第6話 天皇簒奪計画
その日は日曜であった。
学業に精励している人にとっては休日でも、就業に従事している人によってはかき入れ時の曜日でもある。
だが、超常特区の場合、いささか事情が異ななる。
超常特区の住人たちは、そのほとんどが、十代の少年少女で構成されているので、一週間の
よって、学業と就業と休養のローテーションは、各個人のそれらに支障がきたさないよう、相互の相談によって公平に組まれてある。
つまり、超常特区の住人たちにとっては、日曜日が休日とはかぎらないのである。
超常特区の住人たちは、自分たちの立てた
しかし、
事故や事件などといった
小野寺
その結果、三人は
超常特区のどこかに建てられた建物なのはまちがいないが、ここに連れてこられるまで目隠しをされていたので、正確な場所は特定できない。
その上、記憶復元治療装置は元より、エスパーダや財布などといった所持品もすべて取り上げられた。そのため、外部との連絡も取れなければ、テレタクで逃走することもできない。監禁部屋の窓はすべて鉄板で塞がれていて、そこからの脱出も不可能である。その隙間から漏れる
三人が
いつまでも続きそうな陰気な沈黙は、だが、ついに破られた。
鍵穴にカギが差しこまれ、施錠がはずれる音が監禁部屋にひびいたからである。
監禁部屋の冷たいコンクリートの壁に、それぞれ身を寄せている
背後に数人の黒ずくめの少年たちをしたがえて。
「――ふっ。ざまァねェな、小野寺」
侮蔑をこめたその第一声に、
「――小野寺家の跡取り息子が、なす術もなく平民出身の
「――僕を知っているのですかっ!?」
「ああ、知ってるとも。なぜなら、オレはお前の道場の門下生だったこともあるのだからな」
そう言って
「――お前は――」
思わず立ち上がって声を上げたのは
無縫院
「……やっぱり
だが、そんな
「――覚えているか、オレの事を――」
「……………………」
「――覚えてねェか。そりゃそうだろうな。ただの平民に過ぎない卑しき身分のオレのことなど、
卑屈と嫌味をふんだんに盛った、それは皮肉であった。
そして大股で歩き出し、
「~~どうしててめェのようなヤツが士族で、オレが平民なんだ。てめェに劣ってる部分など、身分以外どこにもねェのに、その身分だけで――」
「――やめい、久島」
制止の声は、背後からかけられたものであった。口調は静かだが、この場を圧する威厳があった。
「……無縫院、
それを認めた
「――どうじゃ、気分の方は。
「たった今とても悪くなったところよ。だれかさんが入ってきたおかげでね」
「それは重畳なことじゃ。わらわはそれを悪くするためにここまで足を運んだのじゃから。効果があってうれしいぞよ」
「――そう。それはよかったわね。それよりも、昨夜から気になってるんだけど、その口調はなに? 尊大でババァくさいんだけど」
「普段の口調では
「それはそれは、ご苦労なことで。人の上に立つ者は、役作りもしないといけないなんて、アイドル以上に大変ね。ましてや、売れないアイドルなら、なおさらね」
「――けど、そんなことを言いにここまで足を運んで来たわけじゃないんでしょ。なにをさえずりたくて来たのよ?」
「それはもちろん、一言礼を言いに来たのじゃよ」
「お礼?」
意外な返答に、
「――そうじゃ。
「えっ!?」
思わぬセリフに、
「……やはり、そうだったのね……」
「……どういうことなの? 観静」
「――こういうことです、鈴村さん」
それに答えたのは
「――無縫院
「……盗んだって、何を?」
「――
「――世間ではそれに関する数々の業績や逸話はすべて無縫院
「なんですってっ?!」
「……本当なの? 観静……」
「……ええ。
「……すべては、九年前のあの日から始まったわ……」
観静
そんな
飯塚佐代子の研究に興味を抱き、資金提供を申し出た者が現れたのだ。
それが無縫美佐江であった。
まだ『院』の称号を授かる前の頃である。
慢性的な資金難にあえいでいた飯塚佐代子にとって、この申し出は渡りに舟であった。それにより、研究
だが、発表会の壇上で、
そしてこれらの研究成果は、全て、無縫美佐江が一人で挙げたものだと自ら主張したのだ。
学会の研究発表会に出席した科学者たちは、なんの疑いもなくそれを信じた。
観静
発表会が終わった後、
だが、母親の返答は、娘の想像を超えていた。自分はそんな研究に従事していた覚えはないと。飯塚佐代子の記憶には、
さらに、飯塚佐代子の研究所は、いつの間にか空家にされており、その中にあったはずの研究資料も、何者かによってすべて持ち出されていた。
まるで最初からそこで
当時、まだ七歳であった観静
観静
それも、本人の記憶や研究資料ごと。
記憶操作装置を使って消去されたとしか考えられなかった。
飯塚佐代子が、研究の過程でエスパーダや
無縫美佐江はそのために
