幕間:登場人物・舞台紹介・第3話
リアン(リア・ダン):冒険者を始めて一ヶ月の剣使い。強気で自分の意思を曲げないが、いざ戦いとなると弱気になる。イエロー区東のダンジョン二階にて
★一般の種族
スミレ(スミレ・シェル):ダンジョン攻略を進める弓使い。冒険者の中の『ダイヤモンド級』であり、数少ない〈一番星冒険者〉に認定されている。またその風格や強さにより〈百方最強美人〉と言われている。
★エルフ種族
サナ(サナ・ヒール):冒険者ギルドの受付嬢。仕事熱心な少女だが、まだ始めて一ヶ月のため失敗が多い。リアンの幼馴染で、よく世話を焼く。
★一般の種族
–––––ここからはまだ登場していない人物です––––––
マナ(マナ・ヒール):ホワイト区、食品売り場の売り子。サナの妹。サナよりもしっかり者で、リアンの事を好いていない。気の強い性格。
★一般の種族
デリダ(デリー・カナディアン):ブルー区、武器屋の店主。リアンと仲が良い。一人で北ダンジョンの大ボスを倒したという伝説があるが、本人はそれを認証していない。
★エルフ種族
––––他にも沢山いますが、重要人物だけ載せておきます––––––
–––––舞台紹介––––––
イエロー区:ダンジョンが並ぶ超巨大都市。たまにダンジョンから抜け出したモンスターが現れる、人は住んでいない
ブルー区:ギルド、武器屋のある小さな都市。イエロー区と隣接する。たまにモンスターが出没する。人は住んでいないが、ギルドの勤め人は時たま寝泊まりをする
ホワイト区:オレンジ区、ブルー区に隣接している。食品売り場などが集まる巨大市場が存在する。一般的な街の様なもの。沢山の商人が存在し、そこで暮らす人もいる
オレンジ区:世界最大規模を誇る超巨大住宅街。一般のマンションは百階建て。坂道が多く、坂道沿いには戸建てが多く存在する
レッド区:『世界の玄関口』と呼ばれる巨大航空機関。様々な大陸に便が直行で繋がっている。勤め人は非常に多く存在するが、オレンジ区が隣接するため寝泊まりは無い
区は横割りであり、それらが集まった国の名は「チャンプ」という。ブルー区にある国会が国を経営している。
–––––本編––––––
[ホワイト区、衣服店にて]
––––「……いつまで付いてくるんですか」
「え?」
涼しい天気だというのに汗をだらだら流したリアンは白美人の怪訝な表情を見た。
灰のコートを手に取り隣のリアンに視線を向けた美人–––––スミレは明らかに「迷惑」な顔を見せる。
ただ助けただけの–––––通りかかったのだから当たり前だが–––––弱い男にこうして付き纏われ、今でもコートを見物する自分をガン見してくる……というのは最強でも女性であるスミレにとって不快であった。
慌てに慌てたリアンは潔白を表すためかぶんぶんと手を振って愛想笑いを浮かべた。
「あ、ご、ごめんなさい!……お、僕もう帰りますねっ、ご迷惑をお掛けしましたー……っと……」
「……」
先程から何度も「俺」と言いかけてるのが鬱陶しい!という気持ちを悟られないようスミレは無言で店を出て行くリアンを見送った。
リアンが完全的に姿を消したのを見たスミレは、気が抜けて足の力が薄れるのを感じながら溜息をついた。それが思いの外深い息だったのでそこまでか、と驚く。
気に入った厚手のコートをレジに持って行きながらリアンの顔を思い浮かべると自然と溜息が漏れる。何で自分に付いてくるのか、出会って一日も経ってないのに、何でこんなにも付き纏うんだ。全く、世話が焼ける。
ただでさえダンジョン攻略で疲れが溜まっているのに…………いや、大鬼は倒すつもりだったけど…………
スミレは考えながら会計を済ませようとする。
が、彼女の目の前にはもっと面倒な問題があった。
–––––〈一番星冒険者〉、〈百方最強美人〉……その他諸々の呼び名を持つスミレの事だから、当然どこに行っても有名だ。街を歩けば誰もが振り返り、言葉を失う。ダンジョンに現れれば冒険者達は拝む様な表情をして攻撃を辞めてしまう。なので、スミレはパーティを組む事を嫌っていた。
だから、リアンの様な行動には慣れている。まぁ、疲れはするが。
