難攻不落の要塞を破壊せよ
今回のセッションでは、プレイ済みのシナリオを使う予定だ。
なにしろ二〇数年ぶりのTRPGだ。
不安がいっぱいなのだ。
であるからして、馴染みのあるシナリオを使いたい。
シナリオの内容は、次の通り。
遥かな未来──
宇宙連邦軍と銀河帝国軍とが、何百年間も争っていた動乱の時代。
宇宙連邦と銀河帝国との中間地点に、グラドス要塞が鎮座していた。
難攻不落の巨大要塞だ。
グラドス要塞は、目下のところ、銀河帝国軍が占領している。
宇宙連邦軍にとって大きな脅威だ。
難攻不落のグラドス要塞をどう攻略するか。
宇宙連邦軍曰く、
「そうだ、内部から破壊しよう」
そこで宇宙連邦軍は、キャプテン・コジロー率いる賞金稼ぎ団「スペース・イーグル」に依頼する。
すなわち、民間人に紛れて、グラドス要塞に潜入せよ。
そして自爆装置を起動させて、内部から要塞を破壊せよ。
自爆装置の起動方法を知っているのは、美少女ロボ・アリスである。
宇宙連邦軍が極秘開発した人造兵士だ。
キャプテン・コジローの「スペース・イーグル」は、その無茶な依頼を引き受けた。
かくしてPCたちと美少女ロボ・アリスの一行は、グラドス要塞に決死の潜入を敢行した。
果たしてPCたちは、グラドス要塞を破壊することができるか──?
というのがシナリオの内容である。
今にして思えば、パクリ感のあるシナリオではある。
でも当時の俺としては、最高に傑作なシナリオだった。
このシナリオを使ったセッションも会心の出来だった。
今回もきっと上手く行くはずだ──
そういう目論見で、このシナリオが二十数年ぶりに日の目を見たのである。
時間は午後二時過ぎ。
アパートの六畳間に差し込む日差しは、いくぶん傾いている。
コタツの左右に陣取る萌々とシャーロットの二人のプレイヤーも、キャラシートとサイコロとコーラとポテチを前にして、その時を待ち受けている。
全ての準備は整った。
いよいよ、宇宙を舞台にした壮大な叙事詩の幕開けだ。
「……というわけで、君たち四人組は、民間の清掃作業員に扮して、グラドス要塞への潜入を果たした。
君たちの目的は、グラドス要塞を破壊すること。その方法は、要塞の中央司令室に潜入して、自爆装置を起動させる、というものである……」
と、GMの俺は厳かに語り始めた。
四人組の内訳は、ピーチ、シャロン、キャプテン・コジロー、美少女ロボ・アリスである。
アリス以外は、賞金稼ぎ団「スペース・イーグル」のメンバーだ。
「……要塞に潜入するまでの段取りは、君たちの依頼主である宇宙連邦軍が全面的にバックアップしてくれた。しかしここから先は、君たち自身の力で進まなければならない……」
二人のプレイヤーから、期待に満ちた視線をひしひしと感じる。
(まるでオタサーの王子だな──)
などと、ほくそ笑む。
いや、浮かれている場合じゃない。
俺には二つの重要なミッションが課せられている。
一つはGMとして、ゲームを成功させること。
もう一つは、二人を仲直りさせること。
繊細な舵取りが要求される。
慎重に、慎重に。
俺は、左右の二人に向かって、
「……ここまでの段階で質問はないか?」
すると萌々が威勢よく挙手。
「成功報酬はいくらでしょうか!」
「軍艦一隻分の賞金だ。望むならば英雄の称号も」
「悪くはないわね。ウチらの宇宙船も新調できそうだし」
と萌々。
「ふふん。お金で動くなんて、絵に描いたような俗物ですね。わたしのシャロンちゃんは、コジローお兄ちゃんと一緒にいられれば、他に何もいらないです」
とシャーロット。
萌々は眉をひそめて、
「それはプレイヤーとしての発言? それとも、キャラの発言?」
「どちらでも、お好きなように解釈してください(にっこり)」
おいおい!
