俺を殺してくれ___雪村 春の場合
第1話
カツンと高い音が鳴った。
「自殺ですか、そうですか。それは、あなたのルールでは禁止されている事なのでは」
背を這うような冷たい声。ゆっくりと振り向くと、無表情の少年が立っていた。おとぎ話のお姫様のような、フンワリとした丈の長い服を着ている。
少年は俺の手から縄を奪い取ると、深くため息を吐いた。
「そんなに死にたいのなら、タダで殺してあげます。しかし、あなたも生きたいでしょう。提案があります」
「て、提案……?」
「ええ。僕はあなたの願いを一つ叶えます。そして、あなたが大切な物を一つ僕にくれてば……ウィンウィンです」
両手でピースをするが、少年は無表情のままだ。
しかし。それが本当なら。願いが叶うのなら。
「俺を、殺してくれ」
変な人だ。
彼__
面白そうなので彼にくっついて過ごす事三日。彼の日常のリズムが分かってきた。
朝六時。ゆっくりと起きて、ゆっくりと朝食を作る。今日は目玉焼きらしい。
「いる?」
「いいえ、必要としませんので……でも、良い匂いですね」
「食べるか?」
「…………少しだけ」
また誘惑に負けてしまった。しかし、彼は僕が「食べたい」と言うと、少し嬉しそうに笑う。それは僕も嬉しい。でも……
「なぜ、あなたは悲しそうに笑うんですか」
「え?」
フライパンを動かす手を止め、雪村は僕を見た。黒い瞳に僕は映っていない。
「……なんで、だろう。俺がそういう顔だから、かなぁ? 下がり眉だし、なんかヒョロヒョロしてるってよく言われるし」
それとは違うだろう。もしその正反対の容姿だったとしても、僕は彼の笑顔を悲しそうと評したと思う。
「まぁ、気にしなくて良いんじゃないかな。死人に想いを馳せたって、何も生まれやしないから」
そう言って彼はまた、哀愁漂う笑みを浮かべた。
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