超特別少子化対策特例条約につきましての凡ミス
ちびまるフォイ
みんなが求める人間性
【超特別少子化対策特例条約(通称:人間養殖法)】
同じ受精卵をいくつも複製し機械により生育。
異なる環境で成人するまで大きくした後、
最適な者のみを残して間引くもの。
「みなさん、20年ぶりですね」
部屋には同じ顔と体の人間がいくつも集められた。
同じ顔なのにファッションはバラバラで統一感がない。
「あなたたちは20年前に養殖された人間です。
これから不要な人を間引いていきますので、
それぞれアピールをお願いします」
「アピールって何するんだよ!?」
「成人までみなさんはそれぞれ別の家庭で育ちました。
当然、得られる経験も知識も環境によってバラバラ。
ですからほかの自分よりいかに自分が優れているかを言ってください」
監査官は手元の紙を準備して番号を告げる。
「では、1番の人からお願いします」
「俺は、学生時代バンドをやっていました。
同じ才能を持っていたとしても情熱は誰にも負けません!」
「2番」
「俺は里親が教師だったのもあり勉強をしていきました。
一流の高校も出ていますし、勉強も大好きです!
だからほかの誰よりも社会に貢献できます!」
「3番」
「俺は自慢じゃないがものすごくモテる。
同じ体だといっても立ち振る舞いでモテるかどうかは大きく変わる。
異性に最も好かれている自分は俺だけだ」
「4番」
「俺は学生時代にスポーツをしていました!
運動神経は同じかもしれないけど、基礎体力は負けません!
それに、運動部で培ったチームワークで人脈にも自信あります!」
監査官は被験者の名前も覚えないままに番号を告げて淡々とこなしていく。
その数なんと100人。
アピールが終わることにはすでに日も落ちてしまった。
「みなさん、アピールお疲れさまでした。
まずは20人まで絞ったので番号で告げます」
「名前じゃないんだ」
「同じ名前なんだから覚えてられないでしょう。
単純に興味もないですし」
「ええ……」
監査官は番号を告げて、呼ばれた人間を近くへ寄せた。
納得いかないのは呼ばれなかった人たち。
「はい、以上で終了です。不合格だったみなさんお気の毒。
苦しまずに死ねるお薬は部屋を出て右にありますので
お忘れなく服用してください」
「待てよ! 養殖法には人数制限なんてないんだろ!?
だったら100人中100人を採用してもいいじゃないか!!」
「あなたは……えーと、41番。
ゲームとアニメの知識が豊富だそうですね」
「ああ、そうだよ」
「同じ傾向のあなたが10人以上重複していました。
この世界に同じタイプの人間を増やしても多様性は生まれないんで。
養殖法は社会をよりステップアップさせるためのものなんですよ」
「こ、こんな横暴まかり通るか!
名前も覚える気のない奴に命を否定されるなんて!!」
間引かれた不合格者を除いた合格者だけが部屋に残った。
「さて、ここからどうしたものか。
甘めに評価つけたものの20人はさすがに多いよなぁ」
他の監査官の平均としても1人が相場になっている。
「そうだ! モラルテストを実施しよう!」
監査官は残った20人を対象にテストを行った。
頭の良さとは別に人間性や性格傾向を調べるテストで、
この中でもっとも社会的に問題のない道徳的に正常な人間を絞る。
・家が火事になっている時に助ける人は誰にしますか?
― 恋人
― 母親
― 火事に巻き込まれた他人の子
― おじいちゃん/おばあちゃん
・友達の悪事を知ってしまった!あなたはどうする?
― 友達に教えて反省させる
― 黙っておく
― 周りに話して暗に気付かせる
― 自分が罪をかぶる
・好みでない異性に迫られたらあなたはどうする?
― 自分の気持ちを告げて離れる
― 相手の気持ちに合わせて付き合う
― 嫌われることして気持ちを冷めさせる
― 興味ないことを明かした上で付き合う
「はい! テスト終了です!! 後ろの人から集めてください」
20枚の答案用紙を集め終わった。
同じ体でも環境により考え方も変わるようで
回答は人によってさまざまになっていた。
「この中で点数が最もよかった人が道徳的に完璧な人間です。
スキャンダルゼロ、犯罪率0の人間として完璧な存在になります」
答え合わせしようと監査官は別室にある採点機械のところにやってきた。
ちょうど機械のメンテが終わったところだった。
「あれ? どうしたんですか?」
「モラルテストをやっていてね。採点機を使いたいんだ」
「あ、こっち使うんですね」
採点機に答案用紙を入れると、それぞれの答案に点数がついて出力された。
環境こそ違っても所詮は同じ人間。
ほとんどの人間が当たったりハズレたりで同じような点数だったが……。
「こ、これはすごい!!」
その中でもモラルテストで満点を取った人がいた。
2位以下に大きな差をつけての独走1位。
「101番を残して全員間引いてください。
いやぁ、同じ人間でもこんなに差が出るなんて!
これはこの人の環境を見習う必要があるぞ!」
不採用の養殖人間を片付けた後、監査官は合格者の部屋へと向かった。
けれど合格者の部屋には誰一人いなかった。
「あれ? 誰もいないぞ?
どんな環境で育ったのか、今後の参考に聞きたいのに……」
監査官は前の部屋や別室をくまなく探した。
それでも合格者はどこにも見当たらない。
答案用紙に書かれている名前を叫びながら探した。
「おぉーーい! 101番! 山田太郎!!
合格したんだ! いったいどこに隠れている!」
その声にやってきたのは合格者ではなく、採点機械を管理しているおじさんだった。
「あの、そんなに叫んでどうしたんですか?」
「モラルテストで100点取った超優秀な人間がいるんですが
どういうわけかどこにも見当たらないんです。
101番の山田太郎っていうんですけど、知らないですか?」
「知ってます」
「本当ですか!!」
「ええ、でもその前に……」
おじさんは気まずそうに顔をそむけた。
「あなた、答え合わせ用の答案用紙も採点機に入れませんでした?」
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