第4話 閉幕

 葬式の列はなかった。でも、彼は墓に入れられた。

 彼の入った墓には、彼の両親や妹達もいるらしい。死んでやっと、彼は家族と会えたようだ。

「面白いよなぁ、遺書にこんな事書くなんてよ」

 彼の遺書らしい紙束に火をつけ、いかにも不良そうな少年は笑いながら言った。

「墓前には、躑躅の花を備えて下さい。できれば、美しい花嫁のような白い躑躅を__洒落てんなぁ、この人も。な」

 少年は僕の方を見てニヤリと笑った。見えていない筈なのに。

 そのまま無言でいると、少年は不満そうに頬を膨らませて紙束を宙に放った。灰が周囲を汚していく。

「面白れぇ事言ってやろう。俺の学校によ、天使に初恋を奪われたらしい男……いや、女がいんだよ。でな、そいつが言ってたんだが。白い躑躅の花言葉はよぉ」

 ライターの先を僕に向け、少年は何か呟いた。それは呪文のように聞こえた__本物の、呪文に。

 突然、ライターの火が爆発する。反射的に顔を手で覆うと、少年の笑い声が聞こえた。

「初恋なんだってよ! 面白れぇだろ!」

 顔を上げた時には、少年は既にいなくなっていた。

 後には、灰に汚れた墓石と白い躑躅だけが残されていた。

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What is your wish? 宇曽井 誠 @lielife

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