第81話 俺達の冒険はこれからだ!

 ギルドでの調整が終わると、もうお昼になっていた

 一旦帰ってお昼を食べ…

 『回復魔法かけます』の札がかかってるからまだ礼拝堂だな

 こっそり様子を…


「ただいまー…」

「癒やしを〜!」


 あ、やっぱりお仕事…奉仕?中だった


「「あ、ありがとうございました!」」

「いえいえ〜」


 怪我した冒険者か

 今のノーラだったら、そんじょそこらの冒険者なら大怪我でも一発でHP最大まで全快できるだろうな


「あまり心配かけさせないでよね!」

「すまない…」

「もう無茶したらだめですよ〜?」


 治せないのは病気くらいか?

 なんか状態異常と病気は厳密には違うみたいだし


「これ少ないかもだけど、私達また稼いで持って来るから…」

「お気持ち程度で〜」

「シスター…いつか相応しい男になるからその時は…!」

「ちょっと!私というものが」

「俺は女の子がいいんだ!」


 …あれ?

 俺、ノーラの人生にとんでもない影響を与えちゃったんじゃ?

 渡すスキルを選別してもステータスだけで十分に異常なレベルかもしれない

 変に噂が広がって面倒臭い連中に目を付けられるとか…

 いや、ミリアが居てくれるから…待てよ?ミリアも目を付けられて…


「ちょっと待ったー!!!」

「あ、おかえりなさい〜」

「おかえり…だと…?」

「ノーラ、やっぱり俺と一緒に旅に出よう!」

「えぇ〜!?」

「ぐっ…男が居たのか…くっそぉーーー!!!」

「待ちなさいってばー!」

「命の限りノーラを守る!だから俺のそばから離」

「ただい…えー!?」

「あ、おかえりなさ」

「ミリアも一緒に居てくれ!」

「二股プロポーズ!?」

「え、いや、ちがっ!」


 ヒートアップしすぎた

 順を追って話をしないとだめだこれ


 ぴょいん ぴょいん

 ぴとっ

 ぐねぐね


「やっぱりまるで世に聞くお父さんですね〜」

「なんか娘ができたら、嫁にはやらん!とか、恋人連れてきた日には圧迫面接して結婚する時には一発殴らせろ!とか一悶着起こしそう」


 ヤバイ

 俺でキモかったりしないか?

 ある意味、依存してないか?

 旅は距離を置くいい機会なのか


 にしても

 娘って…

 お父さんって事は娘だろ

 せめて兄で妹だろうそこは

 なんなの俺

 拗らせて枯れてそこまで行っちゃったのか…?

