第4話 声を失った青年
丘の上まで登ると、町が一望できた。
思わずその美しさに見惚れた。区画整理され、活気があり、守られた町。きっとこの町はしっかりとした領主が治めてる…そんなことが分かるような、そんな町並みだった。
「綺麗だな」
『うんうん。綺麗だね!でも、今は精霊に守られていないみたいだよ』
「え?それってどういう…」
「おい、そこのお前!」
ユノに聞こうとしたことを遮り、兵士が近づいてきた。どうやら屋敷の門兵のようだ。
「あ、ええと、…ここで、領主様の息子さんが手伝いを募集していると聞いて、参りました」
「何?お前が?」
兵士は訝しげにジロジロと俺を見た。
上から下まで値踏みするように見られ、ぞわぞわと胃がせりあがるような不快感を感じた。こういう視線は苦手だ。だって、そんなにじっくり見られたら、俺が「何もできない出来損ない」だとバレてしまう。
「ふん、まぁいい。成り手がいなくて困っていたところだ。付いてこい」
兵士は顎をくいっと屋敷に向け、中に入るように促した。どうやら話は聞いてくれるようで安心する。出来ればその手伝いとやらが簡単なことだといいんだけど…報酬の額を考えると、もしかしたら危険なことなのかもしれない。
「ここで待て」
「あ、はい」
兵士に通された客間で、ポツンと一人取り残されてしまう。きょろきょろと辺りを見回す。至って普通な、質素な中にセンスの良さが窺える部屋。調度品も華美でなく、気が散らない。落ち着いて会話できそうだ。
「ふぅ…」
『あの兵士感じわるーいっ!!』
「こ、こら、ユノ。そういうこと言っちゃダメだ。兵士なんだから、不審な奴の扱いはこうなるよ」
『でも、ユノはあいつ嫌い!ヒスイのことジロジロ見ちゃってやな感じ!』
「もう…」
ソファーに腰掛け、ユノを宥める。
ユノは、俺に敵意を向けたり嫌悪を向ける人を嫌がる。それは契約した主が貶められるのが我慢ならないからだろう。往々にして精霊は束縛が強く、プライドが高い。
「お待たせ致しました」
「あ、こ、こんにちは」
扉が開かれ、初老の男性が見えた。後ろにあともう一人…すらりと高い身長の青年もいた。二人が一緒に部屋に入ってくる。
青年はドキリとするほど整った美貌だ。腰くらいまである艶やかな銀髪は、緩くひとつで結ばれ、歩くたびにサラサラと流れるように動いた。でも、それよりも首もとの…幾重にも巻かれている包帯の方が気になった。思わず凝視してしまう。
「こちらは領主様の一人息子、グラウ様です。わたくしは執事のイゾラと申します」
「あ、はじ、はじめまして。ヒスイ、です」
「…」
慌てて腰を曲げる。この人が、息子さん…
「そちらのお嬢さんのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「えっ」
『あら、あなたユノのことが見えるのね!』
「ユノ様とおっしゃるのですね。お初にお目にかかります」
『はじめまして!ふふ、あなたはヒスイに優しくしてね?』
イゾラさんは優しく微笑みながら「どうぞおかけください」と座るよう促した。青年は無表情で、感情が読み取れなかった。
「グラウ様は火事で喉を焼かれてしまい、話すことが出来ませぬ。僭越ながらわたくしめが会話のお手伝いをさせていただきます」
「わ、わかりました」
緊張しながら、グラウさんを見る。
話せない、ということはもしかしてそれ関連で何か手伝いをしてくれ、という依頼なのだろうか。
「ヒスイ様は魔法使いなのですね」
「はい。風魔法を中心に使うことができます」
「そうですか。では、今回の依頼ですが…」
「えっ、もう俺で決まり、なんですか?」
「はい。何か不都合な点など御座いますでしょうか?」
「い、いえ…面接のようなものをしてからなのかな、と」
「いいえ。魔法使いの方にならばお願いできることです」
「魔法使いに…?」
声を失った青年を、魔法で手伝う?
それって、どんな手伝いだろう。
首を傾げていると、イゾラさんはとんでもないことを口にした。
「今回依頼したいのは、精霊の討伐です」
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