いずれにせよ、無縫美佐江が盗んだ飯塚佐代子の研究成果は、無縫美佐江が上げたものとして全国に知れわたり、既成事実化してしまった。そうなってしまった以上、七歳の少女の訴えなど、単なる
「……許せなかったわ。アタシの母さんの研究成果を盗んだアンタの母を。そして、その
真相に気づいた
だが、それは容易なことではなかった。
前述の理由で、この事実を周囲の人たちに告げられない以上、協力者を得ることは困難であった。それでも、幾人かは協力を試みたが、すべて失敗に終わり、結局のところ、自分一人の力で、実母の記憶を元に戻す装置の作製や名誉挽回を行わなければならなかった。
また、
『無縫院美佐江』も同時期に亡くなっていた。その葬式は偉人に相応しく盛大で、
親類がほとんどいない自分の母親のそれとは比べるべくもなかった。
この出来事で、
この間、
そして、陸上防衛高等学校に入学してから一カ月が経過したある日、交通違反のキップを処理するために警察署に出頭した
「――母からは飯塚佐代子には一人娘がおると聞いておったが、まさかおぬしだったとはのう。苗字が異なっておったから、今まで気がづかなかったわ。どうりで見つからぬわけじゃ」
観静
「――それにしても、さすが飯塚佐代子の娘よのう。超常特区特有の恩恵を受けているとはいえ、記憶操作された人の記憶を復元させる装置を作り出していたとは」
「――受け継いだだけのアンタには絶対に作り出せない代物だけどねェ。それも、元をただせばアタシの母さんから
殺意の込めた皮肉を
「……ここまで来るのに、アタシがどれほど苦労したことか。すべては、
「――言いなさい。なんの目的で
「――それはもちろん、わらわが立てた『計画』を達成させるためじゃよ」
「……『計画』? なによ、それ……?」
「――そうじゃのう。それくらいなら教えてもよかろう。どのみち、今夜にも実行する『計画』が成功すれば、教えなかったことになるのだから」
「どういうことっ!?」
もったいつけられて、
「……もしかして、記憶操作装置を使った計画?」
その隣で
「――その通りじゃ。わらわはそれを使って、この第二日本国の真の支配者にて、全国民の至高の
「天皇にィっ?!」
「なに言ってるのよっ! そんなのなれるわけないでしょっ! 皇族でもないアンタがっ!」
「――そうよ。華族とはいえ、皇族の嫡流でもないアンタに、皇位に即く資格はないわ。たとえ、婚姻で皇族の一員になれても。皇位は男系の男子しか即けないのがこの国での決まり。鈴村の言う通り、天皇に即位するのは不可能よ」
「――そうでもねェさ」
久島
「――なぜなら、記憶操作でねじ曲げればいいからさ。そんな
『――――――――っ!!』
「――これなら、女性であるわらわが天皇に即位しても、だれ一人文句は言わぬ。そのように記憶をすり替えられておるのじゃからな。脳内記憶は、人間が思考し、行動するにあたって、まず最初に当てにする貴重な情報源じゃからのう。ましてや、脳内記憶の完全保存機能のあるエスパーダを利用しておるのなら、まずそれを疑うことはない。お前たちのように、真相を知っておる者も、記憶操作で闇に葬ればよい」
「……そ、そんな……」
言葉を失う
「――そして、現実と矛盾するものは可能なかぎり操作した記憶と整合させる。我が母が飯塚佐代子の研究所から、
「――でも、それにだって限界があるはずよ。全国規模でそんなことを実行するのは。どこかで行き届かない部分が必ず生じるわ。そうなれば、
「――その辺りは大丈夫じゃ。全国規模でそれを実施する方法はちゃんとある。だから安心して記憶操作されるがよい」
さしたる効果はなかった。
「――冗談じゃないわ。だれがアンタなんかを天皇として崇めたりするものですか。ましてや、アタシの母から
「そうよ。アタシだってイヤだわ。あんな思いを三度も味わうなんて。アンタを大巫女長として敬愛していたアタシが超大バカだったわ。観静が
「――安心せい。そんな思いはせぬ。なぜなら、その原因となる記憶も記憶操作で消去するのじゃから」
「――フフフ。本当、記憶操作というのは便利なものよのォ。都合の悪いことを他者に知られたり覚えられたりしても、これで削除したり書き換えたりすればよいのだから。芸能人の
「~~~~~~~~っ!!」
「――これさえあれば、全人類を支配することだって不可能ではない。『天皇簒奪計画』はまさにそのためのものじゃ。やはり天才じゃのう。これを思いついたわらわは。自分自身の才覚がそら恐ろしく感じるわ」
「――アンタって人はァァァッ!!」
自画自賛する
「~~記憶はねェ、命よりも大切なものなのよっ! 少なくてもアタシにとってはねっ! なのに、それをもてあそぶかのように記憶操作でいじくりまわすなんて、
「やっかいなものであるに決まっておるじゃろうが」
だが、無縫院
「――だってそうであろう。一度知られた秘密の拡散を確実に防止するには、その者を殺害する以外に方法がないのじゃから。そのために不本意な殺害を余儀なくされ、罪業を深めた人間は枚挙にいとまがないわ。いつの時代、どこの国でも」
