あの日から刻は動かず 弍


コンコンコン…

殿が起きるまでイツキに傍に居てもらって

僕はその間に届け物をしていた

足元では鶏が不思議そうにこちらを見ている

なんせもう5回はこの扉を3回ノックしている

柊「……絶対寝てるよね。分かってたけど、お邪魔します~」

ガラガラっと家の扉を開け部屋に入っていく

部屋に入ると広がる煙たい臭い

柊「消臭剤置きたい。」そんな事を呟いて部屋で寝ている2人を見下ろす

柊「蒼、猪狩りはどうだった?」肩をちょんちょんと叩き丸くなって寝ていた蒼に話しかけた


蒼「んぁ~柊さん…聞いてくださいよ~ザキさん狩り下手だしタバコの臭いのせいで猪ぜーんぜん捕まんなくて。」そう言いながら鍋を指さす

蒼「お陰でカエルやコオロギとかしか捕まえられなかった。」ほっぺを膨らませて不満そうに言うもんだから僕は口で顔を隠して笑ってしまった

ザキさん「うるっっさいなぁ!仕方ないだろ!僕も猪食べたかったよ!」

目をつぶったまんまでこちらを見て叫ぶ

柊「ザキさん起きてよ、ほらお酒。」

ザキさん「なんで朝なんだよ~僕が朝苦手なの知ってるだろ…起こさないで夜にしてくれ、夜に。」

柊「もう来ちゃったし。」

ザキさん「…」蒼「…ザキさん寝てるの?」

ザキさん「いや起きてるわ!」

蒼「頭が寝てるのか。」ザキさん「だから起きてるわ!」

兄弟かのような2人を眺めて笑いすぎで朝からお腹が痛い

2人共夜行性なのであまり昼間には悪いと思うのだがなんせ

僕も今日はあの工場廃棄へ帰る

柊「じゃ、僕はもう行くからね?ここにお酒置いておくから~」

蒼「柊さんいつもありがとうね、お酒ぇ…僕もまた寝るよぉ。」そういって蒼はまるんと丸くなって尻尾で顔を覆った

ザキさん「じゃ僕も寝るから今度は夜来てね。」

ザキさんもそういってまた布団へ潜っていく

柊「うん、またね。」

煙りの臭いのする部屋を出ていく

家から出るとまだ鶏が家の前をウロウロしていた

柊「鶏鍋にされるからこの家の前にいない方がいい。」笑ながら鶏に話しかける

鶏はこちらを見て首をかしげた


殿の家に戻ろうと歩き始めると

目の前から1人、歩いてくる

それは普通の事であるだけで普通の人ではなかった


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