【エピソード4 第23話】
「ふふふ。久しぶりだな……。勇者よ」
大広間。ピラミッドの形状的に下に行けばフロアは広がるが、その大部分を占有するこの大部屋に、鉄の鎧に身を包んだずんぐりむっくりな白髭男がいた。右手には背丈よりも長い槍を携えている。
「ヤッホー。フィっちゃん。待ちくたびれちゃったわー!」
そして、その隣から二重で聞こえる声。金色のくるくるツインテールの少女が二人で手を振っている。
表情も背丈も、身につけている薄紅色のひらひらしたミニスカートも瓜二つ。それぞれの持っている大杖についた宝玉だけが、赤と青と異なる色をしている。
「お、お前たちは……!」と言ってからちょっと悩む。
「……誰だっけ。なんか馴れ馴れしいけど」
「ズッコー!! ちょっと何をすっとぼけたこと言ってんのよ。アホ! 旅の途中であった美少女双子魔術士のルナと——」
「リナよ! 一緒に魔女を倒したじゃない! 何で忘れてんのよ! 脳みそ入ってんの? もしもーし誰かいますかー!」
そういえば、デルアの村を出て二日目に出会った、ぺちゃくちゃうるさい双子の魔術士がいたような、あれ? 三日目だっけ。
どっちにしろ、なんかあんまり印象にない。いろんなことがあり過ぎるとさ、記憶って勝手に邪魔なものを消去していくって言うじゃん。
「あ~、あの……双子の……」
「いやいや全然ピンときてないじゃないの! ムキー! 腹立つんですけど 激おこプンプンサテライトなんですけど」
二人して同じように頬に空気を溜めて怒ってる。
「ふぉっふぉっふぉ。さすがは勇者殿。なかなかしぶとい神経をしておられますなぁ」
ずんぐりむっくりが笑う。けど、お前も誰やねん。
「お忘れか。武装商人のガルシアですぞ。ほれ。鉄鴉に襲われているところを助けていただいた」
覚えてない。
「……ごほん。ほれ。古代文明の遺産である
「アンティクス……? なんだって?」
「ほら、流空様。初日に魔物に襲われている行商人のおじいちゃんを助けて、小さな剣のおもちゃをもらったじゃないですか」
フィリスが俺を小突く。あ、思い出した。そうだ。
「あのへんてこな、ガキが喜ぶ観光地のキーホルダーみたいな邪魔なやつ!」
「邪魔って……。し、しかしあれを身につけていれば魔力のコントロールが自在になり、おぬしの光の剣を思うままに使えるようになったのではないかの?」
「……まじで? そんな便利なものだったんだ。知らんかった。なんだよ。じゃあヴォルグに修行してもらわずとも光の剣をコントロールできたんじゃん」
「……使わなかったのか?」
「えーっと。あれ? どうしたっけ? 邪魔だから捨てたんだっけ?」
「あ、私のリュックの中に入れっぱなしでしたね。それ、そんな魔術具だったとは露知らず」
「ぬおお! お主らアホか! ちゃんと説明したであろう! 勇者殿が身につけるようにと!」
「だって、ダサいし邪魔なんだもん」
「邪魔って言うな! 貴重な
「だー! もうなんでもいいわ! 結局お前らなんなんだ! どうしてこんなところにいるんだ」
「そうですよ。ここは魔群合衆が占拠していて入り込むのは難しい……」
そこまで言って、ハッと何かに気づいたフィリスの表情が固まる。
「ルナさん。リナさん。あなたたちは旅の魔術士じゃなかったんですか。私たちを騙していたんですか」
「どういうこと?」
「そういうことか。てめえらただの旅人のふりをして俺たちに近づいてきたってわけか。道理で臭いのしない変な奴らだと思ったよ。お前ら、魔王の手先だったのか」
「……ようやく気付いたようね」
「私たちの正体は魔群合衆の中でも魔王様直属の先鋭。その名も——」
「「魔群四天王!」」
「魔群四天王!?」
「そういえばそんな噂を聞いたことがあるぜ。魔群合衆の中で魔王以外にも戦線を維持できる連中がいるって。それがお前らか」
ヴォルグが半眼でつぶやく。
「そうじゃ。魔王様を影で支える四天王とは我らのことよ」
「双撃の魔術少女ルナ☆リナよ!」
アイドルよろしく背中合わせでそれっぽいポーズをとる双子。うざい。
「老練なる健脳ガルシアじゃ」
カンッと杖を地について親指を立てるずんぐりむっくり。うざい。
「そんな奴らがいたなんて……。でも、三人しかいねえじゃん」
「あはは。あんたたちひどいね。自分が倒した相手のことも忘れちゃうなんて」
倒した? 気がつかないうちに四天王の一角を倒したというのか。神殿入り口の兵士か? それとも五階の階段にいた兵士たちのうちの一人か?
