NPCも用意しよう


 シャーロットは、コタツに突っ伏したまま、わんわん泣き続ける。

 金髪ツインが嗚咽のたびに揺れる。


 萌々はシャーロットに向かって容赦なく、

「さっさと作り直しなさいっ」


「やだやだっ!」


「なら、あたしが作るから、それを使いなさいっ!」


「もっとやだっ!」

 シャーロットは泣きながら拒否。


「まあまあ、それくらいにしといてやれ」

 と俺は萌々をなだめる。


 いくらデタラメなキャラでも、本人にとっては自分の分身みたいなものだ。

 そのキャラを全否定されたら、そりゃ泣きたくなるさ。


 むしろ、ここはGMの腕の見せどころだ。

 こんな破綻キャラでも、GMの采配次第で、活躍させようがあるはずだ。


 俺は、しばし考えてから、

「よし、このキャラで行こう。ギャップがあって面白いじゃないか」


「ほ、本当ですか?」

 シャーロットはパッと顔をあげた。

 涙でビタビタの顔が、希望で輝く。


「もちろんだ。でも、このままじゃ君のシャロンちゃんは戦闘に参加できない。シナリオに参加できなくなる可能性もある。なので、特別にアイテムをやろう」


「と、特別アイテム……」


「うむ。球型のペットロボットだ。『ハロ シャロン』とか喋るんだ。こいつに武装を搭載すれば戦闘に参加できる」


 俺は球型ペットロボットの設定を即席で考える。

 そのデータをキャラシートに書き込んで、シャーロットに手渡した。


「やった! 嬉しいです!」

 シャーロットは青い目を潤ませながら、キャラシートを両手で受け取った。


 ふう。

 これでキャラメイクの作業は一段落。


 と思ったら、今度は萌々が、

「ゴネ得ずるい! あたしもアイテムが欲しいっ!」


 言うと思ったぜ。

 でも、あんまりアイテムを乱発しても面白くない。

 ならばアイテムの代わりに特別な設定を付けてやるか。


「じゃあ、こういうのはどうだ? 君のピーチちゃんは、とあるNPCの命を助けたことがある、という設定だ」


 萌々は顔を俺の方にグッと突き出して、

「NPC? どんなキャラ?」


「賞金稼ぎ団のリーダーで、三二歳のナイスガイだ。君たちの強力な助っ人になる」

 このキャラは、GMの俺が担当するキャラである。


「あっ、それいいね」


「君のピーチちゃんは、高額な治療費を肩代わりして、そのナイスガイを助けた。そのナイスガイは、ピーチへの恩返しと忠誠を心に誓っている」


「それっ。それで行きましょ」

 と萌々はご満悦の顔で言った。


 ふふっ。

 ナイス采配だな、俺。


 こうやってPCとNPCとの関係を緊密にしておくと都合がいい。

 PCをコントロールしやすくなるからだ。


 すかさずシャーロットが、

「ちょっと待って。わたしのシャロンちゃんにもスペシャルな裏設定があるのです」


「ほほぅ、どんな裏設定かな?」

 まあ、予想が付くけどな。


「実はシャロンちゃんは、そのナイスガイの生き別れの妹なのです」


 ははっ、予想通りだ。

「残念ながら、その設定は難しいな。そのナイスガイの年齢は三二歳で、シャロンは一五歳だ。兄妹になるには年齢が違いすぎるぞ」


「ノープロブレムですよ。わたしたちみたいな兄妹だから。それでね、シャロンちゃんが銀河一のケーキ職人になったのは、生き別れのお兄ちゃんを探すためだったのです」


 シャーロットは、さっきまで泣いていたのが嘘のような夢見る乙女モード。


「なるほど。まあ、いいだろう」


「やった! それでね、ある日、お兄ちゃんは、妹のシャロンちゃんをテレビで発見し、ついに感動の再会を果たしたのでした。しゃんしゃん」


 こら、勝手に完結させるな。

 と言いたいところだが、こういう荒唐無稽な設定をシナリオに組み込むのもGMの仕事だ。


「よし、じゃあ出血大サービスで、そのスペシャルな裏設定も採用だ」


「わぁい!」

 シャーロットは手をぱちんと叩く。


 可愛い妹の頼みを断れるわけがない。

 甘々お兄ちゃんである。


 というわけで、その三二歳のナイスガイには、一五歳で凄腕ケーキ職人の妹が存在することになった。


 ちなみに、そのナイスガイのNPCのキャラシートは、次の通り。


 名前:コジロー・フォン・クーガー(通称キャプテン・コジロー)

 年齢:二十八歳

 性別:男

 容姿:渋い大人の魅力。細身の長身。

 技能:宇宙船操縦

 武器:投げナイフ

 性格:部下思いのタフガイ

 職業:賞金稼ぎ団「スペース・イーグル」のリーダー


 他にも設定がある。

 キャプテン・コジローは、元銀河帝国軍中佐だったが、自由を求め宇宙連邦に亡命した経歴がある。離婚歴三回のプレイボーイ。

 なんか既視感のあるキャラだな。


 言い訳をさせてもらうなら、このキャプテン・コジローは、俺が高校時代に作ったキャラである。

 ドイツ貴族風に名前に「フォン」を付けるのがクールだと思っていた。


 おまけに高校時代の俺の潜在願望がしっかり反映されていて、思わず笑ってしまう。

 残念ながらキャプテン・コジローとは正反対のゲスくて金のないおっさんになっちまったけどな。


 他にも、味方側のヒロインとして活躍予定のNPCもいる。

 これも昔作ったキャラだ。


 名前:アリス

 年齢:三歳

 性別:女性型ロボ

 容姿:美少女

 技能:コンピューター全般

 武器:閃光手榴弾

 職業:連邦軍が極秘開発したロボット

 性格:人間同様に心や感情を持つ.


 これで準備は整った。

 さっそくゲーム開始だ。


 おっと。

 その前に、ポテトチップスとコカコーラを用意しなくては。

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