幕間・スミレの新しい友達
番外編 前編
[ホワイト区・チョコレート市場にて]
今夜は、年に一度チョコレート市場で行われる大イベント『大売り出しセール大会』である。それは、チョコ市にある全ての店舗が「これぞ我が店の一押し」と謳うものを涙もので破格にし、思い切り売り出して売高を競うイベントだ。この大会のために、店の従業員達は一週間、いや一ヶ月かけて準備に取り掛かっている。何故そんなにも必死になっているか? それには、自慢の品を半額近く値下げした大規模なリサイクルショップの売り子で、サナの妹であるマナが自信満々に胸を張って言っていた。
「優勝店舗にはなんと百万金ピール、準優勝には五十万金ピールが贈られるのです! そして売高はそのまま店の利益にもなるっていう、私達にとっては「神イベント」なんですよ! もちろんお客さん達にとってもいいものが安く買えるんですからねーっ!」
–––––そう、彼女は何も知らないリアンとスミレに説明した。別段ショッピングに特別な楽しみを感じないリアンはさっさと帰宅しようとしていたが、スミレは建物の奥から離れないでいた。
「…どうしたんです?」
リアンは、スミレは自分と同じように興味がないものだと思っていた。
が、スミレは少しばかりうきうきしているようだ。
「あ…、私、友達とここを回るって約束しているんです」
いつもの抑揚ない顔で言ったスミレだったが、敏感な剣使いにはその「友達」という単語に驚愕してしまい、思わず大声を張り上げる。
「とっ、友達?! だ、だって「親しい友人がいない」って……」
「最近出来たんです。趣味があって、今では呑みも一緒に」
「……そう、なんですか」
リアンはおっかない形の剣をいじる。戦いも血も必要がないこの街の事だから、行き交う店員達からは「物騒だ」という嫌な目線を向けられる。リアンは、できれば早く帰路につきたかった。
「…楽しんでいってください。では俺はこれで」
リアンはとぼとぼと、明るい道を歩いていった。
「…それで、どこで待ち合わせされてるんです?」
マナがポニーテールを揺らしてスミレに尋ねると、彼女は俯いて腕時計を見、顔を上げて首を傾げた。
「ここです」
♦︎
「あっ、スミレさーーんっ!! お待たせっ!」
レッド区の方向から、既に色々とぶら下げて走ってくる背の高い女が走ってくる。店の前で待っていたスミレは、三角帽子を浅くかぶった長髪の女に手を振って挨拶をした。
「こんばんは。今日も沢山持っていますね」
「そうなのー! ここら辺歩いてるだけで色々お試しって言って押し付けられちゃってー」
空港でも色々あったし、と、深いつばの陰からピンク色の瞳を輝かせる女は、「でも大丈夫」とニヒルな笑いを見せる。隣で売り出しを呼びかけていたマナは、仕事に勤しみながら、横目で二人の様子を伺っていた。
「空間拡張〜♪」
スミレに匹敵する容姿を持つ彼女が、右手の人差し指を空に向け、くるりと振ってみせる。すると瞬く間に、指でなぞった空間がパカリと開け、彼女は空いた空間に、手に持っていたものをポイポイと投げ込み始めた。
「いよしっ!」
身軽になった彼女は、空いた両手でパンっとて空間を閉じさせ、明るく宣言した。
「収納完了! ふふっ、これで思いっきり買い尽くせるわねーっ」
「流石–––魔法使いですね」
「いやいやーっ、スミレ様には及びませんぜっ!」
微動だにしないスミレとは相対に、魔法使いである彼女はブンブンと手を振って歯を見せた。彼女の魔法は威力が強いらしく、ボルドーのローブには『大魔法使い』のエンブレムが縫い付けられていた。
マナは目を見開き、そして自分が思い切り二人の方向に首を向けていたことに気付き慌てて前を向く。
マナが大声を張り上げなくとも、その二人の存在感が客人を寄せ付ける。何せ、〈一番星冒険者〉たる弓使いに、〈世界大魔法組合〉幹部であり、スミレと並ぶほど最強と呼ばれる大魔法使い「ミツバ・マツリカ」が店に連れだっているのだから。
マナは嬉々として二人に呼びかけた。
「スミレさん達のお陰で私達優勝かもっ!!」
そんなマナだったが、当然スミレもミツバも行きたいところというものがある。二人は早速移動を開始し、連動して取り巻きもそちらの方に流れて行く。マナは緑のエプロン姿で立ち尽くした。
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突然ですが説明しますー。
この世界での「金ピール」やらなんやらというお金の話です。私はそこまで細かく計算しない主義なので、日本円と同じようにお考えください。なので、今回出てきた「百万ピール」は百万円、五十万ピールは五十万円ということでございます。「銀ピール」は、金ピールの半額という計算にしています。
自分で書いていて「価値がわからないな」と思いましたのでここの場を借りてご説明させて貰いました。
では続きもどうぞよろしくお願いします(^^)
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