「……………………」
「――じゃが、記憶操作さえあれば、秘密を知られても命をうばう必要はなくなる。わらわが立てた『天皇簒奪計画』も、簒奪やクーデターにつきものの流血は一切ともわなぬ。なんと、人道的な技術なのじゃろうか。技術の発展には大抵そういうものがついてまわるというのに」
両手を合わせて絶賛する
「人道的っ!? 他人の記憶を操作するのがっ!? それも、そんな身勝手な理由でっ!?」
「――これを応用すれば、一度
「なに恩着せがましいこと言ってるのよっ! そんなんで感謝するわけないでしょうがっ!」
「強がりを言うても無駄じゃ、鈴村。『天皇簒奪計画』が終了すれば、嫌でもわらわに感謝するようになる。記憶操作で操作された自分の記憶にしたがってのう」
「……くっ……」
「――そう。感謝するのじゃ。わらわの母ではなく、わらわ自身に……」
「……………………?」
「――いずれにせよ、あきらめるのじゃな。おぬしらには決して止められぬ。わらわが立てた『天皇簒奪計画』は壮大で完璧なのじゃから」
「――いいえ。完璧ではないわ」
「全国民に記憶操作をほどこすのは、やはり不可能だわ、無縫院。たとえ周囲の環境を変えても」
「おや? どうして不可能なのじゃ?」
挑戦的な口調で反問する
「――母が作製した記憶操作装置は、頭部にかぶせるヘルメット状のもので、直接対象に装着させないと、記憶操作はできないわ。アタシもエスパーダ
「――そうよっ! 観静の言う通りだわっ! 連続記憶操作事件のように、一人一人襲っては記憶操作してたら、何十年かかるかわかったものじゃないわっ! やっぱり不可能なのよっ! アンタの立てた『天皇簒奪計画』とやらはっ!」
「――それも大丈夫じゃ。とある施設を使えば、一瞬にして全国民を記憶操作することができる。だから、なんの問題もない」
「一瞬でっ!?」
「……それは、どんな施設――」
「――無縫院さま」
控え目に発せられた呼びかけにさえぎられてしまう。
この部屋へ駆けつけて来た
その
「――どうした?」
「――襲撃の準備が整いました。いつでも実行に移せます」
「――そうか。『天皇簒奪計画』もいよいよ
部下の報告に、
「――無縫院さま。それでは、参りましょう」
「――そうじゃな。ここまで来たらもはや
指示中に変更したそれに、
「――どうして鈴村だけを?」
「――なに、たいしたことではない。よい余興を思いついただけじゃ。ただこやつの記憶を操作するだけでははちとつまらぬからのう」
「……余興、ですか……」
「――案ずるな。これは人質も兼ねておる。万一にそなえての。
「――わかりました。オイ、連れて行け」
後半の科白は、ひざまずいている部下に対して言ったものである。
「イヤッ! 来ないでっ!」
結束バンドを持って近づいて来る
「――
「――では、わらわはこれにて失礼する。観静。次に会う時は、わらわが第二日本国の天皇としてじゃ。もっとも、わらわに拝謁する機会など永遠に来ぬであろうが」
「――いよいよですね。無縫院さま」
「――そう。いよいよじゃ。この『天皇簒奪計画』が成功したあかつきには、この第二日本国はわれらのものになる。もうだれにも止められぬ。フフ、フフフフフ」
「――そうですな。フフッ、フハハハハハッ!」
「……ううっ、これからどうなっちゃうんだろう……」
それらの笑い声を背中で聴いて、鈴村
監禁部屋に残された小野寺
「――しっかしよォ。何で殺さねェんだ? その方が後腐れねェのに、手間ヒマかけてまで生かして解放するのか、どうも理解できねェ。これまで記憶操作した連中にしたってそうだぜ」
捕虜を監視している黒ずくめの少年の一人が首をひねる。ガラの悪い不良のようである。
「――
隣で共に監視している別の
「――けっ。面倒くせェ。それよりも、そいつの調整は済んだのか?」
ガラの悪い少年が、テーブルで作業に従事している黒ずくめの少年にたずねる。
「――ああ。たったいま終わったところだ。これを頭部にかぶせて起動させれば、二人の記憶を書き換えることができる」
テーブルで作業をしている黒ずくめの少年は、記憶操作装置であるヘルメットを机から持ち上げる。
「……………………」
それを
「――ちょっと、小野寺、なにおとなしく沈黙してるのよっ! 早くこの絶体絶命の
「――ぼっ、僕がっ!」
「――これ以上、隠したりとぼけたりしてもムダよ。鈴村や龍堂寺の目はごまかせても、アタシの目はごまかせないわ。顔と声と髪型を変えてもね」
「……えっ?」
「――アタシはすでにお見通しなのよっ! アンタの正体がヤマトタケルだってことはっ!」
「――!」
「――さァ、タケル。さっさとこの窮地を脱しなさい。このままだと、鈴村がどんな余興でもてあそばれるか、わかったもんじゃないわよっ!」
「……
「――ふっ、なにをほざいてんだ。その状態でなにができる。ホラ、とっととやっちまいな」