さっそくテンパる俺。
油断すると、すぐこれだ。
俺はすかさず二人の間に割って入る。
「こらこら。ロールプレイとリアルの人間関係はちゃんと分別してくれよ。混ぜると危険なガスが発生するぞ」
たとえプレイヤー同士の仲が悪かったとしても、PC同士は仲良くするのがロールプレイの原則だ。
☆
さて、どんどんシナリオを進めよう。
以下はリプレイ形式となる。
GM
「……さて、君たちは今、グラドス要塞の民間人区画で清掃作業をしている。モップでゴシゴシとトイレの床を洗ったり」
シャロン
「あのぉ。ケーキ職人のわたしがトイレ掃除なんて、キャラクターイメージが崩壊してしまうのですが……」
GM
「それが任務だ。一人はみんなのために。みんなは一人のために。なんならキャラを一から作り直すか?」
シャロン
「ううっ。さっさと要塞の中央司令室に潜入したいです」
GM
「中央司令室に潜入するのは容易ではないぞ。まずは軍事用区画に立ち入る必要がある。だが民間人は、軍事用区画へ入れない。ではどうするか? 自分のアタマで考えよう」
ピーチ
「う~ん。軍服やICカードを奪って潜入すればいいのかな?」
GM
「……などと、君たちが方策を考えているところで、突然、他の清掃員たちが、何やら怒鳴り始める。『ゴルァ!』『この野郎っ!』」
ピーチ&シャロン
「な、何が起きているの?」
GM
「見れば、一人の少年が、数人の男に囲まれている。袋叩きだ。集団リンチだ。さて、心優しい君たちはどうする?」
ピーチ
「その少年は、カッコいいの?」
GM
「うむ。かなりの美少年のようだ」
ピーチ
「早速、助けに向かいます! いや、美少年だから助けるってわけじゃないけど」
さすが現役アイドル。
間髪入れずに推奨行動を選択した。
君は人類の鏡だ、俺の太陽だ。
シャロン
「わたしはピーチを放置して、清掃作業に集中します(モップでゴシゴシ)」
こ、こらっ!
薄情すぎるだろっ。
シャロン
「極秘任務の最中なのですから、余計な問題に首を突っ込むべきではありません」
まあ、正論と言えば正論なんだが。
君の心は液体窒素でできているのか?
ピーチ
「GM! あたしのピーチは、なんでこんな性悪な小娘と仲間なの? 泣きたい気分なんですけど」
ううう。
泣きたいのはこっちだよ。
これじゃ、話が進まないではないか。
君たちはまるで磁石のN極とS極だな。
いや、ちょっと違うか。
GM
「一応言っておこう。TRPGでは他のPCとの別行動は推奨されない。出番がなくなってしまう恐れがあるからな」
シャロン
「じゃあ、コジローお兄ちゃんとわたしだけで、話を進めましょう。ピーチはもう帰っていいですよ(にっこり)」
ま、待ってくれ。
いきなりパーティ分裂かよ。
始まったばかりなのに。
さっそく軌道修正に走らねば。
あたふた。
GM
「リーダーのキャプテン・コジローは、妹のシャロンに向かって『さあ、俺達も助けに行こうぜ、マイ・リトル・シスター』と陽気に言いつつ、ピーチの後を追いかける」
シャロン
「気が進まないですけれど、コジローお兄ちゃんがそう言うなら、わたしも助けに向かいますよ(ぷっと頬を膨らます)」
ふう。
無事、軌道修正完了。
綱渡り気分だ。
実を言うと、この少年キャラは、必要な情報を提供したり、ピンチに陥ったPCを助けたりする役目を担っている。
だから、この場はこの少年を助けに行ってもらわないと困るのである。
ともあれ、清掃作業員の男たちとの殴り合いの末、PCたちは、その少年を助けることに成功した。
少年は勤務態度が悪いせいで、日頃から虐められていたらしい。
GM
「……美少女型ロボ・アリスから傷の手当を受けながら、少年は言う。『ふっふっふ。君たち、本当は清掃作業員じゃないだろ? 大した腕前だったぜ』」
シャロン
「ふふん。よくわかりましたね。実はわたしは銀河系でナンバーワンの……」
ピーチ
「ちょっと待った! と叫びつつ、シャロンを羽交い締めにして、発言を止めます」
シャロン
「な、何をするんですかっ、この痴女っ(じたばた)」
GM
「少年は『はっはっは』と笑いながら、『君たちの正体は察しがついてるぜ。でも、心配しなくていい。君たちを帝国軍に通報したりはしないからな』と言う」
シャロン
「えっ? わたしたちの正体を知ってるのですか? なら話は早いです。軍事用区画に忍び込む方法を教えてください」
ちょ、ちょっと待て。
ここは少年と信頼関係を築きつつ、さりげなく聞き出さなくちゃいけないだろ
。
シャーロットにコミュ障疑惑が浮上。
お兄ちゃん、心配になってきた。
GM
「少年は言う。『大胆不敵なお嬢ちゃんだな。では、助けてくれたお礼に教えてあげよう。軍事用区画に入る方法については、あちらの荷捌き場から運送業者用エレベーターに乗って、云々』と詳しく教えてくれる」
ピーチ
「君は何者? と少年に語りかけます」
GM
「少年は『ボクはただの清掃作業員さ。じゃあな、幸運を祈るぜ』と言い残して、再び清掃作業に戻って行った」
お察しの通り、この少年も宇宙連邦軍のスパイである。
グラドス要塞の内部情報を宇宙連邦軍に送信しているのだ。
こうして紆余曲折をしながら、シナリオはどんどん進んで行った。
様々なイベントやアクシデントが発生したり、銀河帝国軍の兵士との戦闘中に、この少年が助けに来たりして(中略)。
そしてついに!
PCたちはグラドス要塞の中央司令室に潜入を果たした。
さあ、いよいよクライマックスだ(端折りすぎ)。
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