二話 ボーイミーツパラディン
俺は自分の置かれた状況が理解できなかった。
さっきまで自分の家にいたのに、白い空間に飲み込まれて、意識を失っていたのかわからないが、気が付いたら、石造りの古めかしい通路のような場所にいた。
どうしよう、学校の課題が終わってないし、
家に帰ったら読もうとしてたラノベもあったのに…。
ん? いや待てよ。 ラノベ?
たしか最近読んでたラノベに今の俺と同じような状況の主人公が出てくるものがあったな。
家への帰り道に白い光に包まれたと思ったら何故か洞窟にいたっていうラノベ。
この状況はその異世界転移系のラノベと似たような展開。
そうなると、今の俺は主人公の立ち位置だよな。
となると、この後勇者とかになって異世界で無双しちゃう展開になるのか?
そしたら俺はこの世界での人気者、今までの平凡な生活とはおさらば……。
「へへへっ」
おっと、つい笑いがこぼれてしまった。
これからの展開が楽しみすぎたよ。
しかし、この空間を抜け出さないことには何も始まらない。
まずここは何なんだ。 ダンジョンか何かか?
だとしたら、どこかに出口があるはずだ。
よし、まずはこのダンジョンのようなものの出口を探そう。
俺はそう決心して出口を探すために立ち上がり、
歩き出そうとしたとき。
ベチョッ ベチョッ
後ろから変な音が聞こえてきた。
不快感を催す謎の音。
何の音だ?
水が地面に当たったときの音に似ているが違う。
これはもっと粘度の高い液体のようだ。
想像が膨らみ、恐怖心が煽られていく。
しかし、それと同時に好奇心も出てきていた。
非現実的な空間や、自分の置かれた状況など、さまざまなものが相まって、好奇心の方が恐怖心より勝ってしまっていた。
そして、俺は意を決して後ろを振り向いた。
するとそこには、
スライムがいた。
百人が見たら全員がスライムと言いそうな形をしている。
不定型な形と若干緑がかった透明なモンスター。
いかにもファンタジーという感じがして、
少しワクワクしてくる。
でも、スライムである以上おそらくは敵。
早急に対処しなければやられてしまう。
スライムの表情(というか顔自体無いが)が分からないため、こちらを敵として認識してるか判断出来ないが、逃げるか倒すかしたほうがいいだろう。
辺りを見渡す限り武器になりそうな物は見当たらない。となると今は逃げるのが得策だろう。
いや待てよ、異世界転移系のラノベだとしたら、ここで主人公が何らかの力に目覚めて、敵を倒すみたいな展開になるはず。
つまり、俺もこの場面で何らかの力に目覚めるのではないか?
フフッ だとしたら話は早い。
今すぐこのスライムを倒すだけだ。
さっきも確認したが、武器になりそうな物は無いから、魔法でも出せるんじゃないかな。
ではさっそく、
「はぁー!」
と叫び、俺は手のひらをスライムの前に突き出した。
「…………」
おや? 特に何も起きない。
俺の予想ではスライムが木っ端微塵になるはずだったのに。
するとスライムが、
ベチョッ ベチョッ グバァ!
俺が手のひらを突き出したせいで、おそらく敵と認識したのだろう。
こちらに襲いかかってきた。
「やばっ!」
一瞬焦ったが俺は冷静になった。
魔法系の力が使えないなら、きっと物理攻撃がとんでもなく強いはず。
覚悟しろよスライム!
そう思い、俺は襲いかかってくるスライムに全力のパンチをかました。
グニョ ヌルン
なんと俺の拳がスライムをすり抜けた。
「スライム、物理攻撃効かないのかよぉー!」
素で突っ込んでしまった。
うわぁ、手がベチョベチョだ。
でも、そんなことよりどうする?