ガラの悪い少年が、ヘルメットを持った黒ずくめの少年をけしかけるようにうながす。
「……………………」
「――コラッ! なにやってるのよっ! 早くしてってっ!」
突如、監禁部屋のドアが開いた。
まるで蹴破られたかのように、激しい音を立てて。
それに驚いて振りむいた黒ずくめの少年の一人が、顔面に殴打を受けてもんどり打つと、二人目も間髪入れずに蹴り倒される。三人目が相手を視認した時にはアゴをはね上げられ、最後の四人目にいたっては
あっという間とはまさにこの事の、電光石火の奇襲劇であった。
四人の黒ずくめの少年を倒した者は、その全員が気絶していることを確認すると、椅子に縛られている二人に身体ごと顔を向ける。
陸上防衛高等学校の
「――ヤマトタケルッ?!」
「……えっ、ええっ、えええェッ!?」
そして、目の前に立っているツリ目の少年と背後に座っている糸目の少年を交互に見やる。
困惑に揺れた表情と声で、慌ただしく。
同一人物だと思っていた小野寺
「……う、ウソ……」
「――ホラ、お前たちのものだろ、これ」
そう言って、タケルが
「――これがないと色々と困るだろ」
言いながら、タケルも、テーブルに置いてある
「……ウソでしょ……」
無意識に、かつ反射的にそれらの所持品を受け取った
「――記憶復元治療装置と記憶操作装置はある? どちらもエスパーダ状なんだけど」
ようやく我に返った
「……おそらく、無縫院が持って行ったんだわ……」
「……アタシが苦労して作った物を……。
そう言って床に転がっている
「――とりあえず、
その結果を、
「――そしたらお前たちは警察に通報して保護してもらえ」
「……ア、アンタはどうするのよ?」
「――鈴村を助けに行く。このままだと、
「……こちらの状況を把握してるんだ、アンタ。でも、それも含めて、どうやってアタシたちの居場所がわかったの? たった今助けに来たばかりなのに。第一、アンタ何者? アンタが小野寺じゃないとしたら、アンタ、いったい……」
「――観静さん。今はこうしている場合ではないと思います。一刻もはやく鈴村さんを助けに行かないと」
小野寺
「……そ、そうね。こんなところで詮索してる場合じゃないわ。一刻もはやく
最終的には同意する。表情にどこか釈然としないものを残して。
「――どんな方法で全国民に記憶操作をほどこすのかはまだわからないけど、これ以上、
「――だから、アタシも行くわ。タケルと一緒に」
その旨を、本人に伝える。それを受けた本人も一瞬ためらうが、
「……わかった」
こちらも最終的には了承した。
「――じゃ、小野寺は警察に保護してもらえ。オレと観静は鈴村を助けに行く」
「――うん。わかった」
タケルの指示に、うなずいて応じた
「――オイ、待てっ! まだ
それを、ヤマトタケルが慌てて追う。
「――小野寺は一歩も動く必要はないわ。テレタクを使えば、一瞬で警察署に行けるじゃない。エスパーダとアタシたちの『眼』があるんだから。わざわざ動き回って
「――あ、そうだった。脱出って言うから、つい――」
「――それでは、僕は警察に行ってこの事を知らせます。二人とも気をつけてください」
その後、
二人になったタケルと
「――しかし、
タケルは焦慮をにじませた声で独語すると、
「――大丈夫。大体の見当と想像が、徐々についてきたから。
「ホントかっ?!」
驚きの声を上げたタケルは、すぐにそれを収め、
「――よしっ! ならただちにテレタクで移動の準備を――」
自分のエスパーダに手を置き、テレポート交通管制センターに
「――繋がらないっ!?」
ふたたび驚きの声を上げる。ついさっき小野寺をテレタクで瞬間移動させた時には繋がったのに、今になって繋がらなくなってしまったのだ。それは
「――この一帯にESPジャマーは検出されてないのに、テレポート交通管制センターにかぎらず、どこにも連絡ができない。まちがいないわ。
状況を把握した
「――だとしたら、急いだ方がいいな。
タケルが先程よりも一段と焦慮をにじませた声で言う。
「――けど、そのための移動はどうやって。テレタクは使えないし――」
「――なるほど。それね。それなら、普通に走るよりも速いし、時間の節約にもなる上、体力も消耗しないわ。消耗するのは精神エネルギーだけで」
「――そういうこった」
タケルは不敵な笑みを浮かべて応じる。
「――あと、もうひとつ、オレも思いついた事がある。聞いてくれないか」
そして、そう前置きすると、その内容を
「――おとりに使うのね」
聞き終えた
「――ああ。この際だ。使えるものは何でも使おう」
「――でも、これをどうやって知らせるの? 連絡手段はたったいま尽きたのに」
「――なに、簡単さ。ここに置手紙すればいい。小野寺が知らせに行ったんだ。いずれここにやってくる。ここ経由になるから、多少は時間がかかるかもしれないが」
「――そうね。それでいこう」
「――なんじゃとっ?!
