まさかのホームレス転落?


 そもそも、なぜ美少女JKの萌々ももは、俺みたいなゲスくて金のないおっさんに親身になってくれるのか?

 特殊な嗜好の持ち主だからか?

 いや、もっと深い理由がある。


 二年前。

 ピチピチのJCだった萌々は「アイドル活動を始めたい」と言い出した。


 祖父の竜宮恭志郎と、母親の河合文子かわいふみこは、当然のように大反対。

 JC萌々はやむなく俺に泣きついた。


 俺は三年寝太郎のごとく立ち上がった。

 JC萌々のために、俺は果敢に動いた。

 魔王のような竜宮恭志郎と、副官の河合文子に対して、俺は渾身の説得を行ったのだ。

 JC萌々がアイドル活動をすることの意義やメリットについて、一時間にわたって滔々と。


 結果は俺の勝利に終わる。

 おかげでJC萌々は、晴れてアイドル活動に身を投じることができた。


 あの時の俺は、たしかに勇者だった。

 一人のJCの人生を変えたのだから。


 萌々は、プリプリのJKになった今でも現役アイドルだ。

 もっとも、誰でも知っているメジャーグループのメンバーではないが。

 俺たちの住む町・浅間市に密着して活動する、ご当地アイドルってやつだ。


 萌々は、アイドル活動に真剣に取り組み、しっかり成果を出している。

 ファンも多い。

 商店街の活性化にも役立っている。


 それでいて、勉強もおそろかにはしない。

 この四月に高校二年生になったばかりで、授業内容も難しくなるはずなのに。


 俺から見たら、たいへんな優等生だ。

 清楚系のくせに、おっちょこちょいなのが玉に瑕だが。


   ☆


 気まずい空気を溶かすように萌々が、

「ねぇ、コタローさん」


「なんだい萌々ちゃん」


「バイトをクビになったら、どこか行く当てはある?」


「行く当て? あるわけないじゃないか」

 スキルも金も学歴もない四〇歳のおっさんなんか、誰が雇うんだよ。

 世間は冬の日本海みたいに厳しいんだぜ。


「だよね。それに、このアパートも……」

 と言いかけて、萌々は口をつぐむ。


「はっ! ということは……!」

 俺はとんでもないことに思い当たった。


 バイトをクビになったら、このアパートも追い出される──!


 このボロアパート「昭和荘」は、魔王・竜宮恭志郎の所有する物件である。

 俺は安い給料で働く代わりに、家賃タダで住まわせてもらっている。

 社員寮みたいなものだ。


「つ、つまり俺は、ホームレス?」


「……。ってことだよね……」

 萌々は蝋人形のように固まった。


 そうか、いよいよ俺も終末世界の住人か。

 ブルーシートで寝泊まりする連中の。

 キモくて金もスキルもないおっさんの最終進化形・ホームレス。


 周囲の世界がグラッと揺れた。

 酔いなど、とっくに吹っ飛んでいるのに。


 萌々が、コタツの上のストロング福祉飲料の缶を俺に差し出す。

「こ、これ飲んで、気を取り直す……?」


「あ、ありがとう」

 手渡された缶をグイッとあおる。

 口の両端から液体がこぼれ落ちた。


「少しは、落ち着いた……?」


「ああ、おかげでな」MPも少しだけ回復したぜ。

 俺は口元を手で拭った。


(それにしても、困ったな)

(困った困った困ったちゃん)


 いや、鼻歌を歌っている場合じゃねぇ。

 人生最大のピンチなんだ。

 これをうまく切り抜けるかどうかで、今後の人生が変わる。

 しっかり考えろ、俺!


 すぐにナイスなアイデアが思い浮かんだ。

「そうだ。こういう時はネットで調べりゃいいんだ」


「ネットで?」

 萌々は呆れたような顔をした。


「ネットも馬鹿にしたもんじゃないぜ。某巨大掲示板で相談してみたら、いい答えが得られる可能性もある」


「なるほど。さすがパソコンの大先生だね」

 本気で言っているのか、呆れているのかわからない口調で萌々は言った。


 さっそく俺はブラウザを立ち上げた。

 某巨大掲示板の適当なスレッドやQ&Aサイトに、質問を次々と書き込む。


『塾講師のバイトをクビになりそうだ』

『ついでにアパートも追い出されそうだ』

『このままではホームレスになっちまう』

『マジでヤバい。お前らの知恵を貸してくれ』


 ネットのあちこちに書き込みを終えると、俺は一息ついた。

「よし。これで三分待てばOKだ」


「なんだかカップラーメンみたいだね」

 と萌々は乾いた笑いを浮かべた。


 とりあえず、手は打った。

 果報は寝て待て、とも言う。

 寝て待っているだけで解決策が見つかるとは、いい時代になったものだ。

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