俺にはなんの抵抗手段もないことが判明した。
そして、スライムは次の攻撃を繰り出そうとしている。
ならば、選択肢はただ一つ。
「誰か助けてぇー!」
そう、逃げることだ。
しょうがないだろ! どうやって戦うんだよ!
確実に喰われちゃうよあんなの。
ベチョッ ベチョッ
まだ追ってきてる。
どうしよう、誰かいないのか?
どれくらい走ったか分からないが、遠くの方に黒い人影が見えた。
あれは、人? しかも、よくわからないけど剣みたいな物も腰にさしてるぞ。
よし、あの人に助けて貰おう。
「おーい! そこの人! 助けてくれー!」
力の限り叫ぶと、あちらはこっちを認識した。
もう大丈夫だろうと思い、その人影に近寄った瞬間。
ドンッ!!
「うぐっ?!」
お腹に強い衝撃を受けた。
え?! 俺、蹴られた?! なんで?!
そして地面に尻もちをついたとき、俺の頭上をさっきのスライムが通過していった。
ザシュッ ベチャッ
あれ? スライムが消えた。
うわっ、俺の身体がベチャベチャになってる。
すると、前の方から声がした。
「あなた、大丈夫?」
顔を上げて前を向くと、綺麗な鎧に身をまとった息をのむほどの美少女がいた。
金髪ロングにエーゲ海のようなコバルトブルーの瞳、凛とした顔立ち。
どうやら彼女が持っている剣でスライムを倒してくれたようだ。
俺が見とれているとその少女は、
「ちょっと、本当に大丈夫?」
と言ってきた。
ああ、心配そうにこっちを見ている顔も綺麗だ。
じゃなくて。
「今俺のお腹蹴ったよね?! なんで蹴ったの?!」
まだちょっとジンジンするし!
「だって、ベチョベチョした手を伸ばしてきたんだもん」
その少女は少し申し訳なさそうに言ってきた。
そういう姿も可愛いなぁチクショウ。
「それについては申し訳なかったけど、せめてお腹は蹴らないで欲しかったかな」
「うぅ、それについてはごめんなさい」
そう謝られたら誰でも許してしまうだろう。
かくいう俺もその一人だ。
「まぁ、全然気にしてないし、もう許すけど」
「本当に?!」
「お、おう」
「ありがとう!」
そう言って少女は微笑んだ。
笑うとよりいっそう可愛さが際立つ。
「そういえば自己紹介が遅れたわね」
「私はアリス。アリス・バレンタイン。ジョブはパラディンをやってるわ。あなたは?」
おお! ジョブって言ってたな。いよいよラノベみたいな展開になってきたな。
「俺は結城海斗。えーと、ジョブは……」
どう言ったものだろうか。
まず、ジョブというものは全ての人間が持っているものなのか?
だとしたら適当に言うわけにもいかないし、どうしよう。
「もしかして、あなたジョブを持ってないの?」
「うん、まぁ」
良かった。全員が持っているものではないらしい。
「なら、何故こんな所にいるの? ジョブを持ってないと、こんな所まで来られないはずだけど」
「えと、なんと言いますか、その……」
うーん、どう説明するべきか。
「それにその格好、あなた貴族か何かなの?」
よし、とりあえず貴族ということでごまかしとこう。
「そ、そう! そうなんだ。」
「やっぱり貴族だったのねあなた」
良かった。上手く誤魔化せたみたいだ。
「でもなんでこんな所に?」
もっと答え辛い質問が。
うーん、どうやって言い訳しよう。
怪しまれたら困るし…………よし、
「いやぁ、実はこれから冒険しようと思って適当なダンジョンを様子見してたら、いつの間にかこんな所まで来ちゃってね。」
「…………本当に?」
「本当だよ。信じてくれよ!」
たのむ、信じてくれ!
「…………分かったわ、とりあえず地上に出ましょうか。後をついてきて、案内するわ」
よし、とりあえず外に出られるみたいだ。
ラノベみたいな展開にもなってきたし、これからが楽しみだ!
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