無縫院
(――も、申し訳ございません。ただちに追跡し、捕縛しますゆえ――)
報告者である
(――必要ない。捨て置け――)
(――今あの三人にかかずらわっておる
いらだちの
「――ふんっ! 残念だったわね、この
その背中を、悪意に満ちた声がたたいた。
ツーサイドアップの少女――鈴村
いま二人の少女は、とある施設の一室にこもっている。
そこで無縫院
「――これで
「――それは良かったのう――と言いたいところじゃが、ヤマトタケルや警察の介入も、わらわの想定内じゃ。すでに迎撃準備も整えてある」
その迫力に、
「……だ、だけど、それでも、ヤマトタケルならここまで来てくれるわっ! アタシを助けに、必ず。だって、ヤマトタケルは
「――そうか。おぬしはヤマトタケルを信じておるのか。
「アイツの名前なんか出さないでっ! 聞きたくもないわっ!」
「――おやおや。確か小野寺も
「それは
「それはすまなかったのう。なにせ、これまでに例のないことじゃったから。わらわもいまだ原因がつかめず、戸惑っておる。むしろ、なぜそうなったのか、わらわが知りたいくらいじゃ」
「あやまってすむんなら警察はいらないわっ! どうしてくれるのよっ、この記憶っ! これから一生抱えて生きていかなくてはならないのよっ! こんな屈辱にまみれた――」
「――なら、わらわがそれを取り払ってやろうか。記憶操作で」
「――えっ?!」
「……き、記憶操作で……」
「――そうじゃ。おぬしの言う通り、確かにこれはわらわの責任じゃ。イレギュラーな事態とはいえ、そんな理由で納得がいかぬのは当然のこと。ならばその責任、取らせてくれぬか」
「……………………」
「――あの時、闇夜の路地裏でおぬしが言うておった『アレ』とは、七年前の出来事や、小野寺に尽くしてしもうた自分の記憶のことを指すのじゃろう。確かに、おぬしからすれば、イヤな出来事であるし、屈辱であろうな。忘れたい気持ちも、わららにもわかる」
「………………………………」
「――じゃが困ったのう。おぬしにとって、記憶は命よりも大切なもの。『アレ』とてそのひとつじゃ。なのに、それを記憶操作でみだりに変えたり消したりしてしまうのは、おぬしの意に反する行為。はて、どうしたものか――」
「………………………………………」
(――フフフ。迷うておる迷うておる。以前から言うてみたかったのじゃ。一度目の記憶操作に引き続き、二度目になっても、記憶は命よりも大事なものだと、綺麗事をのたまうヤツが、覚えたくもない記憶を覚えさせられた後、この誘惑に勝てるかどうかを――)
(――あの時の鈴村なら、なんの迷いもなく受け入れたであろう。命よりも大切なものと言うても、しょせん、口先だけのことなのじゃから。じゃが、今はどうじゃろうか。記憶操作で不快な記憶を消去されたばかりに、同じあやまちを繰り返すハメになったのじゃ。考えなしに飛びつくには、さぞ抵抗があるじゃろう――)
「………………………………………………」
(――フフフフフフ。よい余興じゃ。鈴村が困惑する有様は。記憶操作でもてあそんだ時よりもおもしろい。これこそここまで連れて来た甲斐があったというものよ――)
悦に入る
(――無縫院さま。警察が施設にやって来ました。予定よりやや早めですが――)
(――施設とはそちらの施設にか?)
