四話 冒険者ギルドにて
クレアシオンは外からみると荘厳だったが、中に入ってもかなりの迫力があった。
街には活気が溢れ、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出しつつもさびれを感じさせない。
いかにも中世ヨーロッパと言った感じだ。
俺が辺りを見渡していると、アリスが心配そうに言ってきた。
「そんなにキョロキョロして大丈夫? スリとかも多いからお金取られないようにしないと、あなた貴族なんだし」
マジかよ、スリ多いのか。
でも俺はこの世界の通貨なんか持ってないし、日本円もほとんどないからスリの心配はしなくても良さそうだな。
「ありがとう、気をつけるよ」
便宜上お礼を言っておく。
また怪しまれたくないし。
「そう言えばあなたは冒険者になりたいのよね?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあギルドに案内するわ」
「ありがとう」
一番大きい通りを進んで、突き当たったところにギルドと呼ばれるものが見えてきた。
石造りの立派な建物で、この街の中でもかなり大きい部類に入るのではないだろうか。
「さあ、中に入るわよ」
「あ、うん」
アリスに連れられ中に入る。
中に鎧を着た人、ローブを羽織った人、神官のような格好をした人など、RPGを彷彿とさせるような光景だった。
「ついてきて」
どこに行くつもりなんだ?
アリスはギルドの奥へ行き、受付のようなところで立ち止まった。
「西部の方にあるダンジョンの内部状況の報告クエスト完了しました」
そう言ってアリスはカードのようなものを受付に提出した。
「はい、ご苦労様です。では確認させていただきますね」
そう言って受付の優しそうな女の人がカードのようなものを謎の装置にスキャンした。
すると、カードのようなものが発光しながら消滅した。
え?! 消えた?! ああ、異世界では当たり前のことなのか。
「認証が終わりました。こちら報酬の5,000ルイスになります」
「ありがとうございます」
そう言ってアリスは報酬を受け取った。
なるほど、ああいうシステムなのか。
本格的だな。ってこれが本物か。
「おや? そちらの方は?」
受付の人が俺の存在に気付いた。
さて、どう自己紹介しようか。
アリスに貴族と言った手前、受付の人にも貴族と言った方が良いのだろうか。
いやでも、こういう公の場では貴族である証みたいなものを見せなきゃいけないかもしれないし迂闊に言うわけにもいかない。
適当にはぐらかしつついくか。
「えと、俺の名前はy「彼の名前はユウキカイト貴族よ」
「うぉい! 遮るなよ!」
俺が悩んでいたことをあっさり言いやがった!
どうしようこれで貴族じゃないことがばれたら。
俺がそんなことを考えていると、アリスの言葉を聞いた受付の人の表情が変わった。
「も、申し訳ございません! 貴族の方だとは知らずに失礼な態度を……」
あれ? 信じてもらえた? アリスといいこの人といい、この世界の人は信じやすいのかな?
それより受付の人が土下座しそうな勢いだから早く止めないと。
「いえいえ、全然平気ですから頭を上げてください」
「ですが先ほどの……」
「いいですって、気にしてませんから」
「ありがとうございます。本当に申し訳ございませんでした」
受付の人をなんとかなだめ、冒険者になりたいという旨を伝えた。
「でしたら、まずはジョブの適性判定をしますので、こちらへどうぞ」
そう言われて俺は別室へ連れられた。
受付の人に連れられてきた部屋。
その部屋の真ん中には地球儀を大きくしたかのようなオブジェクトが鎮座している。
地球儀との違う点を上げるとすれば、球自体が浮いているという点だ。元いた世界ではとうていあり得ない物体を見て、異世界にいるという気持ちの高ぶりが加速する。
「では、こちらにおかけになってください」
そう言われて何の変哲もないただのイスに座り、机に向かった。
机にはB6のサイズ程度の固めの紙が置かれていた。
紙を見ると、なんと日本語で書かれていた。
ご都合設定な気がするが、まあしょうがない。
少し驚きつつも、受付の人の説明を聞く。
「この紙がジョブ適性判定シートになります。この紙の所定の欄に血を塗るとその人のジョブの適正が分かります。血は一滴程度で大丈夫なので、ご安心なさって下さい」
まあ、そうだろうな。
「では、採血していきますので指を一本出して下さい」
「はい」
俺は右手の人差し指をお腹を上にして差し出した。
受付の人が針を持つ。
「で、ではいきますよ」
おや? 受付の人の雰囲気が変わったぞ?
さっきまでのクールな雰囲気とは打って変わってドジっ子みたいな感じになったぞ?
「う、動かないでくださいね」
お、お姉さん? 出来ればお姉さんがそこから動いて欲しくないのですが……
しかし、現実は無情である。
針を持つお姉さんが近づく。
心なしかお姉さんの針を持つ手が震えているように見える。いや、確実に震えている。
「いいですか、絶対に動かないでくださいね?」
もはや恐怖で動けません。
「では、少しチクッとするので我慢してくださいね」
お姉さんの持つ針が俺の人差し指に近づく。
「そーっと、そーっと」
お姉さんがつぶやく。
俺は恐怖心を紛らわすために顔を上げる。
すると、目の前にはお姉さんの顔があった。
アリスとはまた違った綺麗さがある。
アリスがクールと言うならばこのお姉さんはおっとりだ。
ああ、こういう可愛さもいいな。
これなら痛みを我慢できるかもしれないな。
プーン
ん? なんだこの音? 虫かな?
まあいいか、俺は針が刺さるまでお姉さんの顔を堪能して……っておい待て虫、お姉さんに近寄るんじゃないよ……あっ、お姉さんの鼻にとまりやがった。
すると、お姉さんの顔が険しくなる。
次に口を大きく開けた。
「待ってくださいお姉さん! 針を持ったままのくしゃみは危険でs「ハクチュッ!!」
可愛いくしゃみとともに針が俺の人差し指に振り下ろされる。
ブスッ! ブシャアアア!!
「ぎゃああああ!! 痛えええええ!!」
「わあああああ!! ごめんなさいごめんなさい!!」
俺の人差し指からギャグ漫画じゃないかっていうくらい勢いよく血が噴き出す。
「早く止血しないと!」
お姉さんが慌てながら言う。
「冒険者やってきていろいろな経験をしたけど、この光景は初めてだわ」
冷静な分析なんか要らないから助けてくれませんかねアリスさん?!
こうして俺の冒険者生活の第一歩は痛々しいものとなってしまった。
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