37話 新たにスキルをお披露目
『ガルルッ』
『グゥゥゥ……』
遺跡内部へと足を踏み入れたアリアたち。
出迎えたのは唸り声を上げる複数の異形どもだった。
「これは珍しい。“ワーウルフ”であるか」
「それもこの数となると、間違いなく魔族が潜んでやがるな」
ワーウルフたちの姿を見て。
ハワードとダニーがそんなやりとりを交わす。
ワーウルフとは文字どおり人狼型の魔物だ。だが、その特性は人や狼とは違う。
ワーウルフはそれらと違い孤高を好むモンスターであり、常に単体で行動する。
だというのに、この遺跡のワーウルフは何体も群れている。
そこから導き出されるのは、魔族によって統制されているという予想だ。
「よしみんな、いつも通りいこう!」
「「「「了解!!」」」」
「アリアさんとヴァルカンさん、それにタマちゃんは隙を見て攻撃を!」
「「「了解です!(にゃん)」」」
セドリックが指示を飛ばす。
それにそれぞれ応えると、戦闘は始まった。
「さぁ、ケダモノども! こっちである!!」
まず飛び出したのはハワードだった。
先頭に踊り出ると、ガントレットと大盾をぶつけ、打ち鳴らす。
『『『ガァァァァッッ!!』』』
雄叫びを上げるワーウルフども。
そのどれもが目を血走らせている。
そして、一斉にハワードへと殺到する。
(ほう、《挑発》スキルか。さすが
タマは感心する。
ワーウルフどもがハワードに殺到したのは、彼がけたたましい音を立てたからというわけではない。
ハワードは《挑発》というモンスターの闘争本能を煽るスキルを発動し、注意を自分に引きつけたのだ。
タンクの役目は、いかに敵たちを自分に引きつけ、仲間に怪我を負わせないようにするか――これに尽きる。
先頭のワーウルフ三体がハワードに、蹴りやパンチ、爪による連携攻撃を加える。
「ゲヒャヒャヒャッ!! そんなものが効くわけがないのである!!」
ハワードは豪快に笑いながら、それらの攻撃を絶妙な盾捌きで全て防いでいく。
ドガン! ガコン! という重い打撃音が響くが、ハワードの体はビクともしない。
リザードマンの体は頑丈、そして重い。
通常の人間では耐えきれぬ攻撃も、決定打とはならないのだ。
「そらいくよ!」
「撲殺なのですぅ!」
後方に続くワーウルフたちへ。
今度はケニーとマリエッタが仕掛ける。
だが、挑発されハワードに夢中なワーウルフどもはそれに気づかない。
あっという間に2人に命を刈り取られる。
「あはははははぁ! いい声で鳴いてくれよぉ!?」
「あ〜あ……隊長、さっそく火がついちまったよ……」
反対サイドからはセドリックが、かなりヤバイ声と表情でワーウルフを斬りつける。
それを呆れた様子で見ながら、ダニーも戦線へと加わる。
どうやら、セドリックが殺しが好きな異常快楽者という話は本当のようだ。
「んにゃ〜! セドリック様、すごい剣捌きにゃ!!」
「け、剣筋がほとんど見えません……! これが魔神の黄昏を生き抜いた英雄の力……わたしたちも負けてられませんよタマ!」
「にゃあ(もちろんだ、ご主人)!!」
外側からアリアたちも援護をしながら、セドリックの剣捌きに目を奪われる。
まず動きに無駄がない。最小限の動きで剣を振るい、急所をひと突き。
一撃のもとに屠ってみせる。
『『『グルアァァァァァァァァ――ッッ!!』』』
「ぬ? 隊長! 増援なのである!!」
「どうやらそのようだね。しかも今度のヤツらは武器を持っているようだ。ここは各個撃破撃破で――」
「セドリック様! ここはおまかせください。タマ!!」
「にゃあ〜(まかせろ、ご主人)!!」
新たに、武器を持ったワーウルフどもが奥から流れ込んでくる。
セドリックは、各個撃破を指示しようとするが、アリアがそれを制し、タマの名を呼ぶ。
前方に駆け出すタマ。
そのまま一気に肺の中に空気を吸い込む。
(《エーテルハウリング》……でもいいが、それでは時間稼ぎにしかならぬ。よし、ここはご主人に新たに我が輩の力を知ってもらうことにしよう!)
「にゃん(《ウォーターハウリング》)!!」
タマは《属性咆哮》がひとつ、《ウォーターハウリング》を発動した。
高圧縮された水の息吹が、迫り来るワーウルフの胸を貫いた。
(まだだ!)
タマの攻撃はまだ終わらない。
《ウォーターハウリング》を放出しながら、首を真横に振り払う。
水の息吹がワーウルフどもの胸を次々と薙ぎ払っていく。
――――……
訪れる静寂。
横一文字に斬り払われたワーウルフの胸から上が、次々と地に落ちていく。
無論、そのどれもが一撃で命を刈り取られた。
「「「「は…………?」」」」
あまりの出来事に、そんな間の抜けた声を漏らす騎士やヴァルカン。
「た、タマ……? あなた、まだそんな力を隠し持っていたのですか?」
アリアも引きつった表情を浮かべながら、タマに問いかける。
タマは、「にゃ〜ん」と可愛らしく応えるのだった。
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