(左様です)
(――では予定通りに対処しろ)
(はっ)
短く言い残して
「――鈴村、おぬしにもいい余興を見せてやろう」
そう言って
「――
「……………………」
浮遊群島である超常特区は闇夜の支配下に置かれている。
だが、それに反して、二車線道路に面した商店街は、むしろ昼間よりも明るくなっていた。
歩道を照らす街灯や、それに沿って立ち並ぶ店舗や施設から発せられる明かりによって。
人通りも昼間よりも多く、店舗や施設の出入りも同様であった。
無論、それは復旧の終えたばかりの
「――はぁ~っ。よかったァ。なんの異常もなくてェ」
一人の少女が、安堵の一息をつきながら
後髪を二つに結った背の低い少女である。
「――ホントよねェ。
並んで玄関を通過したもう一人の少女も、その少女と同じ口調で同意する。
こちらは長い髪を首元で結んだ背の高い少女である。
この二人の女子は、陸上防衛高等学校に在学している二年生で、
もっとも、やり取りというより、コントに近かったのが、二人の正直な感想であったが。
「――うん。どのギアプも破損や欠損もないわ。もしそうなっていたら泣いていたところよ」
「アルバイトでせっせと稼いで買ったギアプだもの。買いなおすハメにならなくてよかったわ」
小柄な少女の言う事に、大柄な少女は心からこれも同意する。
技能付与アプリケーションは、
「――それじゃ、さっそく新たなギアプを購入するとしましょうか。
小柄な少女は
「――今は無理よ。
「――できたわよ。なんの支障もなく……」
「……え、ウソ……」
大柄な少女は、小柄な親友の言葉に驚きながらも、自分もエスパーダに手を添える。
「……ホントだ。
「――きっと回線が込んでて一時的に重くなってたのよ。たまにあるわよね。そういう事」
小柄な少女は肩をすくめる。
「――それじゃ、あたしはテレタクで帰るわ。明日早朝部活だから、早めに寝ないと――」
そして、大柄な少女に告げると、エスパーダにふたたび手を置いて
「――あれっ!? 繋がらないわ」
それを聞いて、大柄な少女は自分も確認する。しかし、その結果、
「……でも、そこだけよ。繋がらないのは。そこ以外の
「――なんでなんだろう」
小柄な少女は首を傾げる。
「――きっとそこだけがなんらかの異常が発生したんだわ」
結論を下したその口調は、断言に等しかった。
「――テレタクを運営する施設、『テレポート交通管制センター』で――」
八階建てのビルであるテレポート交通管制センターの玄関付近には、警察の
――
それを受けた警察は、まずはそこへ向かおうとしたが、その際にトラブルが生じた。テレタクが使えなくなってしまったのである。
「……静かやな、不気味なほどに……」
そこで陣頭指揮を執っている龍堂寺
「……ホントですね……」
そばに控えている部下の保坂
「……少なくてもイタズラじゃなさそうや。
「――こないなところで考えあぐねいてもラチがあかへん。突入しろ。慎重にな」
組んでいた腕をほどくと、部下に命令する。
命令を受けた先頭の
(――やはり変や。二十四時間稼働しておかんとアカン施設やのに、まるで閉店ガラガラや)
そう判断した
その間にも、先頭部隊は施設の奥へと進む。それに後続の隊員たちが続く。
「――それにしても、
隊員の一人が、施設の廊下を歩きながら誰となくたずねる。
「――解決はしたが、その残党がまだどこかに潜伏しているという話だったぞ。廃寺の
もう一人の隊員が、その質問に答える。
「――けど、その数はわずか五、六人だと聞いたが。もしこの施設が
「――本当にこのセンターは
「――やっぱり
「――別に
(――私語はつつめ。任務中やで――)
薄暗い廊下がどこまでも続いている。
その途中に階段や十字路があり、そこに到達する都度、部隊は枝分かれして多方面へ進む。
今やテレポート交通管制センターは、警察の
各室のドアを開けて内部を調べるが、それでも
「――どこに潜んでいるんだろう。防犯カメラはどれも機能してないし、お前、わかるか」
隊員Aが、廊下を歩きながら、ペアを組んでいる同僚の隊員Bを顧みずに訊く。だが、隊員Bからの返答はない。
「――なァ、どう思――」
隊員Aが再び訊きながら肩越しに振り向くと、そこに映った光景に
背後にいたはずの隊員Bが、全身黒ずくめの姿に変わっていたのだ。
紺色の戦闘服を着た
「――ブッ、
驚いた隊員Aはあわてて
――と、思いきや――
「――えっ?! どうしてお前なんだっ?!」
自分が斬り倒したはずの
「……い、いったい、なにがどうなって……」
後ずさる隊員Aの背中に、焼けるような衝撃と激痛が走った。斬撃による衝撃である。隊員Aは前のめりに倒れ伏す。そして、隊員Aを背後から斬り倒したのは、同僚の隊員Cであった。その直後、隊員Cは、黒ずくめの少年を斬ったはずの隊員Aと同じ
「――なんやっ!? いったい何が起こっとるんやっ! 敵味方を見間違うなんてっ! 誰か報告せいっ!」
「――オイ、保坂っ! なにが起こっとるんやっ!」
「……す、少し待ってください。ただいま分析しているところですので……」
保坂は落ち着きを保った声で応じる。エスパーダに触れながら。そして、少し待った結果、
「――わかりましたっ! 同士討ちの原因がっ!」
それが判明し、声を張り上げる。
「――マインドウイルスですっ! 隊員たちが幻覚のマインドウイルスに感染してしまったのですっ! それも、
「なんやとっ?!」
今度は龍堂寺
「――そんなバカなっ!? そないなことあり得へんっ! 絶対にっ!」
それに加えて、
「――いったいどないなっとるんやぁっ! マインドウイルスの流出の看過といい、管理局はなにをしとんねんっ!」
「……それが、
保坂が困惑の表情で上司に報告する。
「そないなはずはあらへんっ!
(――『
保坂が沈思の末に思い当たるが、それは口にせず、別のことを上司に進言する。
「――とにかく、隊員たちにワクチンウイルスを投与します。このままでは同士討ちで全滅してしまいますので」
「……せ、せやな。ただちに投与せい。急げっ!」
その提案を受けたことで、
その頃、
「――あれっ!?」
施設内に潜入中の
青白色の刃を交えていた黒ずくめの姿が、
「……お前、
「お前こそっ!? いったいどうなってるんだっ!?」
同士討ち寸前であった施設内の隊員たちは、混乱しつつも、とりあえず刀身を収める。
(――幻覚のマインドウイルスですっ! 施設内の隊員たちがこれに感染して、
保坂が、彼らに
(――一応、ワクチンウイルスを全隊員に投与しましたので、幻覚は収まった筈ですが……)
(――そんなバカなっ!? こちらのマインドセキュリティレベルは最大なんだぞっ! なのにどしてこうもやすやすと感染するっ!?)
