5話 それぞれの特性

(よし、要領は得た。次は試し斬りをしてみるとしよう)


《フレイムエッジ》の操作をしばらく練習したところで、ベヒーモスは次の段階へと進むことにする。


 てちてちと歩き、壁の方まで寄っていく。


(よしいくぞ!)


 尻尾……《フレイムエッジ》を大きく振りかぶり、岩肌の壁面を勢いよく斬りつける。


 ジュワ――ッッ!!


 するとどうだろうか。

 蒸発音を響かせるとともに、壁面を斬り裂いてみせた。

 その手応え……まるでバターを切るかのようだ。


(なんという熱量! これは通常の魔法剣の比ではないな。気をつけて扱わねば……)


 想像を超えた熱量とそれによる斬れ味に、顔を引きつらせながらベヒーモスは思うのだった。


 では次だ。


 ベヒーモスは《フレイムエッジ》の発動を解除すると、他の《属性剣尾》も試してみることにする。


「にゃん(《ウォーターエッジ》)!!」


 選んだのは水属性の《ウォーターエッジ》。


 発動した瞬間、《フレイムエッジ》同様に水が尻尾のまわりで収束し、澄んだ色の刃が形成された。刃渡りは先ほどと同じくらい、2メートル弱だ。


(それいくぞ!)


 斬れ味を正確に比較する為、《フレイムエッジ》の時と同じ剣筋で壁に刃を叩き込む。


 今度も、スパンッッ! と斬り裂く……とまではいかないものの、壁を大きく抉り取ることに成功する。


(ふむ。威力は《フレイムエッジ》より落ちるが、《ウォーターエッジ》の方が発動と剣速が上か。《属性咆哮》と同じで、攻撃力に応じて扱いやすさも変わるようだな。となると最速は……)


 ある程度予想を立てたところで、ベヒーモスは次なる《属性剣尾》――《エーテルエッジ》を発動する。


 そして予想どおり……否、予想以上だった。

 発動を意識したその時には、スキルは完成していたのだ。


 色は無い。

 だが、ベヒーモスにはわかる。

 自分の尻尾、そこから刃が伸びていることが。


(軽い。その名のとおり、まさに大気の刃といったところか。軽いどころか質量をほとんど感じないほどだ)


 そして刃を振り抜く。

 その速さ、段違いだ。


 それもそのはず。

 大気の刃――《エーテルエッジ》は、斬撃に合わせて気流を生み出し、その剣速を加速させる特性を持っているのだ。


 刹那よりも速く壁に激突する《エーテルエッジ》。

 先ほどの《ウォーターエッジ》のよに、壁を抉る。


 しかし、削り取れたのは表面だけだ。

 やはり《属性咆哮》の《エーテルハウリング》と同じように、風属性のスキルは威力が低いらしい。


(だが、これはいいな。威力が低いとはいえ、明らかに通常の剣で出せる剣速の限界を超えている。さらに《エーテルエッジ》は大気の刃……要は不可視・・・の刃も同然。マナの察知に優れた相手でもない限り、このスキルが発動していることすら気づきはしないであろう)


 ただのモンスターであれば威力を重視し、《エーテルエッジ》の性能の高さに気づくことはなかっただろう。しかしベヒーモスは元人間、それも歴戦の騎士だ。

 優れた武器――それの本質を見誤ることはしない。


 そして最後は地属性のスキル、《ロックエッジ》だ。


《属性咆哮》の例に習えば、発動の速さは3番目――のはずだったのだが……


(む、発動が遅い。それに何だこれは……!?)


 発動した《ロックエッジ》。

 その姿を見てベヒーモスが目を見開く。


 長さは今まで発動してきた《属性剣尾》たちとは違い、3メートル近くあると思われる。

 さらに剣身はこれでもかというほどに幅広で、質感は研磨された石のようだ。


 今までの《属性剣尾》の刃の形状を言い表すならば、“刀”が一番しっくりくるだろう。

 対して、この《ロックエッジ》は何とも無骨、これでは“大剣”だ。


(まぁ、ものは試しだ。ぐ……やはり重い)


《ロックエッジ》を振りかぶったところで、ベヒーモスが僅かにバランスを崩す。だが、すぐに体勢を持ち直す。


 転生前、ベヒーモスは大剣の扱いにもある程度精通していた。

 その経験を活かし、モンスターの体でありながら、体の重心の置き方を長剣のものから大剣のものへと変えたのだ。


 真っ直ぐな剣筋で振り下ろされる《ロックエッジ》。


 今までよりも空気抵抗を感じさせる音を立てながら、壁へと激突する。


 ガキンッッ!!


 やはりというべきか。

 斬撃音と言うよりかは、打撃音に近いものが鳴り響く。


 そして、これもやはり。

 地の剛剣を叩きつけられた壁には大きなヒビが入り、ところどころがパラパラと崩れていく。


(なるほど。他に比べ扱いは難しいが、いい剣だ。こいつであれば硬い装甲を持つモンスターが相手でも破壊出来るだろう。それが出来なくても衝撃によるダメージは見込める。《属性剣尾》……なんと便利なスキルだろうか)


 つくづく高性能な自分の固有スキルに、ベヒーモスは改めて感心する。


 そして、ふとあることを思いつく。


 新たに手に入れたスキルの数々……

 それらを駆使すれば、ヤツ・・にも勝てるのではないかと――

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