【エピソード4 第14話】
凛音の体がグロい感じで溶けて、ぐにゃぐにゃってなって再び人の形になる。そして、現れたのはひらひらした純白のドレスに身を包んだ金髪の女だった。
「もっと、ロマンティックな感じで気づけよぉ! 少年! おっぱいって! ま。それでも、気づいただけマシかー。よかったよかった」
どこかで見たことがあるような、ないような。
「おっす流空くん久しぶりーって言っても昨日会ったばっかりか。女神のララちゃんだよー。お元気ぃ?」
馴れ馴れしい感じで手を振っている。だけど、俺はこんな人、知らんぞ。
「……誰?」
あまりに馴れ馴れしいので、若干身構えて尋ねる。
「……え?」きょとんとする女と、訝しげにその様子を見つめる俺。
「……いや、だから誰?」
「えーっと、あれ? これはどういうことかしら? んんん? あれれ、おっかしいなぁ。ちょっと流空くん私よ? ララよ? 女神様の」
「だから、誰?」
「うっそー! マジ?覚えてないの? マジで? デジマ? マジデジマ?」
「マジっすけど。どちらさんですか? 会ったことありましたっけ?」
「あー……。わかった。あれだ。はいはい。お姉さん思い出しました。そーかそーか……。打ち所が……んんん。なんでもない、なんでもない」
慌てた様子でごまかして、女は続ける。
「えーっとね。私は女神のララ。あなたをこの世界に転移させた張本人よ。ヤッホー」
「……。あんたが? 俺をこの世界に?」
軽い感じで突然現れて、とんでもないことを言い始めた女。本当か。こいつのせいで俺はこんな世界に飛ばされたのか?
こいつのせいで俺がどんな目にあってるか。
なんか薄情な感じの笑顔を見てると、ムカムカしてくる。
「でね。まー、いろいろ細かいことは省くけど、あなたにはちゃんと魔王を倒してもらいたいのよね。だからわざわざこうしてカラリル魔玉にかこつけてやってきたわけ。死なれたら困るからね。でも意外や意外。しっかりと真贋を見極める目はあるわけよ流空くんご立派。自力で夢の世界だと気づくとはえらい。女神パワーで手助けしようとしたけど、しなくても大丈夫だったわ。ようするに、あなた自身のやる気の問題だったのね。ちゃんと自分の状況と現実を見なさい!そして、さっさと観念して魔王を倒しに行きなさい」
「やかましいわ! 何を長々と偉そうに説教してくれてんだ! 俺は帰りたい! それしかない! そのためにしか動かねえぞ! こんな世界の魔王なんて知るか!」
「だからさー。帰せないって。そこらへんの話は前にしたじゃん! 人ちがいであんたを召喚しちゃったっての!」
悪びれる様子も無くいう女。いや、待てよ。言われてみれば、そんな話を聞いたような気がする。そういえば思い出したぞ。そうだ、こいつ、会うのは初めてじゃない。
「……ようやく思い出したのね。まったく、もう。本当はダメなのに、無理くり手伝ってあげようとしてたんだぞ。ララ様ありがとうございますって涙を流して感謝するくらいが普通だぞ。最近の若いもんはこれだから」
ぶつぶつと小言を言っている。
「じゃあ俺はラーマ神殿に行かなきゃ帰れないってこと?」
「そ。あの王女に聞いたでしょ。だから、魔力をつけて頑張んなきゃいけないわけ。わかった?」
「だ、だけど。俺がいなくなって、元の世界ではどうなってんだ? 俺はどういう扱いになってんだ」
「あー。それね。そうだよね、そこ気になるよね、まーそこらへんは今は考えないでオッケーよ」
「オッケーなわけあるかい。突然こんな世界に召喚されてんだぞ! 親とか彼女とか心配してんだろ! せめて無事なことくらい伝えてくれよ!」
「はーい、はいはい。分かりました〜。伝えておきまーす」
面倒くさそうな顔で受け答えをすると「で、時間ないから早く本題に入りたいんだけど」と自分勝手に話を進めようとしてくる。なんて女神だ!
