五話 俺、ヒーラーになります
俺の人差し指大量出血事件から十分後、お姉さんの適切な処置があったおかげか大事には至らなかった。
「先ほどは申し訳ございませんでした」
お姉さんが本当に申し訳なさそうに謝る。
「平気ですからもう気にしないでください」
痛みも引いてきたしもう大丈夫そうだ。
「それより、おれのジョブ適性はどうなりましたか?」
俺はそっちの方が気になっていた。
今後の異世界生活を左右する重要なイベント。
むしろ気にならない方がおかしい。
幸い出血したときに俺は身体の向きを変えたため、カードにぶっかけることはなかった。
所定の欄にも数滴飛び散る程度で済んだ。
「では、こちらの装置にカードをかざしてください」
そう言ってお姉さんは地球儀のような装置を示した。
俺はその装置の前に立ち、カードをかざした。
するとカードに青白い文字が浮かび上がってきた。
「ではこちらで確認させていただきますね」
そう言われ、俺はお姉さんにカードを手渡した。
「ではまず基本的な判定の見方を説明しますね」
お姉さんは説明を始めた。
「各ジョブ適性の評価はAからEまであります。Aが一番評価が高いです。適性の低いジョブで冒険に出るのは非常に危険なため、ギルドでは基本的にB以上のジョブに限り選ぶことが出来ます」
なるほど、確かに適性の低いジョブは思ったように戦えないんだろうな。そんなんで死なれても困るだろうし。
「では、これがユウキカイトさんのジョブ適性判定の結果です」
おっ、ついに結果が出たみたいだ。
よーし、じゃあ見るとするか。
ユウキカイト さんの判定結果
・ソードマン:E
・ナイト:E
・パラディン:E
・ランサー:E
・アーチャー:D
・シーフ:D
・メイジ:E
・サモナー:D
・エンチャンター:C
・プリースト:A
・クレリック:A
ジョブがかなり多かったため自分でも分かるような名前のものを確認したが、
な ん だ こ れ は
攻撃系のジョブがほぼ判定Eという結果。
そしてギルド基準の選択可能なジョブが支援系のプリーストとクレリックしかない。
なんだろうか、俺の想像してたものと違う。
もっとチート級の能力に目覚めるみたいな展開を想像してたのに、なんだこれは。
「この場合だとプリーストかクレリックを選択することが出来ますが、どちらにしますか?」
笑いながら話しているお姉さんがとても残酷なものに見えた。
どちらを選べというんだ! ゲームではまず選んだことのない職業だから違いが分からない。
ラノベでも支援系の主人公なんて見たことない。
どうする?
俺がどちらにしようか悩んでいると、アリスがアドバイスをしてきた。
「クレリックは回復系魔法に特化しているけど、プリーストは回復系魔法の他に身体能力上昇魔法が使えたりするわ。エンチャンターには少し劣る付与魔法だけど、汎用性は高いわよ」
「なるほど、じゃあプリーストを選びます」
「かしこまりました」
お姉さんはそう言ってカードに手をかざす。
するとカード全体が光り出した。
それと同調するように俺の身体も光り出した。
おお、すげぇ。
魔法って感じだな。
「はい、ジョブ選択が完了しました。ではこちらがあなたのジョブカードです。ご確認ください」
さっきまでお姉さんが持っていたカードが変化してジョブカードとなっていた。
本当に魔法ってすごいな。
俺はジョブカードを受け取り、部屋を出た。
さて、一通り手続きが終わったけどどうしよう。
「最初はどこかのパーティーに入ることがおすすめですよ」
俺の心中を察したかのようにお姉さんが言ってきた。
パーティーか、でもいきなり得体の知れないやつがいきなり入れてと言って快く入れてくれるだろうか。こんな格好をしてるし、男には珍しい支援系のジョブだし。
そんなことを考えていると、今までほぼ空気だったアリスが口を開いた。
「決まってないようなら私のパーティーに入らない? ちょうど支援系魔法を使える人を探していたの」
「本当に? 俺まだ初心者だけど」
「構わないわ、一緒に強くなっていけばいいじゃない。サポートするわよ」
ああ、女神かこの子は。
思えば出会ってからずっと一緒にいてくれたし、アリスのパーティーに入るのも悪くないかもな。
「じゃあ、アリスのパーティーに入れてくれないか? 初心者だから迷惑かけるかもしれないけど」
「もちろん、喜んで!」
アリスは微笑みながら言った。
やっぱりアリスは可愛い。
笑顔だとそれがより際立つ。
なんて見とれてる場合じゃなかった。
パーティーの人たちにも挨拶しないと。
「アリス、他のパーティーの人たちはどこにいるんだ?」
「…………?」
何ですかその「何言ってんだこいつ」みたいな顔は。
「私以外にパーティーメンバーはいないけど……」
それはパーティーとは言わないんじゃないですかね。
「ねぇアリス、今までずっと一人だったの?」
「ええ、そうだけど」
まじか、よく戦っていけてたな。
二人だといくらか楽になるかもしれないけど、それでもまだ一人ひとりの負担は大きい。
でもアリスにはいろいろ助けられてきた。ここで見捨てるわけにもいかない。
「あの、もしかして入ってくれないの?」
俺の表情から不安になり我慢出来なくなって聞いてきたのだろう。
断るつもりはなかったが、こんな顔をされたら断るに断れないだろう。
「いや、入れてくれないか? アリスのパーティーに」
「ありがとう!」
こうして俺は二人だけのパーティーに入り冒険者生活をスタートすることになった。
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