第3話 海を渡るには
「船に乗るにはこれくらいかかるぞ」
そう言いながら提示された金額に、頭を抱えてしまったのは俺が世間知らずだからなのだろうか。
『ねぇねぇヒスイ、船乗らないの?』
「お金のゼロの桁が2つくらい足りないかな…」
船に乗るためのお金が10000ゴルト。そんな大金、とても出せるようなものじゃなかった。宿屋に掲示されている依頼書を眺めるが、これを毎日1つずつこなしたとしても…気の遠くなるような日数が必要になる。
そうこうしている内にこの町にも手が回り、捕まって連れ戻されて処刑だ。目に見えている。
「参ったな…前に調べたときは、もっと良心的な値段だったのに」
落胆して掲示板の前で項垂れていると、壮年の男性が近づいてきた。
「兄ちゃん、海を渡りたいのかい」
「え…あ、はい。隣の大陸へ移りたくて」
「悪いときに来ちまったな。ここ最近海を荒らし回ってる馬鹿共がいてよぉ…航海が危ないってんで、うちの領主様が出港を制限し始めたところだ」
「そうなんですか」
曰く、ここ数ヶ月前から海賊たちが活発になり始め、危なくて航海が出来ないのだという。どうやら魔法使いを仲間に引き込んだらしく、積み荷を奪われては、身ぐるみを剥がされて海に放り出される憐れな者たちが後を立たないんだとか。
「遠回りになるが、陸路を通るのも手だな。奴らの縄張りに引っ掛からないところから海を使えばいい」
「…そうですね…」
そうすると、俺は初手で間違えたということになる。陸路を通るのも有りだけど、そうすると結局もとの場所に戻らないといけなくなる。リスクは高い。
「どうしても船を出したいなら領主様に直談判するしかねぇが、あの人は頭が固いからなぁ」
見ず知らずの俺みたいな奴が頼んだところで、状況が変わるとは思えなかった。これは本格的に別のルートを模索しないといけないかもしれない。
「あとは、金積んで船に乗るかだな。そういや、これはなかなかの優良依頼だぞ」
見せられた依頼書は、確かに他のものと比べると高額だった。思わず紙を受け取る。
「領主様には息子がいるんだが、その人の手伝いを募集しているんだってよ」
「何で俺にこれを…?」
「兄ちゃんがすごく困っているように見えたからさ」
にか、と笑い、男性は去っていった。
依頼書を見つめながら、今後のことについて考える。陸路をとるにしても、先立つものは必要だ。
『お話終わった?』
「うん。屋敷に行ってみる」
『何かあってもユノが守ってあげるからね!』
「ん、ありがとう」
頼もしい相棒と共に、ひとまず丘の上の屋敷へと向かうことにした。
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