第5話 奪還、決意

「ウチの店の客足が途絶える中、返すアテがなくてもいくらでも金を貸すという

今聞けばいかにも怪しい話だが、当時の私にはとても都合がよく──魅力的な話だった。そこで待っていてくれ、コーヒーしか無いがな」

話しながらドルスタの店······だった場所へ移動した。今では寝泊まりにしか使っていないらしいが剣を飾っていたであろう棚には埃が積もっている。

用意されたイスに腰掛け辺りを見ているとコーヒーを持ったドルスタが奧から出てくる。

「ありがとう」コーヒーを受け取ったシオンは近くの引き出しの上にある写真が目に留まった。

「これは?」写真を見ながら声をかけるとドルスタは後ろからその写真を手に取って言った。

「昔、娘と撮った写真だ。今となっては娘を見ることも出来ないからこの写真は宝物みたいな物なんだ」額縁に積もった埃をそっと指で撫でながら引き出しに戻すとシオンの横へ同じイスを用意し座った。

ドルスタはふっと息をつき「さて、」と話を始める。

 「私は、金を借りた。そしてその数週間後、どうして奴等が私のような人間にでも金を貸していたのかを理解した。奴等の目的は最初から“私の娘„だったんだ」


そこまで聞いて、やっと話が繋がった。


シオンはボソリと呟く───「その金貸しとトルクファミリーはグルだったと」

もう何度その仕草を見たか分からないがドルスタはまた無言で頷く。

「それから利子がどんどん膨れ上がっていき、返せなくなった金の変わりにと娘を要求された───とはいえ、最初から『はいどうぞ』と娘を渡す親なんていない。だから要求を断り続けていた最中、今回の件が起きたんだ。今さらこんな私が娘に顔向けする資格なんて······


うつむくドルスタにシオンは冷静に言葉を示す。

「少し前にも同じことを聞いたが······ならこのままでいいのか?」それに対してドルスタは即答する。

「言い訳ないだろ!!だが私にはもう奴等に返す金も、娘を取り戻す権力も、武力もない······」

「だから?」

「だから!?」


「君は人の話を聞いていたのか!私にはもう、娘を救う手段が無いんだ!」

「アンタこそ俺の話を聞いてたのか、会話の内容を思い出してみろよ」


そう言われてドルスタはシオンと会ってからの会話を思い出す。そうだ、確かにこの少年は“あること„私に言った。

しかし、そんな事が可能なのだろうか、否、私はそれを一度否定した。だがこの状況で少年が言わんとする事はもはやそれしか無いだろう。


ドルスタは言った。


「娘を助けに行く?」

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