38話 復讐

「ば、馬鹿な! なんだあのふざけた攻撃は!? 待てよ、あの毛並み、それにスキルを使う猫……そうか、あれはエレメンタルキャトか! くそっ、騎士の他にあのような厄介な生物も紛れていようとは……!!」


 遺跡の奥で、魔族の青年は憤慨していた。

 自分が計画のために、長い時間をかけて集めたワーウルフたちが、まさか一撃で屠られようとは思ってもみなかったからだ。


 そして、気づく。

 強力なスキルを放ったタマがエレメンタルキャットなのではないかと。


「いや、この際あの猫の正体などどうでもいい。肝心なのはいかに排除するかだ。こうなれば、ヤツら・・・を解放し、ともにワタシも出るまでだ……」


 魔族の青年は歩き出す。

 それとともにマナを操作する。


 遺跡の奥で眠る、とあるモンスターたちを呼び覚ますために――





「んにゃ〜びっくりしたにゃん!」

「本当ですぅ! まさかタマちゃんがあんなスキルを持っているなんて」

「エレメンタルキャット……。改めて興味深い生物だね……」


 ヴァルカンにマリエッタ、それにセドリックや他の騎士たちも次々に感想を漏らす。

 タマはアリアの胸の中で「どやっ」とした表情を浮かべている。


「わたしもびっくりしました。まさか、タマが他にも固有スキルを持っていたなんて……」


 タマを抱っこするアリアも、自分の愛するペットを誇らしく思うも、予想以上の強さに少々困惑して――いるかと思いきや、急に頬を赤く染め息を荒くして、「わたしの騎士ナイト様がこんなに強いなんて……」とか、「こんなに強いなら、おおきくなったら力でねじ伏せられて、無理矢理あんなことやこんなことを……!」などと、興奮した様子でぶつぶつ呟いている。


(ああ、最近戦闘において著しい成長をしているので感心しておったが、やはりご主人はご主人だ……)


 エロフスイッチの入ったアリアに、タマはため息をつく。


「さぁ、そろそろ奥へ進もう。タマちゃんが強いのはわかったけど、油断は禁物――ッ!?」


 油断は禁物だ。そう言おうとしたセドリックだが、言葉の途中で目を見開く。


「ぬ? このプレッシャーは……」

「ああ、ヤバイのが近づいて来てるみたいだな……!」


 ハワードの言葉に、ダニーが頷きながら応える。

 他の騎士たちはもちろん。

 アリアとヴァルカンの表情も硬い。


 遺跡の奥――

 そこからとんでもない威圧感が押し寄せてくるのだ。


『よくぞ、ワタシのワーウルフ部隊を倒した。だがここまでだ。人間どもよ』


 底冷えするような声とともに、ひとつの影が現れる。

 赤銅の肌に緑の髪、そしてあらんばかりの殺気を孕んだ紫の瞳……魔族の青年だ。


「これはこれは、親玉自ら登場か。魔族、何を企んでいる?」


 魔族の登場に、いつも甘いマスクから能面のように無表情になったセドリックが、問いかける。


 魔族は人間と同じように社会を構築し、生活している。

 それが、このような青年が1人でモンスターを従え行動するなど、あまりにも不自然。

 その目的が何なのか、気になったのだ。


『いいだろう、教えてやる。ワタシの名は“ベリル・アスタロス”。目的は……復讐だ』


 静かに、だが憎悪を感じさせる言葉をもって答えた魔族の青年――ベリル。


 そんな彼の言葉に……


「なに? アスタロスだって? アスタロスってたしか……」

「レナードの町ができた場所にあった、魔族の集落の名前だったはずですぅ!」


 ケニーとマリエッタがそのことを思い出す。


 レナードは魔族の集落があった場所にできた町だと、町長が言っていたのは記憶に新しい。

 その集落の名と同じ部族名を持つベリル。

 そして“復讐”という言葉。


 つまり、ベリルの成そうとしていることとは――


『くくく……そうだ人間どもよ、ワタシは数年前に滅ぼされた集落、アスタロスの生き残りだ。そして、レナードの町を滅ぼすことによって復讐を果たすのだ……!』


「なるほどね。ただ町の人たちを攫っていたわけではなかったようだ」

「ああ、おおかた町人を攫っていたのは、配下のモンスターたちの食料確保のためってとこだろう」


 高らかに宣言したベリル。

 それを受け、セドリックとダニーが納得といった感じで会話を交わす。


 ベリルは集落のただ1人の生き残りだった。

 そして復讐のため、成長とともに長い年月をかけ、戦力を集めたのだ。


『さぁ、“眷属”どもよ! 奴らを殺し、街を滅ぼすのだ!!』


 ベリルが声を張り上げる。

 すると彼の後方……暗闇の中から『ゲバァァァァ――ッ!!』という雄叫びが複数鳴り響いた。


「ぬ!? まさか、この声は……!」

「ああ、間違えねぇ……“トロール”だ!!」


 ハワードとダニーが言うと同時。

 それは現れた。


 3メートルはあろう巨体、土色の肌。

 顔はどこまでも醜く、丸太の様に太い手足を持ったモンスター……トロール。

 ランクで表せばAランクという非常に危険な存在だ。


「と、トロール……!」

「んにゃ、それも全部で六体……。本気で町を滅ぼしかねないにゃ!!」


 アリアもヴァルカンも驚愕に目を見開く。

 まさか、これほどに強力なモンスターをこれだけの数従えていようとは……


「散開!! みんな決して固まって行動するな!」


 セドリックが指示を飛ばす。


 トロールはとんでもない剛力とリーチ持つ。

 固って戦えばまとめてやられかねない。

 だからこそ、散開してのヒット&アウェイで戦うしかないのだ。


『くくくッ! かかったな! 《マルチプロテクションウォール》発動!!』


 散開した瞬間――

 ベリルは目を見開き笑うと、とあるスキルを発動した。


「くッ、これは!?」

「くそっ、やられたぜ!」


 セドリックとダニーが悪態を吐く。

 彼は数人ずつ、半透明の結界のようなものに閉じ込められ分断されていた。


 《マルチプロテクションウォール》――それは、複数の防御結界を展開するベリルの固有スキルだった。

 それを正方形状に展開し、トロールと一緒に皆を閉じ込めたのだ。


 騎士たちとトロール二体。

 タマとトロール四体。

 そしてアリアとヴァルカン、ベリルといった組み合わせだ。


『くくっ、そのエレメンタルキャットは一番危険そうだったのでな……。手厚く包囲させてもらった』

「そんな……! タマ!!」


 結界の中、複数のトロールに囲まれたタマの姿を見て、アリアが悲痛な声を上げる。


(くそっ!! 援護に回れるよう、ご主人の側を離れたのが逆手に取られた!)


 迫りくるトロールを見て、いつでも援護出来るようにタマはアリアの胸の中から飛び出し、距離を取っていた。

 タマは自分の危機的状況などより、アリアが心配でたまらない。


『さぁ、貴様らの死をもって、ワタシの復讐開始の狼煙とさせてもらおう!!』

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