36話 ビキニーアーマーズの実力
「いるな……」
「であるな、全部で六体であるか。それもいきなり“ホブゴブリン”……。中はどうなっていることやら」
翌朝――
物陰で、ダニーとハワードがやりとりを交わす。
アリアたち一行は予定通り、件の遺跡へと訪れていた。
遺跡の入り口にはゴブリンの上位種族、ホブゴブリンが徘徊しているのが確認出来る。
身長は人間の成人男性ほどあり、ゴブリンと違いそれなりの知性を持つ厄介なモンスターだ。
「よっしゃ、ここはアタシたちの番だな!」
「ですぅ! 奇襲はお任せなのですぅ」
ケニーとマリエッタが奇襲を買って出る。
それにセドリックは小さく頷くと、2人はダッ! と駆け出した。
速い。
《アクセラレーション》を発動したアリアほどではないが、それでも十分な速さだ。
それに、速いのに静かだ。2人とも装備がビキニアーマーのため、防具がぶつかり合う音がしないのだ。
さらに飛び出すタイミングが良かった。
2人が飛び出したのは、ちょうどホブゴブリンたちの視線がこちらへ向かなくなった僅か一瞬だった。
ボグゥ――ッッ!!
マリエッタが金属の棍棒でホブゴブリンの内の一体の後頭部を強打する。
ホブゴブリンは気づく間もないまま、撲殺された。
そして、同じような展開がケニーの方でも繰り返されていた。
振るわれる戦斧、脳天から首元まで叩き割れる頭。
こちらも背後からの一撃で仕留めた。
『グギャァァアア!!』
二体やられたところで、ようやく奇襲に気づいたホブゴブリンどもが、ケニーとマリエッタに殺到する。
ホブゴブリンたちの得物は石斧だ。
先頭の一体がケニーに思い切り振り下ろす。
「はっ、なんて遅い攻撃だい! おら、潰れちまいなぁ!!」
ケニーは難なくそれを回避。さらにステップとともに、ホブゴブリンの股間に蹴りを見舞う。
鋼鉄のレギンスによる強撃によって、ホブゴブリンが『ガギャアアアアア――ッッ!?』と絶叫を上げる。
「はい、お疲れ――さん!!」
激痛で悶えている隙に、ケニーが戦斧をひと振るい。
ホブゴブリンの頭を刎ね飛ばした。
「はーい、玉砕ですぅ!!」
その後ろではマリエッタが、振り上げ攻撃を繰り出していた。
狙いはケニーと同じく、またもや股間であった。
今度は棍棒による強打。
文字どおり
『グギャ……』
『グギギ……』
ビキニアーマー2人組の強さ、そして非情さに。
残りの二体が後ずさる。
だがもう遅い。
二体が後ずさったその瞬間、それぞれの胸から鮮血が迸った。
「お疲れさん。ケニー、マリエッタ」
「うむ、いつもながら見事な奇襲である」
ダニーとハワードだ。
ダニーは長剣で、ハワードは手刀で――
背中からホブゴブリンたちを貫いていたのだ。
「さて、地図では出口は1つしかないから、これで敵の逃げ場はない。向こうが態勢を整える前に一気に突撃と行こう」
「「「「了解!!」」」」
セドリックの掛け声に、隊員たちは揃って返事をする。
アリアたちも後れを取らぬよう、後に続く。
◆
『これは……侵入者か? 見た限りでは冒険者と騎士……ということは、ワタシがここに潜んでいることがバレたか。町から人間を攫うのには細心の注意を払っていたというのに……』
遺跡の奥深く――
1人の青年が忌々しげに呟く。
赤銅色の肌に紫の瞳。
そして髪は毒々しいまでの緑色……
その種族の名は魔族。
人を殺し、喰らうことで生きる人類の大敵だ。
そして、この魔族の青年こそが今回の人攫い騒動の原因であり、アリアたちの討伐対象だ。
彼の紫の瞳は地面に置かれた水晶に向けられている。
水晶の中を見れば、遺跡の中を進んでくるアリアたちの姿が映し出されているではないか。
水晶の正体は、マジックアイテムだ。
マナを注ぎ込むことで、あらかじめ指定しておいた場所の景色をリアルタイムで映し出すことが出来る。
『クソッ、そろそろ
魔族の青年は顎に手を当て、ブツブツと呟く。
『いや、後悔しても遅い。本当はモンスターを……戦力をもっと増やしてからにしたかったが、もう実行に移すしかない』
少しの思考の果てに、やがて青年はそう判断する。
そして、目を瞑り意識を集中する。
魔族はマナを操ることで、モンスターを意のままに動かすことが出来る。
要は、アリアたちに遺跡の中で蠢くモンスターたちをけしかけようというわけだ。
『まずは小手調べだ。ワタシの計画を邪魔立てしたことを後悔させてやるぞ、人間どもよ……!』
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