第4話 後日談
百々目鬼は次の日にはいなくなっていた。教室からも、みんなの記憶からも。私の記憶にだけ、残っていた。
いつも通りの日常はいつも通りではなくなった。朝も、昼休みも、放課後すらも誰にも文句言われぬまま、私は今日という日を過ごしたのだから。
「初恋、かぁ」
言われてみれば、私は彼に恋していたのかもしれない。というか、しない方がおかしいと思うの。不遇な日々の中に、突然イケメン__しかし見た目は放浪者__が現れて、自分を助けてくれたんだよ? 惚れるに決まってる。
はぁ……女に生まれたかったなぁ。
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空は晴天であった。屋上故か、風が強く吹いている。
「あー! なんで男にばっか惚れられんだよ、くそ!」
菖青年はそう叫ぶと、空になったビールの缶を放り投げた。それは宙に弧を描くと、カツンと近くにいた少年の頭に当たる。
「俺はぁ! 一応はぁ! 男なの! 異性に惚れられたいの!」
「でも、嬉しいでしょう?」
「嬉しいけど! 好かれるのは嬉しいけど! 同性から結婚してください言われてもノーサンキューだ! 誠に遺憾ながらなぁ!」
少年は缶を投げ返すと、深いため息を吐いた。
「そう言いつつ、兄さん、直接言いませんよね」
「そりゃあな。恋心に罪はねぇんだ。惚れる相手が誰だろうか、性別がどうだろうが、そこに罪はねぇんだ。なら、俺達が罰を下す必要はねぇ」
「……理解できません。無理な物は無理と言えば良いのでは?」
冷たい少年に対し、菖は「ばっかだなぁ」と笑った。
「夢は夢のままにしといてやるのが、イケてる男ってもんだろ?」
数秒後。呆れた少年の声が屋上に響いた。
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