第6話

私はこれまでに四人の人間に電極棒を差し込んで、全て記憶を抜き取ることに成功させている。


ゆえにこの仕事は、今では私以外で出来る者はいないと認識されている。


何故みんな知識はあるはずの人たちが誰も出来ないことを、私一人にだけ出来るのかと言えば、私がこの研究に二十年以上の年月を費やしてきたからだと思う。


そう私はこの電極棒のことを、人間の脳みそのことを長い年月一日も欠かさず、朝起きてから眠りにつくまでずっと考え続けてきたのだ。


眠るまでと言ったが、電極棒は夢にも頻繁に出てくるので、眠っている間も考え続けていると言っても過言ではない。


そんな私だから見えるのだ。


脳をじっと見ていると、正しく差し込む位置、適切な角度、ちょうど良い深さが。


それはほんの一ミリずれてもいけない。角度も一度も間違ってはいけない。


深さも同様だ。


正しく射し込むのは至難の業なのだ。


なのに私が差し込むと、前もってそこに穴を開けていたかのように、電極棒がすんなりと所定の位置に刺さるのだ。


とは言っても今回の相手は人間ではない。


動物ですらない。


宇宙人なのだ。


いくら事前の調査で人間の脳に近いと判断されても、近いということは同じと言う意味ではない。


私は小さな宇宙人の一人を選び、じっくりとその脳を見た。


いつも人間の脳を見ているときよりも何倍もの時間をかけて。


すると突然見えてきた。


電極棒を差し込む位置、角度、深さがそれはもうはっきりと。


――宇宙人の脳でも見えるものなんだなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る