平成二十九年十二月二十五日~二十七日

 ※ 衝撃的な展開で作り話をお届けします。あらかじめご了承くださいませ。


 この白い息を、だれかとまぜあう瞬間を待っていた。


 「おまたせ~! ちょっと……じゃないね、だいぶ待たせちゃった?」


 まっさらなホワイトセーターを着た、ホログラムの君がそこに立っていた。

 僕は彼女に見覚えこそなかったものの、一瞬で親近感を覚えてしまった。


 「いや、そこまで待ってない、けどな」


 あらかじめ用意してあったかのような科白を、すらすらと口にする。

 台本なんて書く趣味なかったけど、唐突に書きはじめたくもなるような感覚。

 自分でいうのもなんだけど、とっても……。


 「ぶはっ!」

 「えっ、何?!」


 それは、とっても真っ赤な血だった。

 その血は地面につーっと流れていき、雪の積ったそこにサンタクロースを描いた。


 「うぉ~……偶然にしては、なかなか完成度の高いMr.サンタですねぇ……」

 「そ、そうかい……?」


 顔面蒼白になっている僕をあざけっているようにしか見えない、君の顔。

 こんなにシリアスな場面だし、僕のほうこそどうかしちゃってるよな、ははは。


 「で、プレゼントは?」

 「えっ……あなた、もしかしていわゆるヒモってやつになりたいんですか?」

 「いや違うけど……去年は僕があげたし、最近なんか数字がちょっと赤いから」

 「あぁそういうことね……ってあげるかーい!」

 「ぐはっ!」


 またもや鮮血をどばっと、すがすがしいくらいに吐き出すことができた。

 これがバーチャルの世界じゃなかったら僕、どうなってたんだろう……。


 「最近のシミュレーション技術ってすげぇな、ほんと……」

 「感心してるばあいですか? あなた、せっかくの白い服が血だらけですよ?」

 「いいんだよ、これくらい。むしろすっきりしてるくらいなんだからさ」

 「そうですか? ぜんぜんそんなふうには見えませんけど……」

 「超ハードモードにもたえうる肉体のもちぬしといったら、僕しかいないからさ」

 「それはちょっと言いすぎかな……世の中見えてなさすぎというか」

 「何を言っている。屈強なのがほんとうに強いやつだって錯覚してるだろ、君」

 「はい、そうですけど(あっさり)」

 「君もまだまだお子さまかな……真の強さってのはさ、ここだろ、ここ」

 「……そのセリフってさ、もうちょっとかっこいい人がいって様になるよね?」

 「僕のこと、かっこいいって思えないんだね」

 「そうかな(これまたあっさり)」

 「はぁ……じゃあちょっと待っててくれ、真っ白いバラをここに顕現してみせる」

 「うん、どうぞ?」


 言って、僕は君にあげるための純白のそれをここに召喚し、そしてまた血を吐く。


 「ほら、真っ赤なバラだよ。僕の血の色で出来た、真紅のね」

 「すてきに見せようと努力してくれたんだね、ちょっとうれしいよ」

 「欲をいえば、もうちょっとはしゃいでくれてもいいんだけどね」

 「いっておきますけどわたし、そこまでお子さまじゃないので」

 「はは、そうかい」


 何気ないシミュレーションだった。(所感4おわり)


------------------------------------------------------------------------------------------------


 2


 ※ほんとうに終わると思った? ざんねん! 続きます!


 ある日。ぼくは、はじめてでんしゃにのった。

 ちょっときんちょう……。


 あっ。


 なんか、おなかあたりがへんになってきた。

 どうしよう。


 あっ。


 でちゃった。


 ちいさい音だったけど、おならしちゃった。

 まわりのみんなに、きこえてないかな……。


 「ねえ、いま、なんか聞こえなかった?」

 「えっ? 何も聞こえなかったけど……」


 やっぱり、ばれてる……。

 においとか、そのうちとどいてしまうかも……。


 「そんなことよりもさ、なんかいいにおいしない?」

 「えー? それこそ気のせいだってー」

 「おっかしいなー……たしかにただよってきてるはずなんだけど……」


 ……あれ?

 ぼくの思ってたはんのうとちがう……?


 「わたし、じつはこう見えてけっこう鼻がきくんだー」

 「なにそれ、犬みたい」


 だいじょうぶかな、くさいって思われてないよね……?


 「このにおいはね……なんかちょっと男の子っぽいわ、たぶんだけど」

 「ほんとにー? まあたしかにいるけどね、あそこあたりに」


 はっ、あのおねえさんたち、きっとぼくのほうを見ようとしてる。

 かくれたいけど、かくれるばしょがない……どうしよう……。


 「ほら、いたー」

 「すごいねー、わたし言われるまで全然気にも留めなかったわ……」

 「でしょー?」


 でも、いいにおいっていわれたから、よかったのかな……。

 ふくざつな気もちで、ぼくはおかあさんとはじめてのでんしゃをおりた。

 (所感4おわりたい)


------------------------------------------------------------------------------------------------


 ※やっぱり……、終われなかったよ……。


 「おい、ここから出してくれ!」


 いつの間にか、透明な箱に閉じ込められてしまった。

 夢の中、ではないと思う。意識ははっきりしてるっぽいから。

 気づけばその箱の中には、わずかずつではあるけれど水が溜まりはじめていた。


 「なんなんだよ、これ……!」


 日々平穏に暮らしていた俺が、なにか悪いことでもしたってのかよ……!

 こんな拷問、死刑囚でも受けないだろ……!


 「ちくしょうっ、もはやこれまでなのかっ……」


 落胆の念にさいなまれる俺。

 等身大の立方体が、じわじわと俺をあざけりながら苦しめていくのがわかる。


 「せめて最期くらい、おふくろに電話のひとつさせやがれってんだ……!」

 「――は? 呼んだ?」

 「えっ……その声はもしかして、おふくろか……?」


 どっから聞こえてきてんだか、まったくわかんねえよ……。

 こんな緊迫してる状況なのに拍子抜けするよな、まったく……。


 「ともかくつながってよかったよ、おふくろ……」

 「あんた、そこでさっさと死になさい」

 「……は?」


 何いってやがんだ、このアホめ……。

 俺みたいな出来のいい息子を、そんな簡単に見捨てるとは思わなかったぜ……。


 「じょ、冗談はやめてくれよ、なあおふく」

 「まずその『おふくろ』とかいう呼びかたはやめな。もっと昔のように……」

 「だ、だって『かあちゃん』とか、さすがにもう呼べんって……」

 「あっそ、だったらそこで永遠に苦しんどけ、このたわけが!」

 「あばばばばぶくぶくぶく……」


 急に水かさが増していき、俺は一瞬にして水の中に溺れていった。

 ……でも、時間がたつにつれて不思議と苦しくはなくなっていく。


 「……聞こえますか」

 「あっ、さっきのおふくろ……じゃねえな、かあちゃんの声だ……」


 これ以上苦しみたくはないので、しかたなく呼びかたを変えた。

 というか、苦しみようがない。べつにもう苦しくねえし。


 「わたしは時間を巻き戻しました。あなたは胎児からやりなおしです」

 「はあ、そうですか……って、えぇっ?!」

 「どうですか、わたしのおなかの中の居心地は?」

 「とっても……なんていうか……その……」

 「えんりょしなくてかまわないから、率直な気持ちをつたえてちょうだい」

 「あの、えっと……すごく……落ち着きます……」

 「ふふっ、それでこそわたしのかわいい息子ですよ」

 「はぁ……あったかい……」


 そのとき俺は知らなかった。自分のベッドの下のほうが洪水状態だったことを。

 (所感4・終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る