41話 これからも猫として
漆黒の四足獣――
それはタマが“ベヒーモス第2形態”へと進化した姿だった。
愛する主人、アリアを助ける為……タマは本来のベヒーモスの姿となることを決意したのだ。
――悪いが時間がない、一瞬で終わらせてもらう!!
弩轟――ッッ!!
再びタマは咆哮する。
だが今度はただの咆哮ではない。
咆哮は灼熱の業火を帯びていた。
《属性咆哮》がひとつ、《フレイムハウリング》を発動したのだ。
『グガァァァァ――ッッ!? なんだこの威力は! このままでは……!!』
進化したことにより、タマの《属性咆哮》は格段に威力を増していた。
みるみるうちに、アースドラゴンの肌が焼き爛れていく。
このままでは、焼き殺される!
アースドラゴンは大きく後退し、業火の中から逃れる。
だが次の瞬間――
――終わりだ……!
そんな言葉が業火の向こう側から木霊する。
ボウ――ッッ!!
炎を突き抜け、タマがアースドラゴンの前に飛び出した。
そして、その尻尾の先には長大な炎の
『こうなれば……ッ!』
振り下ろされる焔の巨剣。避けきれないと察したアースドラゴンは相打ち覚悟で剛爪を横薙ぎに振り払った。
斬――――ッ!!!!
剣と爪。2つの攻撃が交差する。
アースドラゴンの攻撃はタマの顔から胸に大きな傷を残す。だが、タマは紙一重でタイミングをずらすことで致命傷を免れた。
そしてその直後、タマの《フレイムエッジ》がアースドラゴンの頭を縦一文字に叩き割った。
勝敗は決した。
Sランクモンスター同士の戦いを制したのは、タマだ。
(まだだっ。早くご主人のもとへコヤツの目玉を届けねば!)
そう、アースドラゴンに勝利すればそれで終わりとはいかない。アリアの命が尽きるその前に、何としてもアースドラゴンの目玉を届けなければならないのだ。
傷で倒れそうになりながらも、アースドラゴンの死体を《収納》スキルで回収し、飛び立とうとした……のだが――
――ぐっ、なんだこれは!?
突如、タマは自分の中のマナが暴れまわる感覚に襲われた。それにより、体が言うことをきかず、動くことができない。
次の瞬間――
カッ!!
タマの体が光に包まれた。すると光はみるみる小さくなってゆく。
そして、光が収まると……
「にゃあ(体が小さく戻っている)……?」
そう、タマの姿は元の……子猫の姿に戻っていたのだ。
(何故だ? 進化には時間制限があるのか? それとも……いや、そんなことより、ご主人のもとへ急がねば!)
体が元に戻った理由は分からない。だが、タマにとってはこれ幸い。
改めてアースドラゴンの死体を回収すると、ボロボロの体でレナードの町へ向かって飛び立つ。
進化が解除されるなど通常であれば起こり得ることではない。
ある意味、それはタマがアリアとともにいたいと願った故の奇跡だったのかもしれない――
◆
「うぅ……っ、タマ……タマぁ……っ」
レナードの町の宿屋。
ベッドの上でアリアはポイズンドラゴンの毒により、うなされていた。
縋るようにタマの名前を何度も呼ぶ。
そんな彼女の手を、悲痛な面持ちでヴァルカンが握っている。
「くそっ! やはり解毒剤はないのか!」
セドリックが悔しげに言葉を吐く。
レナードの町に戻り、医者や薬師にポイズンドラゴンの毒の解毒を頼むも、予想どおりというべきか。
解毒剤の材料であるアースドラゴンの目玉を所持してはいなかった。
片田舎の町であれば、それは当然であった。
一縷の望みに賭け、ベリルの遺体や彼の住処になっていた遺跡の中を探してみたが、それも無駄に終わった。
「アタシらがしっかりしてれば……!」
「アリアさん……」
ベッドから少し離れた場所ではケニーとマリエッタが言葉を漏らす。
騎士である自分たちが付いていながら、こんな事態を招いたことに責任を感じているのだ。
ダニーとハワードも、ただ無言でアリアを見つめるのみだ。
だが、そんな時――
「に゛ゃ……にゃあ……!」
窓からそんな鳴き声が聞こえてくる。
「タマちゃん! 姿が見えないと思ったらそんなところに……それに傷だらけじゃないか!」
急いで窓を開け、タマを中に入れようとするセドリック。しかし、タマはその手を躱すと、下へと降りていく。
「にゃあ(《収納》スキル発動)……!」」
「これは……アースドラゴン……!!」
「なんだって!?」
セドリックの言葉に、窓から首を出す騎士たちとヴァルカン。
タマの《収納》スキルから頭を割られたアースドラゴンの死体が宿屋の前に現れた。
「傷を負ったタマ……それにアースドラゴンの死体……まさか……」
「そんなことはどうでもいいのである! 早く目玉を取り出し、アリア嬢に煎じて飲ませるのである!!」
「薬師と医者を呼んでくるにゃん!!」
驚愕に目を見開くダニーに、それを叱責し、解毒を促すハワード。
そして、ヴァルカンは薬師と医者を呼ぶため、宿屋を飛び出した。
(これでいい。これでご主人は助かる……)
残ったマリエッタたちによって、タマはポーションを飲まされ傷が癒えていく。
アリアが助かると分かり安心したこともあり、タマの意識はそこで途絶えた。
◆
「ふふっ、おはようございます。タマ……」
「にゃお〜」
迷宮都市の宿屋のベッドの上、アリアの胸に抱かれタマが目覚める。
あれから数日が過ぎた。
アースドラゴンの目玉のおかげで、アリアは一命を取り留めた。
魔族ベリルの討伐も、もちろん成功とみなされ今は報酬の支払い待ちとなっている。
だが、心配な点がひとつ。確かにアリアは一命を取り留めたが、毒の猛威は凄まじく、彼女の体力を大きく削り取り、さらに筋肉を衰えさせた。
それにより、アリアの体は大きく弱り、数日たった今も療養中となっているのだ。
「それにしても、あのアースドラゴンの死体は、やっぱりタマが……?」
「にゃお〜?」
そして気になる点もうひとつ。今アリアが言ったとおり、アースドラゴンを倒して持ってきたのはタマなのではないか……? という疑問だ。
セドリックたちから、傷を負ったタマが戻ってきたと思ったら、アースドラゴンの死体が突如現れたと聞かされれば、その疑問も当然だ。
たびたびアリアは、そのことをタマに問いかけるのだが……タマはいつも「なんのこと?」といった様子で首を傾げるのみだ。
「にゃお〜」
「あんっ、タマったら甘えんぼうさんなんだから……」
そして、誤魔化すようにアリアの頬に頭を擦り付けるタマ。
結局、真実を知るのは
だが、そんな疑問も瑣末な問題だ。
なぜなら、アリアはこんなにもタマを愛し、タマもまた彼女に心から忠誠を誓っているのだから――
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