35話 騎士を志した理由
「ああ、騎士様方。よくぞいらっしゃって下さった!」
夜――
1日の大移動を終えた一行を、この町の町長が「待ってました!」と迎え入れる。
幸いにもあれからモンスターに出くわすことはなかった。
「さっそくだけど、魔族が目撃された遺跡の場所や、詳しい状況を教えてもらえるかな?」
「もちろんですとも。遺跡はこの町から数分の位置にあります。行方不明者については、実は昨夜も若い娘が1人……」
セドリックに説明を請われ、それに応じる町長。
どうやら、さらなる被害者が出てしまっていたようだ。
タマを抱くアリアの腕に力がこもる。
犠牲に心を痛めているのだ。
「……本当は、もっと早くに警戒に努めるべきだったのでしょうが、なにぶんこの町はできてからまだ日が浅く、自前の衛兵を用意するまでに至っておりませんで」
「そうか、確かこの町はもともと魔族の集落があったのであるな」
町長の言葉に、リザードマンのハワードが思い出したように呟く。
この町、レナードは、先の
加えて、騎士団や冒険者ギルドを擁する迷宮都市が近くにあるという理由もあり、この町は自衛の力が弱いのだ。
「さぁさぁ、皆さま、お疲れでしょうからどうぞこちらへ。宿に料理と温泉を用意しておりますので」
地図で遺跡までの距離や、目撃されたモンスターの種類の確認を終えたところで、町長が一行を促す。
別れ際に、町人たちへ屋外への外出を控えることを徹底させるように、あらためて指示を出す。
◆
「お、この肉美味いな!」
「こっちの山菜の揚げ物も美味である」
宿の食堂に用意されていた料理を口にし、ダニーとハワードが思わず声をあげる。
並んでいたのは肉と山菜を使った料理だった。
食堂の娘の説明では、この町の近くには遺跡の他に小さな山があり、新鮮な肉と山菜が確保できるそうだ。
「料理が美味しいとお酒も進むのですぅ〜!」
「ほどほどにしときなよ、マリエッタ? 明日は魔族の討伐が控えているんだからね」
向かいの席では酒をぐびぐびと呷るマリエッタに、ケニーが注意を促す。
そんな4人の様子を隊長であるセドリックが苦笑しながら眺めていた。
「なんだか、みなさん緊張している様子がありませんね」
「ホントにゃ。やっぱり、
席の隅の方では、ひっそりとアリアとヴァルカンがそんなやりとりを交わす。
(ふむ、なんというか。これでは騎士と言うより冒険者の方が性質が近い気がするな)
出会い頭から今に至るまでの、彼らの振る舞いや接し方に、タマもそんな感想を抱く。
と、ここで……
「みなさんは、どうして騎士になったのですか?」
「んにゃ〜、私も気になるにゃあ」
アリアとヴァルカンが騎士たちに問いかける。
魔神の黄昏を戦い抜き、英雄とまで呼ばれる彼ら……騎士になるまでに、いったいどんな背景があったのか気になったのだ。
「なんだ、アリアちゃんたちはそんなことが気になるのか?」
「話してもいいであるが、そんなに面白い話ではないであるぞ?」
酒も入り、顔を赤くしながらダニーとハワードが言う。
アリアがぜひ聞きたいと答えると、「じゃあ、俺から……」とダニーが話し始めた。
「俺の生まれた家は貧しくてな。ある日タチの悪いヤツらに借金をしちまったんだ。馬鹿みたいな額の利息を押しつけられて、払えなくなっちまった。とうとう、八方塞がりになって母親が身売りを覚悟したんだが……」
そんな時に、たまたまダニーの故郷に遠征の途中で騎士団が立ち寄ったらしい。
そして、これもたまたま騎士団は若い戦力を欲していた時期だった。
その時すでに、ダニーは剣の腕にある程度の覚えがあった。
「まだ子供だった俺は、玉砕覚悟で当時の騎士の1人に勝負を挑んで、勝利したら騎士として俺を雇ってくれって言った。賃金は前払いで家の借金の額を丸々言った。当然鼻で笑われると思ったんだが、その騎士は変わり者で、勝負を受けてくれたんだ」
そして結果は……やはり、ダニーの負けだった。
だが、決して悪い勝負内容ではなかった。
それを見た当時の騎士隊長は、なんと本当にダニーを騎士として雇い入れた。
つまり、借金を丸々肩代わりしたのだ。