レジの女の店員が、コートを持って来たスミレを見るなり顔を沢山に輝かせた。もうこれ以上ないんじゃないか、というとびきりの笑顔で黄色い悲鳴を上げ、コートをゆっくりと受け取る。
と、凄い形相で喋り出した。
「きゃ、い、〈一番星冒険者〉さんじゃないですかっ!!!嬉しいですぅ、お買い上げありがとうございます!!あああの、弓……構えて下さいっ!」
仕事中だとは思えない。彼女はジャニーズを前にしたファンの様に興奮しながらスミレが行動に移すのを待った。手、動いていない。スミレが弓を構えるまで仕事は再開しない様だ。
「……?!…………いいですけど」
スミレはあからさまに引きながら背中に背負った弓を構える。と、レジの彼女は顔を真っ赤にさせ、ぎゃあぎゃあ叫びながら何処からともなくカメラを取り出した。
何処を狙う訳でもなく矢を添え、ぐぐっと引きながら、スミレは本日四度目の溜息をついた。
カメラのシャッター音がスミレの耳に障る。
白木の弓は手触りが良く、いつまでも触っていたくなるが、目立つのが嫌いなスミレは五秒間程構えるだけにしておいた。このまま店員がずっと騒いでいると人が集まって来て大変な事になる。スミレにとっては分かりきっている事だった。
スミレが無言で弓と矢を納めると、店員はしんと静まり返ってカメラをしまい、精算を始めた。
「どうぞ!ありがとうございました!……いやぁ、びっくりです。まさかここに〈一番星冒険者〉さんが来てくれるなんて」
紙袋を差し出しながら店員は夢を見た様な瞳でスミレをにこにこと見つめた。また長話に入ると嫌なので、スミレは「じゃあ、ありがとうございます」と言ってそそくさと店から出た。
こうして一息ついても、完璧主義なエルフ種族であるスミレは気を抜く行動はしなかった。
すれ違えば振り返り、必ず二つ名を呼ぶ人々を遠目に買い物を続けた。
街の中心部、大きな食品売り場には、天井に吊るされた細長い瓶達の中に色とりどりの果実が敷き詰められていた。入り口の方で売り子が叫ぶ傍らには、量り売りの為の量りが置いてある。
向かいの食器店も負けていない。どこを見ても鮮やかな色彩で飾り付けされており、漆器やスミレの好きな白木の椀。さらには笹で作られた皿など多々の商品が販売されている。
この二つの店の周りには、いつも沢山の買い物客で賑わっている。その為、スミレはあまりここを利用しない。
その大通りを通る事なく、建物の間、小道に入り、急に静まり返ったのを感じながらオレンジ区へと急いだ。
–––––背後に視線を感じながら。
大通りにて、いそいそと小道に入った苺髪の美女の背中を見ながら視線の正体–––––リアンは自分に向かって頷いた。
冒険者のほとんどがオレンジ区に住んでいる––––––イエロー区から遠いものの––––––もちろんリアンもそこに在住している。先程衣服屋から出たリアンだったが、どうしてま諦めきれずスミレを追って来ていた。
ここでスミレの住みどころを特定できれば–––––上出来だ。––と、リアンはにっこり笑った。それは一応健全な笑みであったが、果たして本人が何をしたいのかは分からない。
夕暮れが濃くなってきた頃、オレンジ区の奥まで進んだスミレは耐え切れずに後ろを振り返った。
–––––誰もいない。
ずっと気配を感じる–––家は目の前なのだが–––付けられている。
気になる気持ちは強かったが、体が早く休みたいとうずうずしていた。
結局気配の正体を知らないまま、スミレは小さな戸建ての家に入った。
真っ白な戸建ての家に帰宅していった白木の弓を携える女性を目で追ってから、気配の正体–––––リアンは小さくガッツポーズを決めた。
意外と簡単に突き止められた。先程スミレが勢い良く振り返ってきたのはヒヤッとしたが、建物の陰に隠れていたのでなんとか気付かれなかった。
さて、これからどうするか––––––
が、東のダンジョンを二階まで突き進んだぼろぼろの体は早く休みたがっている。
今日はここまでにしよう。
リアンは踵を返し、自らの住む安いアパートに帰った。
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