施設内の隊員Dが疑問の声をさけぶ。
(――おそらく、
説明していた保坂が、それに答えかけたその時、突如
(――オイ、どうしたっ!? オイッ! どうしたんだっ!?)
隊員Dが繰り返し呼びかけるが、応答はない。
「――くそっ!
「……ESPジャマーでも撒かれたのか?」
傍にいる隊員Eが推測する。先程、隊員Dと同士討ちするところだった、その同僚である。しかし、隊員Dはその推測を否定する。もしこの施設内にそれが散布されたのなら、『
「――なら、それで隊長や他の隊員たちに連絡を――」
隊員Eが提案するが、それは不可能だと、隊員Dは答える。
「……マインドウイルスの感染に、
隊員Eは不安に満ちた表情で廊下の向こうを凝視する。すると、その目の前に二人の黒ずくめの少年たちが出現した。
なんの前触れもなく、突然に。
「――なっ?!」
隊員Eは反射的にバックステップして、せまり来る青白色の刃を紙一重で
黒ずくめの少年の一人が振るった
廊下を滑るように着地した隊員Eは、右手に持っている
「――幻覚じゃねェッ!
隊員Eが苦々しい表情と口調で叫ぶ。かすった感触と気配から見て、今度こそ間違いなかった。
テレポート交通管制センターを占拠している
施設中に散開している
むろん、この施設の機能を使って現れたのである。
「……そうみたいだな。こっちにも現れた……」
隊員Dも、背中合わせになった隊員Eとおなじ表情と口調でつたえ、おなじ構えを取る。その視線の先では、二人の黒ずくめの少年たちが、
反対側からも、二人の黒ずくめの少年が、同様の得物を持って徐々に相手との距離をちぢめる。
「――いったいどうやって
隊員Eが疑問を呈する。
「……視覚ならあるじゃねェか。オレたちのが……」
隊員Dの返答に、隊員Eは舌打ちする。
「――くそっ! 今度は
「……ああ。好き放題されているぜ、オレたちはよォ……」
そう述べる隊員Dの表情や口調に苦々しさが増す。状況は圧倒的なまでに
「――目の前の敵を倒すしかねぇ。行くぞっ!」
言うがいなや、隊員Eは
隊員Dもほぼ同時に床を蹴る。
「――であぁぁぁぁぁぁぁっ!」
隊員Eは気合いのおたけびを上げながら一人の
二合、三合、四合。
両者が青白い刃で
剣術を含めた戦闘の技量では、明らかに
むろん、それはエスパーダにインストールした戦闘と剣術のギアプのおかげであるが。
それに対して、目の前の黒ずくめの少年のそれは、廃寺で戦った
(――よしっ! 勝てるっ!)
隊員Eはほくそ笑みを浮かべる。だが、側面に回り込んでいだもう一人の
(……くっ。二対一では……)
守勢に回った隊員Eは、一転して苦しげな表情になる。ギアプを使っているとはいえ、戦闘の技量では
……こうして、施設内の
「――ええいっ! 一体どないなっとるんやっ!? なぜ隊員との連絡がつかへんっ!?」
龍堂寺
「――だめです、隊長っ! 何度ためしても
それは報告した部下の楢原の悲鳴も同様であった。
「~~しかたあらへん。ワイらも施設内に突入する。おまいら、続けっ!」
そう言ってテレポート交通管制センターの玄関に向かって駆け出す。それに保坂や楢原などの直近の部下たちが続く――
――と思ったが、
「――どしたっ!? はよついて来いっ!」
龍堂寺
「――なっ?!」
度重なる不測の事態に、今度は茫然と立ちつくす龍堂寺
その人影は黒のジャケットと黒のスラックスを身にまとっているが、頭部だけは外気にさらしていた。
「――ふんっ、
「……おのれは、真理香はんのマネージャー……。まさか、おのれが、
「――おのれェ、警察をダマしておったんかいっ!」
「――ま、そういうことになるな。だが、ダマされる方が悪い。士族が平民ごときに」
「――いつからそこにおったんやっ!? それもいつの間にっ! 今までワイらの背後に潜んでおったんかいっ!」
「――何を言うかと思えば、そんなわけねェだろう。
「アホなこと言うなっ! この状況でそないなことできるわけあらへんやろうがっ!」
「――さァ、どうしてかなァ。それは自分で考えてみることだなぁっ!」
「~~おのれらチンケな犯罪組織ごときに、超常特区の治安を守る警察が負けてたまるかっ! 返り討ちにしたるっ!」
「――なるほど、技量ならそっちの方が上か。さすが士族の子弟。資質や適性もさることながら、戦闘系のギアプをエスパーダにインストールしているだけの事はある。
だが、
「――どこを狙っとるんやっ!」
(……くっ、なんや。急に身体が重うなって……)
その剣
「――どうした。斬撃に
それに対して、
「……おのれ、ワイになにをしくさったぁっ。別のマインドウイルスでも注入したんか……」
