7話 鋼鉄の巨兵

 ドゴオォォォォ―――ンッ!!!!


 迷宮の一角。

 轟音が鳴り響き、粉塵が舞い上がる。


(一発で地面が陥没したか……さすがゴーレム。大した剛腕だ)


 ゴーレムの一撃の威力を目の当たりにしたベヒーモスが、心の中で素直に称賛をおくる。


 ベヒーモスが来た道を引き返していた理由。

 それは、ゴーレムにリベンジを挑む為だった。


(さて行くか、《飛翔》!!)


 ベヒーモスの背中に漆黒色の翼が現れる。

 地面を勢いよく蹴りつけ、宙へとおどり出る。


 ベヒーモスがゴーレムを前に撤退したのはリーチの問題だった。

 だが、ワイバーンを倒し翼を得た今、対等の戦う条件が満たされたというわけだ。


「にゃん(《ロックハウリング》)!!」


 ゴーレムの弱点。

 頭部の魔法文字目掛け、ベヒーモスが地の咆哮を放つ。


『ゴァァァァァ!!』


 小賢しい! とでも言いたげな様子で、ゴーレムはその見た目に反した動きの速さで腕を上げると、迫り来る《ロックハウリング》から魔法文字を庇ってみせた。


 ベヒーモスは「にゃんッ」と小さく舌打ちすると、激しく翼をはためかせ、ゴーレムから大きく距離を取る。


 ゴーレムが反対の巨腕を振るってきたからだ。


 ベヒーモスの前を腕が通り過ぎてゆく。

 その巨大さによる風圧がベヒーモスのバランスを大きく崩す。


(このままでラチがあかない。片腕をなんとかする必要があるな)


 翼をうまくコントロールし墜落を免れたベヒーモスは、そう判断する。


 刹那の思考。

 歴戦の騎士であるベヒーモスは、すぐに攻略法を思いつく。


「にゃん(そら喰らえ)ッ!!」


 大振りな攻撃を放ち、尚も魔法文字の防御を解こうとしないゴーレムの腕に、ベヒーモスは《属性咆哮》がひとつ、《フレイムハウリング》を浴びせる。


 ゴーレムの体は鋼鉄製。

 溶かされてはたまったものではないと、大きく退き反対の腕を振るう。


 ベヒーモスは攻撃を躱しつつも追いすがる。

 そして、もう一度、もう一度、もう一度……と立て続けに《フレイムハウリング》を放つ。


 けれども、ゴーレムは防御を解くことはしない。

 腕は赤熱しているものの、溶解には程遠そうだ。


 このままでは腕を溶かしきる前に、ベヒーモスのマナと体力が尽きてしまう。

 リベンジは失敗か……


 そう思われた時だった。


「にゃん(《ロックハウリング》)!!」


 ベヒーモスが別のスキル、《ロックハウリング》を繰り出した。


 質量を持った地の咆哮がゴーレムの腕に襲いかかる。


 そして――


 バキンッ!!


 直撃した瞬間。

 ゴーレムの腕からそんな音が鳴り響く。

 見れば腕が凹んでいるではないか。


 地の咆哮では破壊できない。

 焔の咆哮では溶かしきれない。

 ならば両方の力を使うまで。


 ベヒーモスの作戦は、相手の腕を赤熱化し脆くさせることで、《ロックハウリング》を有効打にするというものだったのだ。


《ロックハウリング》!

《ロックハウリング》!!

《ロックハウリング》――ッッ!!!!


 地の咆哮を溜めては撃って、溜めては放つ。

 そしてついに――ゴーレムの腕を砕くことに成功する。


 残った腕で防御しようとするが、もう遅い。


 最後に咆哮を放った直後。

 ベヒーモスは加速しゴーレムへと急接近していた。

 身を捩り真横に回転。

 そして振り抜かれた尻尾、その先には地の大剣 《ロックエッジ》が――


 ガキンッ!!


 響く鈍い音。

 見れば文字のうちのひとつが削り取られている。


 ゴーレムの2つの紅い瞳が輝きを失う。

 そのまま轟音を立て崩れ落ちていく。


 ベヒーモスの勝利だ――。


(さて、どうするか)


 ゴーレムの骸を見て、ベヒーモスは悩む。


 これだけの強さを誇るゴーレムのことだ。

 その身を食べれば強力なスキルが手に入ることだろう。


 しかし、その体は巨大な上に鋼鉄製。

 噛み切ることは到底不可能だ。


(いや待てよ? 別に噛み切らなくても良いではないか)


 ベヒーモスはキョロキョロと辺りを見渡す。

 すると見つかった。

 最後の一撃を放った際に飛び散ったゴーレムの破片が。


 幸いにも破片は尖っていなかった。

 これなら飲み込んでも喉を傷つけることはないだろう。


 ベヒーモスは破片をパクッと加えると、そのまま一気に飲み込んだ。


(さぁどうだ?)


 さっそく《ステータス》を発動し、効果のほどを確かめる。


==============================

名前:なし

種族:ベヒーモス(幼体)

固有スキル:《属性咆哮》、《スキル喰奪》、《属性剣尾》

喰奪スキル:《収納》、《ポイズンファング》、《飛翔》、《ファイアーボール》、《アイシクルランス》、《アイアンボディ》

==============================


 やはり増えていた。


 喰奪スキル、《アイアンボディ》……名前から察するに防御系のスキルだろうか。


(よし、《アイアンボディ》!!)


 スキルを発動するベヒーモス。


 すると茶トラの体が鈍色に染まった。

 それと同時に、体が硬質化したのを感じ取る。


(どれ、効果のほどを試してみるか)


 ベヒーモスがおもむろに歩き出す。

 硬質化した体でも動くのに問題は無いようだ。


(それいくぞ!!)


 ゴーレムの骸に向かって走り出す。

 タックルするつもりだ。


 ガキンッ――!!


 金属がぶつかり合う音が響く。

 かなりの勢いでぶつかったにもかかわらず、ベヒーモスの体に傷はなく、痛みも感じられなかった。


(《アイアンボディ》……いいスキルだ。これがあれば並みのモンスターの攻撃など恐れるに足らずだな)


《アイアンボディ》の性能の高さに、ベヒーモスは満足げに頷いた。

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