第2話

 彼といて、分かった事がある。

 一つ目。彼には妹がいた事。部屋の片隅に、幸せそうな四人兄妹の写真があった。思春期であろう若い彼と、そっくりな二人の少女と、乳離れしたばかりであろう女児が写っている。その写真の前には、線香というらしい細い蝋燭のような物と、薄桃色をした造花が飾られていた。

 二つ目。彼の仕事が殺し屋である事。人の恨みを買いやすい、と彼は言って、身体中についた傷跡を見せてくれた。癒える間もなく傷ができる事も。実際、彼の左腕には包帯が巻かれている。

 三つ目。彼の親は随分昔に亡くなっている事。殺し屋__本人は暗殺家業と言うが__の仕事も、その親から受け継いだ物らしい。普通の生活にはまう戻れない程、ずっとしているらしい。

「……まだ、若いのに。苦労してるんですね」

「全然若くないよ。この仕事なら、とっくに死んでてもおかしくないくらいだから」

 色とりどりの大量の薬を飲みながら彼は笑う。

「友人はみんな、死んでしまったよ。俺の周りは、事故が多いから……まるで、死神みたいだ」

 それは、僕の考える事故ではないのだろう。兄さんの言う「嘘で誤魔化された殺人」という奴に近い物だろう。

 それでいて、彼は笑っていた。変わらない悲しい顔で笑っていた。


「そういえば、君の名前、聞いてなかったな」

 靴を履きながら呑気に彼は言う。これから、人を殺しに行くというのに、なぜ平気でいられるのだろう。人間というのは、倫理から外れた行動を取る時には平常でいられやしないらしいのに。

「帰ったら聞いても良いか?」

「……良いですよ」

「ありがとう。じゃあ、行ってきます」

 扉が閉じられても、僕は玄関を見続けていた。彼に、着いて来るなと言われているから、僕は留守番をしているしかない。


 狭いワンルームの部屋を見て、僕はまたため息を吐いていた。悪い癖だ。不幸ではないのに、不幸に見えてしまう。

 僕は不幸なんかじゃない。僕は____

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