「――なんだ、もう終わりか。ギアプを失っただけでここまで弱体化するとは。それでも士族か」
相手の質問には取り合わずに、
「……答えんかい。ワイになにをしたんやぁっ?」
「――なんじゃ、そんなことさえもわからぬのか。相変わらず愚鈍じゃのう」
その声は龍堂寺
口調は異なるが、聞き覚えのある声に、
全身黒ずくめの姿だが、頭部だけは外気に素肌をさらしていた。
そよ風でなびいているストレートロングの髪も、闇夜の色に同化したかのように黒い。
「……あ、あんさんは、まさか……」
「――おぬしの卓越した戦闘技能は、エスパーダの技能付与アプリケーションによって引き出されたもの。それをインストールしたエスパーダを破壊ないし外されたら、その装着者の技能は素の状態に戻ってしまう。つまり、ギアプのない状態にな。それに依存し切っておる、素の技能が低いおぬしに、おぬしらと同じギアプを使用しておる
「……そ、そんな、バカな……」
「部下とギアプを失ったおぬしに、もう勝ち目はない。大人しくわららに膝を屈するがよい」
だが、龍堂寺
「……ど、どうして、あんさんが、
「――おぬしにはまこと感謝しておるぞ。警察内部の捜査情報を、
「なっ?!」
「――そして、警部たるおぬしに植えつけたこともな。ほんに、よく踊ってくれたわ」
「……う、植えつけたって、なにをや?」
「――むろん、記憶操作で植えつけたニセの記憶じゃよ」
「――――――――っ!?」
「――わらわがアイドルとして個人的におぬしにしてやった、おぬしが覚えておるその記憶こそ、まさにそうじゃ。おぬしがわらわの熱烈なファンになる契機となったあの出来事ものう。でなければ、だれがおぬしのような下郎にこんなおぞましい記憶を植えつけ、ファンにしたてあげたりするものか。これは、記憶操作を使った一種のハニートラップじゃ」
「……な、なん、や、と……」
次々と突きつけられる衝撃の事実や真実に、
「――フフフ。さぞショックであろう。このような事実や真実を告げられて。じゃが安心せい。そんな不幸な記憶、すぐに忘れさせてやる。これまでわらわに尽くしてくれた礼として」
無縫院
(――やれ――)
と、
『……………………』
しばらくの間、テレポート交通管制センターの玄関口付近に沈黙の風が流れる。
「……あれ? あんさんは……?」
龍堂寺
「――テレポート交通管制センターの管制員じゃ。おぬしの
「――ここで
「……そう、やったのか……」
「……あの、それで、ワイはここで、なにを……」
「――なにも覚えてないのかえ?」
「……せや。なんも覚えてへんのや。なんでやろ……」
「――ならよい。久島――」
「――どうやら成功したようですね。最高のマインドセキュリティレベルを持つ、警察の
「――それも、直接記憶操作装置をかぶせずにのう。龍堂寺の部下たちの記憶操作も、それに成功したそうじゃ。セキュリティ機能のあるエスパーダを装着した状態で。たったいまおぬしの部下から報告があったぞ」
「――これにて、最後の実験は完了じゃ。あとはこれを全国規模で実施するのみ」
「――では、もう――」
「――そう。成功したも同然よ。『天皇簒奪計画』は――」
「――では戻るとしようか。そのカギとなる施設へ」
何人かの気絶体を、その場に残して。
「――ちっ、結局、全滅しちゃったわ。まったく、ホンット役に立たない連中よね」
エスパーダから手を離した観静
「――ま、仕方ないわ。先日の廃寺の突入時にはあった様々な
しかし、その後、おだやかな口調で言いなおす。
「――いずれにせよ、
先行するヤマトタケルが、事態を簡潔に要約する。
二人は今、市街地の二車線道路の左脇を、タケルはホバーボート、
いま二人がそれぞれ乗っている
これがなかったら、おそらく間に合わないであろうから、それらをすぐに見つけられたのは
「――警察をおとりに使えば、
「――ま、否定はできねェな。警察が犯罪者に負けてしまっては、警察の存在意義がない。このザマじゃ、鈴村の中二的野望も笑い飛ばせられねェぜ」
と、二人は酷評する。悲惨なまでの信頼の無さである。これも事実なので仕方ないが。
二人は減速して青信号に変わった交差点を左に曲がると、目的地へと続く脇道に入る。そこで、ヤマトタケルが言う。
「――まぁいい。
「――それを増幅させるためにも、
「――ああ。もちろんだとも。それじゃ、頼むぜ、観静」
タケルがイタズラ小僧のような笑みを浮かべて言うと、
目的地はすぐそこであった。
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