――なに、簡単なことじゃ。そのテレポート交通管制センターの機能を使って、そこにおる全員を
「――久島。テレポート交通管制センターの機能は無力化したか?」
「――はい。我々が
「――少なくとも、『天皇簒奪計画』が完了するまでの時間は稼げたというわけじゃな」
「――はっ」
「――では次の命令をおぬしに下す。この
「はっ!」
それを見送った
「――終わりなのは、どうやらおぬしらのようじゃのう」
「……………………」
「――
「……………………」
「――これでも、記憶は命よりも大切なものだとのたまうのか。おぬし」
「……………………」
「――記憶など、しょせんは玉石混合じゃ。いい記憶とイヤな記憶が、覚えた数だけ混在する。価値だってそれによりけりじゃ。そのすべてを覚えておく必要など、どこにあるのじゃ」
「……………………」
「……心が折れたか、ついに。では、そんなおぬしにこれをくれてやろう」
そう言って無縫院
「――観静が自作したというエスパーダ型の記憶操作装置じゃ。これで好きに自分の記憶を操作するがよい。わらわにはもはや不要じゃからのう」
「……………………」
「――どうやら来るみたいわよ。
観静
「――警察の
タケルは
「――でも、いいの。
「――こっちが知らせなくても、いずれ殺到してくるさ。だったらこっちの想定内で動いてくれた方がやりやすい。現にこっちの狙い通り、テレポート交通管制センターの機能を無力化しれくれたんだ。
タケルの説明を聞いて、
「――その点、こちらが有利になったわけね。
「――その通り。これでオレたちは二本足で移動する敵にだけ集中できるようになったわけだ」
タケルが不敵な笑みを浮かべて応えると、
「――よし、ここだな。迎撃に適した場所は」
そう言って足を止める。
闇夜に浮かぶ
「――んじゃ、手はずどおり頼むぜ」
「ええ」
なにか言いたげな一瞥を残して。
(――やはり、どう見ても似ているわ。小野寺に。けど――)
一人で中庭にたたずんでいるタケルは、後腰から二種類の武器をそれぞれの手で取り出す。
「――この状況、この条件なら、遺憾なく発揮できるな。無縫院のマンションの時とちがって」
左右の手に握った二種類の武器をだらりと下げて、ヤマトタケルはつぶやく。すると、
「――来たか」
こちらに殺到しつつある気配を感じて、それに向かい合うのだった。
「――また会ったな、ヤマトタケルとやら」
「――
あざけりをふくんだその挑発に、ヤマトタケルを取り囲む
「――鈴村は無事か?」
「――鈴村? ああ、とりあえず人質として連れてきた中二病女のことか。これもとりあえず無事だぜ。少なくとも、肉体的にはな」
「――肉体的?」
「――精神的にはどうなっているかわからねェってことさ。無縫院になにか色々と言葉責めを受けていたようだからな」
「……そうか。なら、なおさら許せなくなってきたな。てめェら、楽に倒されると思うなよ」
憎悪と怨念をこめた声調で言って、タケルは左手に持つ
「倒すだとっ!? ふっ、この
「――ふんっ! なにが強者だ。どうぜ戦闘系のギアプによって得た
「うるせェっ!! それはてめェだって同じだろうがっ!」
「――ところで、もう一人の女はどうした? てめェと一緒に管理局へ潜入したはずだが」
「――さぁな。そんなに会いたいんなら自分で捜せば。本人は会いたがってねェけど」
タケルは凄みのある表情で
「――そうか、ではそうしよう。てめェを倒してからなぁっ!」
言い放つとともに、
同時に、ヤマトタケルを包囲している一人の
前後からの挟み撃ちである。
タケルは正面から向かって来る
「――弾道見切りのギアプを
「――もらったァッ!!」
タケルの背後からせまり来ていた
しかも、前後からの挟み撃ち。
仮にヤマトタケルが、
ヤマトタケルは前後からの複数同時攻撃を個別にしのぎ続ける。
二種類の得物で、二人に対してそれぞれ斬り結んだその数は、すでに一〇合を越えていた。
「――なんだとォッ?!」
「……くっ……」
タケルが受け止めたのは十手
「……な、なんだ、こいつは……」
一人の
その場で立ち尽くす
その隙を、タケルは見逃さなかった。
またたく間に三人の
ヤマトタケルが三連射した
ヤマトタケルは、相手たちの攻撃が届かないのをいいことに、遠距離から次々と撃ちまくる。茫然としていたら、いくら弾道見切りのギアプを
「……か、数で押しつつめっ! 撃たれても死にはしないっ! 構わず突っ込むんだっ!」
あわてて下した
「……な、なぜだ。どうして倒せない。同時に攻撃をかけているというのに……」
ヤマトタケルの闘いぶりを、離れた位置から見て、
「……いったい、どうなっているんだ……」
(……『
その脳内に女子の声が響いた。
うめくようなそれは、無縫院
無縫院
(……『マルチタスク』? 何ですか、それは)
(――『超脳力』のひとつじゃ。脳内記憶の完全保存と同じく。
無縫院
『
この超脳力の特筆すべきところは、複数の物事や動作を同時に実行しても、その処理
(……では、ヤツが複数を相手に互角以上に闘えているのも……)
(……
「――いかんっ! このままでは全滅してしまうっ!」
(――白兵戦はやめて、
(――無理です。相手を包囲した状況では、同士討ちになる可能性が――)
(――ええぃっ、おのれぇっ! なら、わらわがマインドサイバー攻撃をかけるっ! 貴様らはその効果が表れるまで防戦に徹するのじゃっ!)