「まさか、あの竜戦士リザードラムを倒してここまでくるとは思わなかったわ」
「なかなかやるじゃない」
声を合わせて双子が言う。けど、誰だリザードラムって。竜戦士? いたっけそんなの。
「え? なんでポカンとしてんの? 四天王のリザードラムよ。三階にいたでしょ。火を吹く竜の戦士」
「竜の戦士……? ちょっと待ってぇ。あたし達。そんなやつとは戦ってないわよぉ?」
「「……え?」」
場がシーンとなる。
すると気まずそうにヴォルグが鼻先をこすった。
「あー、あれだ。確かに腕の立ちそうな奴の臭いがしていたな。階段とは無関係な小部屋にいたもんで、スルーして下りてきてしまったが」
「ちょっと困るわよ! イベントはちゃんとこなして来てくれないと!」
「あのバカ。何してんのよ! いっつもそういうとこ抜けてんのよね!」
双子が怒り出す。
「もう! しっちゃかめっちゃかです! 一旦そのおとぼけな感じの方は置いといて、整理させてもらいますけど!」
フィリスが叫んで、カオス状態の場が沈めた。
「あなたたちは善良な旅人を装って私たちに接触してきましたが、なぜあのときに攻撃を仕掛けてこなかったんですか? 油断をついて攻撃を加えることもできたはずです。私たちはあなた方が魔群合衆だなんて気付きませんでしたから。それなのに、何もしないどころかガルシアさんにいたっては
「それは勇者殿にこの神殿まで無事にたどり着いて欲しかったからじゃ」
咳払いをして、声のトーンを落とすガルシア。無理やりシリアスムードにしようとしてるな。
てか、俺に?なんで?
「なぜですか」
「それを説明するのは戦いの後にさせてもらっても良いかな」
よいしょ、と槍を持ち上げるずんぐりむっくり。
「勝てば教えてもらえるってことか? 怪しい爺さんだとは思っていたんだ。俺らを騙したらどうなるか、その身をもって教えてやるぜ」
「ふぉっふぉっふぉ。
「俺にだけ? なんでだ」
「どうせ死ぬ人たちに説明するなんて時間の無駄だもん」
「そうよ。勇者以外にはここで死んでもらうのよ」
「俺は……?」
「あなたには戦いが終わったら説明してあげる」
「せっかく仲良くなれたフィっちゃんにこんなこと言うのは残念だけど……」
「「ここで死んでね!」」
双子の持つ杖の宝玉が光り出す。
「危ない!!」
「任せてぇん」
フィリスの叫びと同時にクロコが俺を抱えて飛んだ。
四方にばらけた俺たちの間を炎と氷の魔術が突き刺さる。
「ともかく、戦闘開始だなっ」
前回りで攻撃を避けたヴォルグが言う。
「ここを抜ければ祭壇の間です! 何としてもこの人たちを倒すんです!」
フィリスも両手に魔力をため、クロコは大剣を構えた。
「ここまで来て負けるわけにはいかないわぁん」
皆が戦闘態勢に入る中、俺も負けじと光の剣を出すのだが心にモヤモヤが残る。
なぜ、奴らは俺だけは生かそうとするのか。
何が目的だ?
考える間もなく戦いは始まった。
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