第5話

今は脳に直接電極棒が差し込めるようにと頭蓋骨の上部が外され、脳がむき出しになっている。


電極棒。


意味なく格好つけた名称で呼ぶのは好みではないために、そんな単純な名前で呼んでいるが、これこそがコンピューター以上の私の自信作なのだ。


脳の記憶海馬に差し込むだけで、記憶を電子信号に変換することが出来る。


そしてそれはそのままコンピューターのハードディスクに記録される。


論理的には記憶を抜かれた者はただ記憶を失くすはずだけなのだが、ほとんどの者が人格的な破壊に陥る。


おそらく記憶を抜き取られる際の脳の負担が想像以上に大きいためだと思われるが、開発者である私にも詳しいことはわからない。


しかしこれまでにおいて記憶を抜き取られたがためにその人物が廃人になったとしても、特に問題になることはなかったので、それについて真剣に研究をしたことがなかったのも事実だが。


私は一体一体、むき出しになった脳を観察した。


一言で言ってしまえば電極棒を記憶海馬に差し込めばそれで事足りるのだが、事はそう単純ではない。


的確な位置に差し込まないと、記憶を抜き取る前に脳がいかれてしまうのだ。


脳とはそれほどまでに複雑なものであるからだ。


私以外の人間で電極棒を差し込んだ人間は今までに三人ほどいるのだが、三人とも正常に記憶を抜き取ることが出来なかった。


みんな名のある医者や科学者であったにもかかわらず。

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