叫ぶように言い捨てて、無縫院
「――よしっ! ハックに成功したっ!」
(――うっ!?)
突如頭部に激痛が走る。頭を抱え、両膝と片手を床につく。
「……な、なんじゃ? この頭痛は……」
激しい頭痛に苦しみながらも、
(……ただの頭痛ではないな、これは……)
もうろうとする意識の中、思考もめぐらす。そして、ついに気づく。
(……まさか、これは……)
(――そう、幻痛のマインドウイルスよ――)
(……観静、
ショートカットの少女の名を、
(……おぬしの、仕業か……)
(――ええ。アタシのマインドサイバー攻撃よ。さっきも易々とテレハックされた事といい、ホント、攻撃は得意でも、防御は苦手のようね――)
なお、無縫院
むろん、これはエスパーダなしではできないので、
「~~おのれェ~~」
その間にも、ヤマトタケルと
むしろ、
「――くっ。いったん退けっ! 中央端末室まで後退するんだっ!」
そのように判断した
(――普段上から目線で言っておきながらこのザマかよっ! 口ほどにもねェッ!)
内心で自分の
駆け足で撤退する
両の手には二本の
「――あと少し、もう少しなんだ。こんなヤツに天皇簒奪計画を邪魔されてたまるかァッ!」
その時、ヤマトタケルは、長剣の間合いで、一人の
こちらを見ずに連射してくる青白い光線を、
その間、ヤマトタケルは、右手に持つ
「――ちっ、どっちもしぶといぜ」
タケルは舌打ちするが、その声に余裕は失われていなかった。だが、正面の黒ずくめの少年にてこずっている間に、背後からせまり来る
両者の戦いは接近戦による二対一となった。
と、並行して、
防御と回避の並列実行である。二個の思考
タケルと向かい合った
「ぐぼぉっ!」
その間、蹴り足を戻したタケルの背後から、
と、同時に、
だが、その黒ずくめの少年はただでは倒れなかった。腕を伸ばし、ヤマトタケルの右耳に装着してあるエスパーダをむしり取ってから倒れたのだ。
「――ふふふ、油断したな。オイ」
「――エスパーダさえ、戦闘のギアプさえなければ、
そして、ヘラヘラと笑いながら、これもゆっくりと相手に近づき、長剣の間合いに入る。
「――さんざんてこずらせてくれたが、勝負あったな。それじゃ、念仏でも唱えながらくたばりやがれぇっ!」
咆えると同時に振り上げた
――はず、なのに――
――タケルはこれまでと変わらぬ動きで、相手の斬撃を
「……ば、バカ、な……」
「――残念だったな。エスパーダのギアプに頼るほど、もろくはないんだよ。オレと『ケン=ジュウ』は」
地面に伏している
「……『けん=じゅう』、だと……?」
「――剣と銃を同時に駆使して闘う小野寺流
「……な、なんだとっ?! では、てめェの、強さ は……」
「――そ。日頃の修練で身につけたものさ。
タケルが告げた衝撃の事実に、
「……なら、どうして無縫院のマンションでは、それで闘わなかったんだ……?」
「――地形的に無理があったからさ。『ケン=ジュウ』は一対多数で闘うことに特化した戦闘術なんでな。狭い廊下では発揮しようがない」
タケルは悠然とした態度と表情と口調で答えるが、それが言い終わると、途端にそれらを一変させる。
