【エピソード4 第21話】
「で、なんでこーなるの?」
両手両足を紐で縛られ、丸太に括られた俺は魔群合衆の兵服に身を包んだクロコと、ヴォルグに担がれてた。
まるで丸焼きにされる豚だ。
「しっ。あまりしゃべらないでください」
先頭を歩くフィリス(こちらも黒い魔群合衆のローブを着て、頭までフードを被っている)が小声で言う。
俺たちはクロコの作戦通り、ラーマ神殿の近くまで忍び寄り、見回りの兵士をおびき出して倒し、身ぐるみを剥いだのだった。
ヴォルグの素早さが際立った。木の陰からキラキラと光る金属片を敵兵に向け、何事かと近づいてきた所をクロコと挟撃したのだ。
こうやってブービートラップを仕掛けるのは、彼ら人狼山賊団の手口らしい。
魔群合衆といえど、人間タイプの兵もいれば獣人タイプの兵もいる。ちょうど近づいてきた兵士たちが俺たちと似たような背格好だったのは幸運だった。
「でも、なんで俺だけ捕まった敵兵って感じで吊るされてんの」
「しかたないでしょ、見回りの兵士が三人しかいなかったんですから」
再びフィリスが答える。
そう、本来なら全員分の服を奪い取るつもりが見回りの兵士が三人組で行動していたため、兵服が足りなかったのだ。
だからって勇者を縛るか、普通。
とはいえ、今のところ魔群合衆の兵にばれずに広場を歩いているという現状である。間抜けな敵で良かった。
昨晩、フィリスが言っていたように、魔群合衆の連中は一枚岩ではないらしい。兵たちは遺跡をぐるりと囲んではいるが、よく見ると種族ごとにバラバラに陣を取っている。お揃いの黒の兵服を着てはいるが、耳の尖った肌の黒い亜人がいたり、ヴォルグのような毛むくじゃらの獣人がいたり、豚のバケモンのような巨大な魔物や、妖精みたいな飛び回る小人や、俺やフィリスと同じような人間など、大小様々な種族がいるのだが、他種族間でのコミュニケーションを意図的にとっていないように思える。
おおよそ軍隊とは思えない集まり。なんだろう、互いに牽制し合っているような。
本当に遺跡を警備するつもりがあるのだろうか、と素人の俺でも思うほど殺伐とした雰囲気だった。
手足を丸太にくくりつけられ、担ぎ上げられている俺には青い空しか見えないが、首を動かすと、両脇に首のない石像が並んでいるのがかすかに見えた。昨日の図面にあった神殿へと続く道だ。この先に神殿の入り口へと続く階段がある。
こんな堂々と表通りを歩いているのに、誰も話しかけてこない。魔群合衆というのは随分と抜けた連中なんだな。
そんなことを思いながら、ぶら下げられて揺られていたが、急にヴォルグの足が止まった。
首を動かし見ると、ヴォルグの前に立つ魔群合衆の兵がいた。
「お前ラ、見ねえ顔だナ。どこの部隊のモンだ」
げっ。言ってるそばから敵兵だ。
くぐもった低い声。鼻の突き出た猪の顔を持つ獣人が俺たちの前に立ちふさがっていたのだ。こりゃまずいぞ。バレたか?
緊張が走る。
戦闘になったらどうしよう。縄を解こうか……って、おいバカ。誰だこんなにきつく縄を結んだのは。取れないぞ。
「お前こそ、どこのもんだ。俺たちは魔王様の極秘指令を受け、敵の幹部を生け捕りにしてきたところだ。どかねえと痛い目見るぜ」
おいおいなぜ挑発的な事をいうんだと、驚いてヴォルグを見ると牙を剥いて威嚇のポーズを取っていた。なぜに!?
「まぁまぁ、そのくらいにしてあげてよぉ。あなた最近入った子ね? うふふ、今度可愛がってあげるから、そこを退いてちょうだい」
クロコもヴォルグに続いて声を上げるがこちらは、のんびりした声。どうゆうこと!?
二人して何を言い出すのか。突然のやりとりに唖然としたまま、成り行きを見守る。
「ま、まさカ、あんタたちハ……」
ブタっぱなを鳴らして獣人が驚く。
「この紋章を見ても、どかねぇってんなら相手になるぜ」
ヴォルグが兵服の中からネックレスを取り出した。
「それハ、もしや噂の特殊部隊の……。ス、すまなかっタ。どうカ、勘弁シテくれ、おいら、魔群合衆に加わって、まだ日が浅いんだ……」
慌てふためき後退る獣人。どうした、なんだってんだ?
「ふん、わかればいい。ま、せいぜい頑張りな」
獣人の言葉を遮り歩き出すヴォルグ。怯えた様子で道を譲る獣人の肩にポンっと手を置き、投げキッスをしてクロコも後に続く。
「……って、今のはなんだ」
獣人をやりすごしてから、俺は聞いた。
「お二人とも、お芝居が上手いですね」
フィリスが笑いをこらえて言う。
そうか、二人は阿吽の呼吸で一芝居うったのか。
「芝居か! 本当にビビったぞ。そういうことは事前に言ってくれ」
「ははは。こんなにうまく行くとは俺も思わなかったぜ。あいつが間抜けな猪ノ人で良かったな」
「軍服が新しかったから、新人さんかなとは思ったけど、ヴォルグったら、どこでそんな特殊部隊の証なんて手に入れたのぉ?」
「これか? はったりさ。どこにでも売ってる安い宝石さ」
そう言ってジャラリと手に出したネックレスは確かによく見れば安そうな代物だった。
「ま、なんにせよ、早く神殿内部に入っちまおうぜ。同じ手が何度も使えるとは思わねぇ」
「そうですね」
遠巻きに見ていた魔群合衆の兵たちも、今のやりとりを見て、触らぬ神に祟りなし、と無視を決め込んだようだ。
本当に魔王以外は大したことないのかもしれない、と思った。
首のない石像の道を過ぎると、ついに遺跡の入り口へ続く石階段だ。
俺がぶら下がる丸太を肩に載せていても、二人はすいすいと登っていく。さすが狼男とワニ女。この二人に魔術士のフィリスがいれば、魔王なんて簡単に倒せてしまうかもしれないな。
階段を登りきると、ぽっかりとあいた神殿内部への唯一の入り口が見えた。両脇には神殿の守護者たる古代騎士の石像があるが、こちらも頭はもがれている。古の戦争によって破壊されたものらしい。
なんか不気味だな。
「あ、入り口に見張りがいるぞ、どーするんだ?」
声を潜め皆に言う。
「ヴォルグさん」
「おう」
フィリスが呼ぶと、短く返事をしてズンズン進むヴォルグ。
「おい、お前たち」
登ってくる俺たちに声をかける兵士。
ヴォルグが兵士には見えない位置で右手を握りしめるのが見えた。
「下級兵は神殿内部には入れんぞっ。早く持ち場に……ガフッ!!」
最後までセリフも言わせてもらえず、入り口にいた番人はヴォルグに殴り飛ばされた。
神殿内部に叩き込まれる兵士。
「
サッと躍り出たフィリスの手のひらからビリビリっと小さなカミナリが弾け、倒れた兵士に襲いかかる。
骨が透ける感じの明滅をして兵士は黒焦げになった。
「さっきと打って変わって、ずいぶん強引だなぁ……」
「下からは見えねえように、やったから大丈夫だろ」
「てか。死んだ?」
「ドワーフですから頑丈なので、きっと死にはしないでしょう。さっ、みなさん早く行きましょう!」
哀れな黒焦げ兵士を尻目に、俺たちは神殿内部に進入したのだった。
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