平成二十九年十二月三十一日


みずなかおぼれていくそのさかなは、沈んでいくにしたがって、だんだん見えなくなっていく。/へいせいじゅうねんじゅうがつさんじゅういちにち出来事できごとだった。/うみみずは、すこしばかりにごっているジュースのようで、とてもうつくしい。かとおもえば、そこをとおぎる数多あまた人々ひとびともまた、薄暗うすぐらかげとしてえていく。皆様みなさま何方どちらかれるのですか。うてみても、だれからのこたえはなく。すると、ここでさみしがりだったはずのうさぎがせきったようにきはじめる。きゃあ、きゃあ、と。それは、だれかにとってとてもかなしくあって、また同時どうじにいとおしさをもかがみのようだった。奇麗きれいひとみで、無垢むくかれだれかとおなじようにいかける。あしたはどちら? と。そこに、唐突とうとつすぎるといってもつかえないくらい唐突とうとつだったかに横歩よこあるき。そしてこれまた唐突とうとつすぎるといってもつかえないくらい唐突とうとつだったかにひとあるき。ちょっとばかりさわがしい足許あしもとだった。かれこれみみつんざくようなうるさいおとなんて、ひさしくこえてこなかったはずなのに。ここは静謐せいひつ空間くうかん。そしてそのさきは、形容けいようしがたいほど荒廃こうはいしきった世界せかい。そこにえているのは、苦労くろうかさねたさきえてくる、ただただ孤独こどくいろ。いくら見渡みわたしても、まえにもうしろにも、みちはない。わかりきっていることだった。なんでもっているようなかおをしていて、また同時どうじになにもらないようなひとみもしていて。しずかえていったのは、あのひかりだった。だれにもえづらい、暗闇くらやみあいされたそのいろ名前なまえさえわからなかった。/やめてくれ。ぼくはもういないんだ。どうやったってすくえないだろう? まずきみは、じつはぼくのことがえていない。簡単かんたん方程式ほうていしきにしようとしていて、そこにいたるまでのすべての過程かていをなきものにしようとしたね。そんなに単純たんじゅんにしようとして、いったいきみ何様なにさまのつもりなんだい? もういまとなっては絶対ぜったいゆるさないからね。きみがいつかんでも、ぼくだけはきっとはっきりおもしてみせるからな。しっかりおぼえておいてほしい。/また、すべてのいろが、だれかの特別とくべつになろうと必死ひっしにもがいている。だれのせいにもしたくはなくて、その宇宙うちゅうなかまわっている。だれにもつかることはなく、ひそかにときぎるのをっている。/さかなになってえたことがある――それがえたことになるかどうかはさておいて――やはりあのひかりだった。だれられることもなくひそかえていった、そのいろもわかりづらいひかりのことだった。そのいろ意味いみなんて、べつになくていい。むしろないほうが、いろとしての機能きのうたしているがするから。すべてのいろが、えて、そしてまたひとつえて、のこされた人々ひとびとは、またさかなは、そしてうさぎは、みないなくなってしまう。そして、またあらわれる。それをくりかえしている。幾度いくどとなく、きることもなく、ただひたすらに、そして純粋じゅんすいに、いろえてなくなるまで。六億光年先ろくおくこうねんさきのあなたにも、いつかきっとえるときを、それこそただひたすらに、ずっとちわびながら。/終


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 シークレット


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 そのみずは、はげしく対流たいりゅうこしながらさけぶ。「どうしておれだけはいつもいつもこんなに……!」無理むりもない。たいへんながらくひどい耳鳴みみなりがしているからだろう。そうでなければ、あの海底かいていしずんでしまったふるびたテレビジョンの、どこまでもあざやかな映像えいぞうだけは、いまごろクリアにうつっているだろうから。/みずなかのテレビは、こんな現在げんざいとなっては、すでに動物どうぶつたちのゆめのあと。たったいまけものみみをつけた少女しょうじょたちがささめく。「きょうも一日いちにち素敵すてきなつけみみライフを!」そのこえはとても甘美かんびで、なおかつ魅惑的みわくてきはげしく脳漿のうしょうさぶられたあとにやってくる、あのなんともいえない感触かんしょくを、ついおもしそうになってしまう。しかし、すでにわってしまった時代じだいはなしだった。きっといまでも、かたくなにしんじているひとがいるかもしれない。けれど、ぼくにとっては、すでにとおゆめなかめられた、かすかな記憶きおくでしかなかったんだ。すこしでも油断ゆだんしていると、なみだかべそうになってしまいそうになるという少女しょうじょと、それでもおたがいもとめるようにゆびゆびをからめとって、そして……。そんな想像そうぞうさえも、いまのぼくにはできなくなってしまった。唯一ゆいいつおもせるとすれば、いつか見たあの少女しょうじょの、苦虫にがむしつぶしたような、とてもくるしげな表情ひょうじょうだけ。快楽かいらくなんて、はじめから存在そんざいするはずもなく。あっけなくめてしまうような、とてもみじかゆめだったのかもしれない。/なつのうだるようなあつさの中で、ぼくおもそうとしていた。きみのその、たとえていうならば向日葵ひまわりのような、とびきりの笑顔えがおを。あのころにもどれるとしたら、ぼくきみに、なんてことばをけていただろうか。いまとなっては、かおもよくおもせなくて。/快感かいかんもとめていただけのあのころのぼくらは、そのさきのことなどたいしてかんがえなくても、とりあえずはなんとかなっていたんだろう。おもえば、なんておろかしかったんだろうか。こんなことになるともらずに。/おわり


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 ステューピッドな僕と君が 次の年に鳴くよ


                        (その5・以上 2018文字)

                          (ようするに 次の年)

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