第3話
放課後。急いで帰ろうとしたが、いつもの連中に捕まってしまった。
いつも通り空き教室に連れて行かれ、いつも通り荷物を取られる。
「あんたさぁ、自覚ある?」
「何の自覚?」
「あたし達無視してるコト」
そりゃあ、うるさいからね。でも、そんな事言えやしない。弱いから。
「悲しいんだけど。ねぇ、きーこーえーてーるー?」
耳元で大音量で叫ばれる。鼓膜が破れそう。
心臓の音が、やけにはっきりと聞こえる。毎日されてても……怖い物は、怖いまま。
「あとさぁ、隣だからって、転校生に色目使ってんじゃないわよ。別に、あいつのコト好きとかってわけじゃあないけどさぁ……イライラすんだよ」
主犯格の彼女はドンっと床を踏む。これは、腹が立った時の彼女の癖で、いつ聞いても怖い。
……嫌だなぁ。ずっと弱いままなのは。でも、仕方ないかな。だってそれは自分が悪いせいだもの。
「男のくせに、気持ち悪い」
そう。私が、男だから。仕方ない。だって、気持ち悪いのは本当だもの。
やっぱり、昨日の内に死んどけば良かったかな。
彼女の取り巻きの先輩__風の噂では英語で言うボーイフレンドらしい__が私の髪を掴む。か弱い抵抗虚しく、私は宙に浮いていた。
「男のくせに、髪伸ばしてさぁ。あたしが切ってあげるよ」
可愛いキャラクター物のハサミ。刃先が夕焼けにきらめいて、不気味な雰囲気を出していた。
「あたしさぁ、将来美容師になろうって、思ったコトあるんだよね」
嫌だなぁ。せっかく親の許可を貰って、何週間も何ヶ月も頑張って伸ばしたのに。努力した自分が馬鹿みたい。
あまりの悲しさに涙が出てたみたい。彼女は不満そうに顔を歪めた。
「何泣いてんの。気持ち悪い……ああ、そうだ。ハサミで顔にキズってつくのかなぁ?」
「嫌だ……それは、それは」
お腹を殴られたらしい。いや、蹴られたのかな。慣れたけど大嫌いな痛みがする。その衝撃で私は床に落とされた。周りからクスクスというかゲラゲラというか、下品な笑い声がする。
逃げないと。でも、どこに? どこに逃げれば良いの?
「おぉ、怖い怖い。これはどこのスプラッター映画だぁ? いや、ホラーかもしんねぇなぁ」
ガラリと扉が開いてそんな声がした。一日中聞いて飽きてきそうな百々目鬼の声だ。周りの連中が戸惑いの声を上げる。
「と、百々目鬼くん!? なんで!?」
「汚ったねぇなぁ、人間はよぉ。惨殺に、無残にぶち殺したくなる……っと。大丈夫かぁ、死にたがり」
楽しそうに笑う声が聞こえる。人の足で見えないけど、多分、あの状況を楽しむような顔で笑ってるんだろう。
「よぉし。じゃあ、報復するぜ」
浴びせられる質問全てを無視して、彼はそんな事を言った。口調は昨日の物に戻っていた。
「目ぇ伏せてな、死にたがり」
言われた通りに目を伏せる。一応、耳も塞ぐ。
どれぐらい経ったのだろう。
ポンっと頭を叩かれて顔を上げる。百々目鬼は昨日の仮面を着けてはいたけど、服装は学ランのままだった。
周りを見てみると誰もいない。何一つ痕跡もなくて、私が一人で倒れていただけみたい。
「報復は済んだぜ」
「何したんですか?……あの人達に」
「内緒」
虫の居所が悪そうに百々目鬼は笑う。
「ま、お前は知る必要ねぇよ」
「……ありがとう」
本当は知りたい。何としてでも聞き出したい。
でも、百々目鬼の声を聞いていたら、それをしては駄目だ、と思ってきた。不思議。やっぱり百々目鬼は、人間じゃないんだろうね。
「さて、と。じゃあ、おめぇの大事なもんを一つ……は、もう貰ったな。ああ」
ん? 私は何かをあげた記憶がない。去ろうとする百々目鬼にそう問うと、彼は仮面を外してニヤリと笑った。
「男の初恋なんざ、俺ぁ欲しくなかったんだがよ。有り難く貰っといてやるぜ」
「はつこ……はぁ!? え、ちょ、まって、どういう事!?」
急いで追いかけたけど、百々目鬼はもうどこにもいなかった。
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