「そこまでされちゃあ、意地でも恩は返さなきゃならねーよな。だから俺は必死で鍛錬を積んで、一番隊の副隊長になったんだよ。まさか魔神の黄昏にまで駆り出されるとは思ってなかったけどな。なははははっ!!」
ダニーは語り終えると、他人事のように笑ってみせるのだった。
「…………」
アリアは黙り込んでしまう。
騎士団の一番隊と言えば、騎士団の中でも特に位の高い人物が配属されると聞いたことがあった。
てっきり皆、セドリックのような貴族の出身かと思っていたのだが、実際は家族思いで義に厚い平民の男だったとは……
「某もダニーと同じように平民の出身であるぞ。騎士になった理由も同じで、家の借金が原因である」
「アタシは病気の姉の薬代を肩代わりしてもらうのを条件に、騎士になったんだ」
「私は、労働奴隷に落とされたお父さんを救い出してもらう代わりに騎士になったですぅ」
ダニーに続けて、ハワード、ケニー、マリエッタが言う。
「んにゃ〜、思った以上にヘビーにゃ。軽々しく聞いちゃって申し訳ないないにゃ……」
ヴァルカンもバツが悪そうに俯き、自慢のトラ耳を、しゅんっと垂れさせてしまうのだった。
「な〜に、そんな顔するなって2人とも」
「そうである。皆、すでに騎士団には恩義を返し終わり、自らの意志で任務に従事しているのである」
アリアとヴァルカンの落ち込んだ様子を見て、気を利かせたダニーとハワードがケロっとした様子で話しかける。
「まぁ、騎士団にしっかり金を返せたのは、セドリック隊長の義弟くんのおかげなんだけどね」
「ですぅ! “舞夜”ちゃん……。今頃はサクラさんたちとのハーレム生活を満喫してる頃ですかねー?」
ダニーたちに続いて、ケニーとマリエッタが言う。
「す、すごいです! 舞夜様……大魔導士様をそんな親しげに……! それにどういうことですか? 大魔導士のおかげって……? あれ? しかも今、サクラさんって……!?」
ケニーとマリエッタの言葉に、アリアが興奮した様子で反応する。
かと思えば、サクラという聞き覚えのある名前まで出てきて、頭の中が疑問で埋め尽くされる。
「んにゃ? アリアちゃん知らなかったにゃ? サクラちゃんの妊娠相手は舞夜ちゃんのことにゃよ」
「え!? そんなこと言ってませんでしたよヴァルカンさん! しかもヴァルカンさんまで大魔導士様をちゃん付けに!?」
「にゃあ……そういえば、この前は男の娘魔法使いちゃんって言ったんにゃっけ? 舞夜ちゃんは、大魔導士って呼ばれる前からうちの店の常連さんだったにゃ。あぁ……懐かしいにゃあ……」
「なっ……!?」
世界を救った最強の少年、大魔導士――
そんな存在と自分のパーティであるヴァルカンが、旧知の仲だった……そんな事実に衝撃を受けるのだった。
「俺たちが騎士団に金を返せたのは、この世界に来たばっかの舞夜と一緒に、大規模なクエストに同行することがあって、そん時の報酬を山分けしてくれたからなんだ」
「舞夜殿は本当に強く、心優しい少年であったな。それに、あの時でさえ十分に強かったというのに、まさか単騎で魔神を存在ごと消滅させてしまうほどに至るとは……驚きである」
(たった1人で魔神を存在ごと消滅……。あの噂は本当であったか。おまけにこの高潔な騎士たちにここまで慕われているとは……大魔導士殿、いつか会ってみたい御仁だ)
強さとしての高み。
そして人としての高み。
騎士であったタマはその2つに重きを置いている。
それらをもっとも満たしているであろう大魔導士に。
自分もいつか、ひと目だけでも見てみたいとタマは思うのだった。
ちなみに、セドリックにも騎士になった理由を聞いてみたのだが……
「僕は女性が愛せないフレンズだから家督は継げないし、やることが無いから騎士になったんだ。それに騎士になれば、モンスターだけじゃなく、犯罪者であれば合法的に人殺しが出来るだろ? たまらないよね☆」
という、かなりヤバイ答えが、イケメンスマイルとともに返ってきた。
もちろんアリアとヴァルカンはドン引き。
せっかくの感動的な雰囲気も台無しである……。
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