天喰塔 グベリアード

荒野 樂十

第1話

「この世界は、空想のものなんだ…。」

 そう呟きたくなるのも仕方ないと思う。

 僕の前に広がる光景は、の世界では絶対に見られない。

 綺麗な夕陽の光が、花畑をオレンジ色に染め、風で揺れている。

「はぁ…。下はどうなってるのかな?」

 第12階層の一番端の柵に腕を乗せ、立つ僕の下には、僕の故郷である、キュリーア村がボヤケているが、雲の隙間から見える。

 天喰塔てんくうとう 《グベリアード》。

 ここの階層もグベリアードの中である。

 三年前、突如として僕たちの上空に現れ、僕たちを地獄へ誘った存在。

 当時、12歳だった僕は、この塔に魅入られていた。本でしか見たことなかった空想の塔が、目の前に現れ、近くにあったのだ。

 天喰塔が現れて一ヶ月の間、僕はどうしてもあの塔の中に入りたかった。そんな夢が叶ったのが、三年前。

 最初、この世界に入った時は全てのものに興味を持っていた。しかし、日が経つに連れ、この世界が地獄だと気づいた。

 この世界は残酷だった。

 安全エリアである街から出た瞬間、殺気に溢れたモンスターが襲い掛かってくる。モンスターは、種族関係なく襲いかかってきて、老若男女関係なく殺していく…。

 僕も、仲間を何度も食い殺された。

 そして、いつの日か僕の憧れだった世界は、地獄の世界へと変わっていた…。


「はぁ…。何階登ればいいのかな?」

 三年経った今でも、我々、13族の住居区域は、この12階層までだ。

 閉じ込められてすぐ地獄を知った僕は、騎士団に入団し、2年半で第11代団長という役職まで上り詰めた。と言っても、現在の団員は、4人なのだが…。

「いっそ、この下から飛び降りれば…」

 そんな事を呟いた瞬間、首に冷たい感覚が伝わる。

「こーら、何言ってるの?天下の英雄騎士団団長"アザミ"が」

 聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り向くと、そこには、白髪の女性が立っていた。

 スラリとした身体に、優しそうな緑色の瞳、英雄騎士団の騎士服である、白色のコートを身に纏っている。

 彼女の名は、レアル。英雄騎士団副団長を努めており、僕の1回層の時からの知り合いだ。

「ほーら、浮かない顔しないの!」

 差し出されたグリーンスムージーの入ったグラスを受け取る。

 レアルは僕が受け取った事を確認すると、鉄の柵に寄りかかり、グリーンスムージーを一口口にした。

「そうだ、明日から13階層への攻略が始まるみたいだね」

「そうだね…」

 僕もグリーンスムージーを飲み、夕陽を見つめる。

「アザミと私は、前衛担当だって。その他の皆は全員後衛支援担当らしいよ」

「そうか…」

 しばらくの沈黙が流れる。

「ねぇ、この階層突破できると思う?」

「約半年この階層に留まってるんだ。誰にもわからないよ」

「だよね…。」

 僕たち、騎士団は全員、最上階に行けば、この塔が壊れると信じ、命を懸け戦っている。しかしそれは、二年半前までの事だ。

 次の層へ繋がる扉は、大きな【化物モンスター】に守られている。

 二年半前までは、多数の犠牲を払いながら、次の階層へ行っていたのだが、13階層へ行く扉の門番は強すぎて、半年前から攻略が止まっていた。

「私ね、明日のボス戦で【スキル】使おうと思うの…。」

「は!?」

 僕は、驚きのあまり変な声を出してしまった。それも仕方ないことだ。

 この世界に来た時、全員特殊能力を得る権利【スロット】を授かる。

 【スロット】を授かったものは地上にいた時には空想の物とされていた特殊能力が使えるようになる。その中でもランクがあり、

スキル、アビリティ、マジックの三ランクある。

 スキルは、威力も弱く、効果の時間も短い。しかし、使ったあとの反動やインターバルは必要ない。それに比べて、アビリティは、比較的に威力の高いものや実用性が高いものが多いが、協力なものになればなるほど、反動が大きくなったり、長いインターバルが必要となる。

 そんな二つの能力の良いところだけを吸い取ったものが【マジック】

 マジックは下の世界でも【魔法】としてあったのだが、その頃より強力になっている。

 しかし、残念なことにこの能力を得ることをできるのは、一部の人間のみだ。

 そして、一番最下位クラスの【スキル】持ちの人でも他の騎士団は欲しがる。

「このまま、無様に引き下がるわけには行かないよ。私たちには、戦う為の力があるんだから…。」

「でも……。」

「しかも。今回は"八角はっかく"の人も来るんだよ」

「八角が!?何角の人だよ!?」

 レアルの一言に僕の体全身は、鳥肌が立った。

 この世界の中でも、最強と名高い者たちは、八角はっかくと呼ばれる。

「第三角"グリアン"さんが来るみたいだよ」

「グリアン……。」

 八角の中でも最強と名高い者。"階層壊しの《エリアブレイカー》グリアン"

 二つ名の通り、彼が参戦した階層主との戦いは、絶対勝利している。半年前から、1回層の治安の悪さを治すために1回層に籠もっていた。

「そういう訳だから、私はスキルを使うよ。ただ、アザミは自己判断だよ。君のアビリティは強すぎる。」

 笑顔で言ったレアルは、グラスを落とし踏み潰した。

「じゃぁ。また明日階層主の扉前で」

 手を振りながら去っていく、レアルの背中は何処か寂しげだった。



それから15時間後の、9時に参戦騎士団全員が集まった。

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