自分だけのキャラを作ろう


 二人の目の前に、まっさらなキャラクラー・シートを配る。


 二人は、三時のおやつを与えられた子供みたいに目をキラキラ。

 俺は不安でキリキリ。


「もしゼロからキャラを作るのが面倒臭いってんなら、サンプル・キャラクターを使うという手もある。どうする? ゼロから作るか、それともサンプルキャラを使うか?」


「ゼロから作るに決まっているでしょ」

 萌々が言うと、シャーロットも、

「うんうん、ゼロから作りたいですっ」


 おおっ。

 見込みがあるな、二人とも。

 きっと立派なオタクになれるぜ。


 俺は満足げにうなずきつつ、

「よし。では早速キャラを作ることにしよう。名前とか、性別とか、年齢とか、家族設定とか、好きなように作ってくれ」


「はーい」

 二人のプレイヤーは仲良く返事をすると、白いキャラシートに向き合った。


 俺はにんまりと目を細めて、可憐な小鳥たちを見守る。

(いいぞいいぞ。その調子で仲良くな)


 真っ白な段階からキャラを作る、ということは、世界に一人、君だけのオリジナルキャラができるのだ。

 まさに君の分身だ。


 いかにオリジナリティのあるキャラを作るかが腕の見せ所となる。

 多少の暴走はウェルカム。

 面白ければなんでもありだ。


 萌々は、シャープペンシルを手先でくるくる回しながら悩んでいる様子。

「んん~。自由なのはいいけどさ。どっから手を付けたらいいか迷うんだよね……」


 だろうな。

 俺もテキストエディタの大雪原で苦労してるからな。


 そこでGMからアドヴァイス。

「なら、歌の力でたたかうアイドルとかどうだ? マクロスみたいに」


「う、うん。いいかも。でもあたし、草野球レベルだし……」

 と謙虚な萌々であった。


 シャーロットは、文字を書いたり消しゴムでゴシゴシ消したりを繰り返しつつ、

「オリジナルの恋愛設定はありですか?」


「もちろんありだ。面白い設定なら、シナリオにも取り入れるぞ」

 NPCとのラブアフェアもばっちこい。


「じゃ、お言葉に甘えて。うふふ」

 と意味深に微笑む。


 お兄ちゃん、なんだか気になるな。


 こうして二人がキャラメイクに勤しむ間、GMの俺もNPCの制作に取り掛かる。

 NPCとはノンプレイヤーキャラクター、すなわちGMが動かすキャラのことである。



 三〇分ほど経過。

 萌々とシャーロットのキャラシートがついに完成した。


 萌々は、自分のキャラシートを俺の目の前にバシッと置いた。

 そして照れ臭そうに、

「できたから、見てっ」


 萌々のキャラシートは次の通り。


 名前:ピーチ・ローズマリー

 年齢:二〇代後半

 性別:女性

 技能:探索

 武器:ブラスター(ハンドガン)

 職業:トレジャーハンター

 性格:冷静沈着で経験豊富

 容姿:鍛え抜かれたアスリート体型。ラフな衣装。黒のショートヘア


 イラスト欄には、少女漫画っぽい絵柄の似顔絵。

 絵はそれなりに練習した形跡がある。


 ちなみにキャラシートには「体力」「器用」「敏捷」「知性」「容姿」といったステータスの欄や武器表などもあるが、ここでは省略させていただこう。


 萌々はモジモジしつつ、

「で、このキャラどう? 洋ゲーのヒロインをイメージしたんだけど」


「うむ。スペオペ向きのキャラだな。地味な感じだけど実践的だ」


 俺が褒めると、萌々は照れ臭そうに、キャラシートを俺の手から取り戻した。


 俺は内心でニヤニヤする。

(リアルの萌々とは正反対のキャラだな。てことは現状に欲求不満なのかもな。ふふふ)


 TRPGのキャラメイクは、プレイヤーの心理が反映する。

 つまりプレイヤーの心の中を覗き見ることができるわけだ。

 新手の覗きだな。


 萌々は、冷静沈着なトレジャーハンターというキャラを作った。

 つまり萌々は、落ち着きのある大人の女性になって、自由気ままな生活がしたいのだ。

 おっちょこちょいで慌てん坊の自分にコンプレックスを持っているんだろう。

 ふひひ。


 シャーロットも俺の目の前にキャラシートを差し出す。

 自信満々といった顔で、

「わたしのキャラシートも見てください」


「どれ、君の自信作を拝見しようか」


 はてさて。

 我が妹の潜在願望はいかに(いやらしいお兄ちゃんだな)。


 シャーロットのキャラは次の通り。


 名前:シャロン・ベティ

 年齢:一五歳

 性別:美少女

 技能:ケーキ作り

 武器:ホイップクリームをかき混ぜるやつ

 職業:銀河一のケーキ職人

 性格:わがまま

 容姿:セーラー服が似合う金髪エルフ

(ステータスは省略)


 俺は思わず目を見開いて、

「な、なんじゃこりゃあ!」


「ぎくっ」

 シャーロットは肩をすくめる。


「いくら自由に、と言ってもなぁ」


 さすがにコレはない。

 ステータスの割り振りもデタラメだ。

「容姿」に全振りになっているので戦闘能力が皆無である。

 単なる足手まといキャラだ。


「そ、そんなにひどいですか……?」

 と、シャーロットはおっかなびっくり。


 うむ、と俺は心を鬼にして首肯。

 このキャラじゃ敵地へ潜入できない。


「だいたいエルフってなんだよ。耳長宇宙人かよ。まあセーラー服はいいとして」


 シャーロットはべそをかきかき、

「だ、だってお兄ちゃん、エルフが大好物だって言ったから……」


 確かに大好物だけどさ。


 イラスト欄を見ると、小学生が描きそうな下手な似顔絵。

 俺と同様、絵の才能は皆無らしい。

 俺とシャーロットとの共通点を発見してしまった。


 と言うか、むしろ本人の写真をそのまま貼っておけばいいのに。


 俺の気難しい表情を見て、シャーロットはママに叱られた子供にみたいに、ゴスロリの袖を噛み噛みする。

「ううっ……」


 ま、まずい。

 今にも泣き出しそうな顔だ。

 噴火一五秒前。


 タイミングが悪いことに、萌々が、興味津々でそのキャラシートを覗き込んできた。

 そして数秒後。

「ちょっと! なにこれっ!」


 も、萌々ちゃん!

 そこはもっとお手柔らかに!


 俺の制止を無視して、萌々はシャーロットに向かって、ここぞとばかりに、

「もっと真面目に作りなさいよ! ていうか、なんでケーキ作りなの? スペオペに全然関係ないじゃないの!」


 積年の恨みを晴らさんばかりの怒涛のダメ出し攻撃。


 や、やヴァい。

 はたして、俺の嫌な予感は的中した。


 シャーロットは突然コタツに突っ伏した。

「わぁああああああん!」


 あちゃー。

 とうとう泣き始めちまった。


「ひ、ひどいですっ! せっかく頑張って作ったのに……! ぐすんぐすん……」

 シャーロットは金髪のツインテールを揺らしながら激しく嗚咽し始めた。


 なんてこった。

 始める前からトラブル発生。

 大丈夫なのか、今回のゲームは。

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