「――あそこで鈴村を撃ったお前を、オレは絶対に許さねェ。本当ならもっとてめェをなぶりたいところなんだが、そんな
「……今回は、だと……?」
「――ああ。だから、次回が到来することを切に願うぜ。この程度ですむと思うなよ。アイツが名づけたこの戦闘術は、まだこんなもんじゃねェからな」
そう言い残して、ヤマトタケルはその場から走り去って行った。
戦闘中に外された自分のエスパーダを忘れずに拾って。
「……小野寺流、
すると、脳内の奥底に沈んでいたある記憶が、意識の水面に急浮上する。
「……そうか、あいつは、あの時の……」
「……なら納得が行く。あいつは、小野寺家の……」
これも苦しげな口調でつぶやくと、たどたどしい足取りで、部下である
姿を消したヤマトタケルの後を追うかのように。
その数は二十人を割り込み、劣勢に立たされていた。
わずか二人を相手に。
「――久島はどうしたのじゃっ!? やられたのかっ!?」
無縫院
「――わかりません。どうやらエスパーダを装着していないようです。おそらく、戦闘中にはずれたと思われます」
「……やはりやられたようじゃな。おのれぇっ! ようやく準備が完了したというのに、この役立たずがっ!」
それなのに、あと一歩というところで、思わぬ障害が現れたのだ。
その一人であるヤマトタケルは、
「――ヤマトタケルの『ケン=ジュウ』は、
半包囲している
「……………………」
「――来ますっ!」
室内は静まり返り、緊張感が高まる。
そしてそれに耐えきれず、号令を待たずにだれかが引鉄を引こうとした刹那――
「ぎゃあっ!」
突如上がった悲鳴によって緊張の沈黙は破られた。
悲鳴を飛ばしたのは、引鉄を引こうとしていた一人の
背後から殴り倒されたのだ。
青白色に発光する人体を形取ったものに。
「――なっ?!」
(――何者かが
である。
そして、それを具現化させた人物が操作しているのは疑問の余地はない。さらに、その人物というのも、考えるまでもない。ヤマトタケルである。観静
(――じゃが、これで
だが、
ひとつは、遠隔で具現化させることが至難なことである。仮にできても、短時間では無理である。少なくても、久島
それがふたつめの、そして致命的な欠点である。
(――よし、
無縫院
(――愚かよのう。わらわがそんな重大な欠点を知らぬと思うておるとは。伊達にあの母の娘ではないのだぞ。そんな欠陥能力で勝てると考えておるその甘さ、身を以て
両開きのドアに到着した
両開きのドアを開いた
「――ヤマトタケルじゃとォッ?!」
「……いったい、どんな方法で、こんな芸当を、一人だけで……」
それぞれの場所で、
「――二つの動作を同時に実行しても、その
「――
だが、その命令は遅きに失した。タケルはすでに
「~~おのれェェッ!」
「――相手から離れて、
それは、ヤマトタケルの奇襲を受ける前に、あらかじめ下していた命令であった。だが、その時とちがい、現在の
七本の青白い火箭がヤマトタケルに水平に降りそそぐ。
これでは、どんなに質のいい弾道見切りのギアプでも、複数の動作を同時に実行ができる
(――やったっ!)
