6話 魔牛

(む……ッ)


 とある目的のために道を引き返していたベヒーモス。

 そんな彼の前に三体の敵が現れた。


 敵の名は“ミノタウロス”。

 筋骨隆々の牛人型のモンスター。

 階級はCとBの間……C+と呼ばれるランクだ。


『モ゛ォォォォォォッッ!!』


 ベヒーモスの姿を見た瞬間。

 三体揃って猛然と駆け出してくる。

 幼いベヒーモスの柔肉を我先に喰らおうといったところだろう。


(ミノタウロスか、ちょうどいい。骨のある相手と戦いたいと思っていたところだ。我が輩の《属性剣尾》の餌食となるがいい!!)


 ベヒーモスも闘志を燃やす。


 先手は先頭のミノタウロスだった。

 手にした巨大な戦斧を振りかぶり、ベヒーモス目掛けて一気に振り下ろしてくる。


(なかなかの斧捌きだ。だが単純だ!)


 ベヒーモスはバックステップすることでそれを回避。

 標的を失った戦斧が地面に激突し、土煙が上がる。


 だが、どういうことだろうか。

 次の瞬間、土煙が吹き飛んだ。


『モ゛ォォッ!?』


 後ろに続いていたミノタウロスが驚愕する。


 当然だ。

 土煙の中から姿を現した同胞……その頭部がなくなっていたのだから。


(まだだ!)


 首のなくなったミノタウロス。

 その足もとからベヒーモスが飛び出した。


 土煙が吹き飛んだ理由。

 そしてミノタウロスの首と胴体が離れ離れになった原因は、ベヒーモスが発動した《エーテルエッジ》。

 大気の刃が身に纏った気流で土煙を吹き飛ばし、そのまま首を刎ね飛ばしのだ。


『モ゛ォォォォ!!』


 何か分からないがこいつは危険だ。

 本能でそれを感じ取ったミノタウロスが、ベヒーモスから距離を取る。


 するとその内の一体が斧を掲げる。

 その行動に、ベヒーモスは敵が何をしようとしているのか勘づいた。


『モ゛ォォ……《ファイアーボール》!!』


(やはり魔法か!!)


 ミノタウロスの中には魔法が使える個体がいることをベヒーモスは知っていた。

 そして、距離を取ったというのに改めて武器を大きく構えたミノタウロスの行動を見て、魔法を発動しようとしていることに思い至ったのだ。


 ゴウゴウと猛る火球。

 ベヒーモスを焼き尽くそうと迫り来る。


 だが、ベヒーモスも黙ってやられるわけがない。

 敵の攻撃に勘づいた時には、攻撃を放つ為の溜めに入っていた。


「にゃん(《エーテルハウリング》)!!」


 そして一気に肺の中の空気を吐き出し、《属性咆哮》がひとつ、《エーテルハウリング》を発動。

 直撃コースにあった《ファイアーボール》を、凄まじい風圧で押し返した。


 勢いそのまま――否、それ以上の速度で跳ね返ってきた《ファイアーボール》。

 予想外の出来事に、ミノタウロスは対応できない。

 自分で放った火球を顔面に受けてしまう。


『〜〜〜〜……ッッ!!!!』


 顔面を押さえながら声にならない叫びを上げるミノタウロス。

 あまりの激痛にジタバタジタバタとのたうちまわる。


 ドスッッ!!


 鈍い音が響く。


 音の出どころはのたうちまわるミノタウロスの胸部。

 見ればおびただしい量の血が流れ出ている。

 言わずともベヒーモスの《エーテルエッジ》によるものだ。


(次だ!!)


 不可視の刃をミノタウロスの胸から引き抜き、ベヒーモスが最後の一体を睨みつける。


 対しミノタウロスは、ダッ!! と身を翻し来た方向へと駆け出した。

 前の二体がやられたことによって、ようやく理解したのだ。

 自分たちが狩られる側であったのだと。


「にゃん(逃すか)!」


 無論。

 命を狙われたのだ。

 ベヒーモスに見逃してやる気はさらさらない。


 発達した両脚で疾走するミノタウロス。

 それに追いつく為、新たに手に入れたスキル《飛翔》を発動する。


 足場の悪い迷宮を駆けるミノタウロスに対し、ベヒーモスは障害物のない宙を駆ける。当然のようにあっという間に追いついた。


『モ゛ォォォォォ――《アイシクルランス》!!』


 追い詰められたミノタウロス。

 苦し紛れに水属性の中級魔法、凍てつく魔槍、《アイシクルランス》を放ってくる。


(馬鹿にしおって、そんながむしゃらに放った攻撃に、我が輩が当たるわけがなかろう!)


 騎士であったベヒーモスは魔法を使う敵とも幾度となく戦って来た。

 手練れともなれば、全ての攻撃に単調なものはなく、フェイントを織り込み仕掛けてきた。


 追い詰められたミノタウロスが、苦し紛れに放った魔法攻撃など見切れぬわけがない。


「にゃん!」


 器用に翼の角度を変え半回転。

 半身で《アイシクルランス》を躱しきってみせる。


「にゃお(《フレイムエッジ》)ッ!!」


 お返しとばかりに《属性剣尾》でもっとも斬れ味のある《フレイムエッジ》を発動。


 斬――――ッッ!!


 煌煌と輝く灼熱の刃は、ミノタウロスを縦真っ二つに割ってみせた。


(おお、さすがの熱量だ。斬った表面がこんがりと焼けておる。さっそく食べてみることにしよう)


 焦げた表面からバクリと食らいつくベヒーモス。

 咀嚼してみると、牛によく似た旨味と肉汁が口の中いっぱいに広がる。


(うむ、美味い。これは全て回収することにしよう)


 そう決め、三体のミノタウロスを一口ずつ頬張ると、残りは《収納》スキルで全て仕舞い、目標へと向かって歩き出す。


==============================

名前:なし

種族:ベヒーモス(幼体)

固有スキル:《属性咆哮》、《スキル喰奪》、《属性剣尾》

喰奪スキル:《収納》、《ポイズンファング》、《飛翔》、《ファイアーボール》、《アイシクルランス》

==============================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る