「幸せでまどろむような夢の世界にいたのに、ちゃんと自分でその世界が偽物だと気づけたんで、カラリル魔玉の試練は成功ね。あなたの「エーテルゲート」は今まさに開こうとしています。魔力がどんじゃかどんじゃかあなたの中に蓄積されるからね。結構体が痛くなるけど、まあ死にはしないから頑張って耐えてね」
そうだった。俺は魔力を得るために危険な賭けに出たんだった。突然、変な自称女神がやってきたせいで、頭から抜けていた。俺は成功したのか。リティさんの言ってたように、現実を受け入れることができたのか。そういえば、心なしか、体が熱を持ち始めた気がする。表面じゃなくて、体のうちから熱がこみ上げてくるような感覚だ。
「ほらほら、感じてるでしょ。その熱さがこの世界の魔力の源『ヴェルネゴチフ粒子』よ。熱が出てるのはヴェルネゴチフ粒子が体内のエーテルゲートを通って魔力に変換されてるからよ。熱が引いたら、魔力に全部変換されたってことだから、光の剣とかも簡単に出すことが可能になるわよー。よかったわねー。さっきみたいにカッコつけたのに、でなかったら赤っ恥だもんねー。あれは見てて笑ったわ」
「て、てめえ。見てたんなら、なんか手助けしてくれてもいいじゃねえか」
「あんまり干渉できないの。そういう決まりなの。女神も大変なのよ。私だって、この世界に勇者送り込むのあなたで四人目……。あ、三人か。まあそんな感じで、これ以上この世界にコストかけられないわけ。上司に怒られるっていうか、バレたらヤバイ、みたいな。わかる?」
「……このやろう。そうだ、思い出した。あんた、俺になんか特殊能力をつけてくれるとか言ってたよな」
「だから言ったでしょ、それは手続きが一週間くらいかかるって……。あっ」
「……あ?」
「そういえば、書類を出すの忘れてた……」
「おい! 何してんだよ! ちゃんと出せよ! ってか書類申請とかでチート能力がつくってどういうことだよ。役所かよ」
「メンゴメンゴ。あの日、帰社したらすぐに提出しようとしたのに、同僚から「拙者彼氏にフラれてただいま号泣中ww】とかって連絡あって、話聞くよーって飲みに行っちゃってたんでした」
「……このババア」
「は? ちょっと、今なんて言った? 女神だぞ? 私、女神。どの口が抜かしてんの?」
「うるせえ! ババア!」
「ピキっ。だ、誰がババアですって! 人間的容姿で言えばまだ28よ!」
「アラサーじゃねえか! ババアだそんなんもん!」
「か、カッチーン! あったまきた!」
「どうせ、仕事全然できねえお荷物社員なんだろ! 書類一枚出し忘れるなんて、宿題忘れる小学生と同じレベルだぞ! 」
「はあ? こっちはあんたと違って色々忙しいんです。帰りたい帰りたいって馬鹿の一つ覚えみたいに言ってるあなたよりも、全然大人ですー」
「帰りたいに決まってるんじゃねえか、勝手にこんな世界に送りこまれているんだぞ。人の気持ちを考えろババア!」
彼女のこめかみに血管が浮かんでいるのが見えて、このワードがこの女に一番いい言葉だと悟った。
「ばばあ! ばばあ! ばばあだから物覚え悪いんですかー。やーいばばあ!」
ぐぐ、っと言葉にならないうめき声をあげる女の顔の色がみるみるうちに赤く紅潮していく。
「ばばあ! ばばあ! 仕事もできない、彼氏もいない、ばばあ! 売れ残り! 売れ残り!」
調子に乗って小学生レベルの悪口を言った時だった。
「ムカついた! お仕置きハンマー!!」
火山の噴火みたいに「むきーっ」と女は金切り声をあげると、背中から巨大な金色のハンマーを取り出し(どうやって隠し持っていたのかは謎)俺の脳天めがけて振り下ろした。
避ける隙も悲鳴をあげる暇もなく、ガツン、っと鈍い音とともに、目の前に星が瞬いて、俺の意識は薄れていった。
「あー。もう知らない!! もういい! いろいろ冒険に役立つアドバイスしてあげようと思ったのに、もう知らない! 地道に頑張りなさい! バーカバーカ……」
プンスカ怒る女の声が遠くなっていき、そして、俺は意識を失った。
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