と思ったのは、無縫院
だが、ヤマトタケルは、誰もが予想もつかない方法で火箭の集中豪雨を防いだ。
青白色の刀身を螺旋状に変化させたのだ。
ヤマトタケルにむかってほとばしった青白色の閃光は、すべて、『
「――なっ?!」
驚愕する
タケルの反撃で撃ち倒されたのだ。
……こうして、
「――あいつは――」
ヤマトタケルは焦慮に似た表情で中央端末室をみまわす。だが、彼が探し求めているその者の姿はどこにも見当たらない。
その時――
「――動くなっ!」
何者かがさけびを放った。
タケルは声が放たれた方角に身体ごと振り向く。
そこには、頭部がむき出しになっている黒ずくめの少年が立っていた。
「――助けてっ! タケルっ!」
タケルが探し求めていた鈴村
明らかに人質兼楯として使われていた。
「――武器を置いて手を上げろっ! でないと、人質の命は保障しないぞっ!」
人質を取った者としては、至極当然の要求を、頭部をむき出しにした
月並みとも言える。
人質を取られた側としては、相手の要求にしたがうと見せかけて逆転の機会をうかがうのが
もっとも、昨日の無縫院
だが、ここでのヤマトタケルは、殺人的な眼光で相手をにらみながらも、
――フリをして左手を迅速に動かした――
――その直後、
「いダァッ!」
黒ずくめ男が声を上げた。人質の首を絞めている自分の手に、噛まれたような痛みが走ったのだ。
鈴村
痛みで相手がひるんだ隙に、
「――このヤロウっ!!」
黒ずくめの少年が、怒号とともに撃ち放った
左手で指弾を撃とうとしていたヤマトタケルの目の前で。
「――ナメたマネしやがっ――」
そして、黒ずくめの少年が、第二射を、怒声に乗せてほとばしらせようとした矢先、顔面にとてつもない衝撃を受けて思いっきりのけぞった。
ヤマトタケルが渾身の力を込めて叩きこんだ右ストレートであった。
正確には、空手でいうところの右上段正拳逆突きである。
顔面を殴られた黒ずくめの少年は、折れた歯と血をまき散らしながらその場で一回転する。だが、それが止まらないうちに、タケルが振り上げた右上段回し蹴りを横っ面にもらい、さらに回転の
「……あ、ああ……」
そんな鈴村
ヤマトタケルの顔も。
鬼の形相そのものであった。
それらを認めた瞬間、
自分を誘拐、監禁した四人の暴漢が、その小屋で全員ズタボロにされた記憶が。
四人の暴漢が折り重なって倒れているその上に、一人の少年が立っている。
雷光で一時的に照らされたその両拳と顔は、暴漢の返り血で半ば染まっていた。
――七年前の光景と、
「イヤァァァァァァァァァァァァァーッ!!」
断末魔に等しい悲鳴が、中央端末室にとどろいた。
この声に、黒ずくめの少年の顔面に打ち込もうと振り下ろされたヤマトタケルの拳が、その寸前で急停止する。半ば焦点の失ったツリ目の瞳に、自我を取り戻したような光が戻る。そして静かに立ち上がると、悲鳴を上げたその主を見やり、歩み寄ろうとする。
「……こっ、来ないでっ! お願いっ! イヤァッ!!」
「……………………」
その声で歩みを止めたタケルは、仔ウサギのように身体を震わせている
(……また、やってしまったか……)
内心で無念そうにつぶやきながら。
どのくらいの時間が経過しただろうか。
代わりにヤマトタケルが立っていた位置には、記憶にある人物が立っていた。
マッシュショートと糸目をした少年――小野寺
「……鈴村、さん……」
「……だ、大丈夫ですか? いま、結束バンドを――」
「――触らないでェッ!!」
「――なに助けに来てるのよっ!
「……………………」
「――なんとか言いなさいよっ! 黙りこくってないでっ!」
「……………………」
「~~だからイジメたくなるのよっ! あの三人の女子のように~~」
「……………………」
「~~~~~~~~っ!」
たまりかねた
「――やめなさい、鈴村」
げんなりとした、だが鋭い口調の声にさえぎられる。
「……観静、さん……」
「――どんな形であれ、あの小野寺がアンタを助けに
「そんなのわかったもんじゃないわっ! 第一、なんでアタシが
両手首をひととおりさすり終えた
「……お、教えてくれたんです。ヤマトさんが、
答えたのは小野寺
「ほら見なさいっ!
「――ちょっといい加減にしなさいよ、鈴村。過去のことを差し引いても、それは言いす――」
「いいんです、観静さん」
「――鈴村さんさえ無事なら――元気になってくれるなら、それでいいんです」
「……小野寺……」
「――そう。それはよかったわね。アタシが元気なのがわかって。わかったんなら、さっさと帰りなさいっ! 帰りなさいってばっ!」
「……………………」
野良犬でも追い払うような
中央端末室のドアへ歩いて行くその足取りはとても重そうであった。
「――あ、待って、小野寺」
そこへ、
「――これを持って行って」
そう言って小野寺
「――
「……うん……」
「――いつのまにか
「……わかった……」
うなずいた小野寺
『……………………』
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