 こんなの、へたれの極みの方がまだ…


「ちょ、ちょっと、泣いてるの?」

「え〜っと、大丈夫ですから〜!」

「いや…大丈夫…ちょっと、凹んでるだけ…」


 ぺちぺち


「ありがとねコロちゃん、ほんと大丈夫だから」

「落ち着きましたか〜?」

「うん」

「ねえハジメ、この際だし正直に言うけど…今更だよ?」

「…マジ?」

「マジマジ。普段は子供みたいに楽しそうに話すのに、たまにそうなるね」

「ふとした時に牧師様みたいな目でわたしたちを見ていますね〜」

「人のこと心配してるくせに、どっか行っちゃうとこまでそっくりだよー」

「ミリア〜!」

「…俺やっぱり」

「わーっ!冗談だから!」

「ミリアだめですよ〜!」

「ごめん!ごめんってば!和ませようと思ってー!」

「そんな内容じゃないですよ〜!」


 なんかほんともう、仲良いな、この二人

 和むわ〜って、だんだん漫才みたいになってきてるぞ


「ぶふっ」


 ああもう

 直前まで凹んでたのに思わず吹いちゃったじゃないか


「あでもほら、ハジメ笑ってるじゃんか!」

「笑われてるんです〜!」

「なんでー!?そもそもハジメ」

「ごはんはまだかいのー」

「ハジメずるい!その立ち位置は」

「もう〜、おととい食べたでしょ〜?」

「えぇっ!?」

「いい返しですノーラ先生!」


 ぷるぷる


「コロちゃんまで!」

「コロちゃん俺のせいで遅くしちゃってごめんねー」


 つんつん

 ぷるぷる


「ボクは!?ねえハジメ、ボクには何もないの!?」

「それじゃ用意しますね〜」

「それじゃ食堂に移動しよっかコロちゃん」

「ねえちょっと!待ってよ!聞いてるのハジメ!?」


 なんとかお昼にしてもらえた

 まあそもそもの原因は俺なんだけど

 食事の後に少し話して、結局、俺のしてる心配なんて考え始めたらキリがないって二人に諭された






「さあコロちゃん、次はお出かけの時間だよ」


 ぷるぷる


 以前、ミリアのお帰り会で何が食べたいかノーラが直球で訊ねたところ、ノーラの作る兎のミートパイが食べたいという答えだったらしい

 それなら俺が新鮮なお肉を調達すると立候補しようとしたら、お店で肉を受け取ってきて欲しいと頼まれた

 コロちゃんは再び分裂して、ミリアの部屋の模様替えを手伝うようだ


 それにしても注文済みかよもー

 まあ包丁で挽肉にするの、大変そうだもんな

 それならそれで、自分たちの買い出しもついでにやっちゃおう

 晩ご飯の準備開始までに用意できればいいみたいだし


「まずは、ナイフをメンテに出さないとな」


 打ち合わせで俺の戦い方の説明をする為にナイフを見せたら怒られた

 自分の命を預ける武器の手入れを疎かにするヤツは早死するって

 武器じゃなくて解体用のナイフで戦ってた事からして信じられなく、尚更手入れは重要だって

 【魔法剣!】の説明をしても、それじゃあそれを使い始めるまでに手入れはしていたのかと結局怒られた

 ましてや、貰い物で大事に使っていこうというつもりならちゃんとしろと

 だって俺アウトドアの知識ないし…

 幸い、まだ研げばなんとかなる範疇だったから、【魔法剣!】を考慮に入れると錆びたりしないようにだけ気を付ければいいらしい

 あと、鞘の手入れも完全な盲点だった

 ともかくちゃんとした所で手入れして貰え、手入れ道具もその店で見繕って貰って少しでも上客扱いして貰え、とかそんなアドバイスを貰った

 その結果…


「そんじゃ特急料金込みで、しめて小銀貨5枚な」

「はい…ありがとうございました…」


 店でもレクチャーされながら怒られた

 研ぎ続けると刀身が小さくなるからこそ、中古品はあれだけ値下がりするんだな…






「さあ、今度は買い出しだよ」


 ぷるぷる


「小さくまとめる為に除外してた品物も買うかな」


 調子に乗って俺TUEEEしたお陰で、魔力が相当に伸びた

 【基礎魔法】も【収納魔法】も想定外の便利さになった

 物が増えてもそうそう困らないし、魔法でできる事が段違いだ

 そもそもの話、俺のバイタリティじゃナイフとランプを鞄に詰め込むだけなんて無理無理


 【収納魔法】の異空間は誰かに使わせるのは危険な可能性があるって気付いたけど、自分だけで使う分にはそれこそ自己責任だ

 例えば ”俺が展開した異空間” の中に居る時に、何かの拍子に元の世界に戻されたとして…


 1. 異空間があぼーん → 俺だけは元の世界、他人は異空間と心中

 2. 異空間ごと元の世界 → 俺による誘拐事件発生、道連れにされた人が魔力のない世界のせいであぼーん


 他にも色々なパターンが考えられるけど、とりあえず俺以外は進入禁止にすれば影響は限定的にできる

 よって俺は異空間を俺だけの快適空間にする!


「具体的には何を買おう?」


 ぷるぷる


「うん、お肉は後でね…」


 なでなで

 ぷるぷる


 異空間を快適空間にする為には…

 インフラ?

 電気はとりあえず諦めよう

 水道は【基礎魔法】の湧水である程度なんとかなりそうだ

 ガス…火?

 これも【基礎魔法】の着火で

 火を使って…調理、照明、暖房…


 うん、魔石を使った道具のお店に行こう

 あっちで言うところの、電気屋さんかな

 現物を見て判断だ

 …時計を買った店はやめとこう


「ごめんくださーい」

「あいよー」

「旅人セット一式くださーい」

「兄ちゃん初心者か?普通は旅の内容に合わせて自分で色々考えて選ぶんだが」

「初心者です。それじゃあ定番の他に、在庫があって、あると生活に便利だよって道具を教えてください」

「生活にって、旅に限らずか?」

「とりあえず日常生活を基準に」

「うーん、予算は?」

「予算と言うより、どんなものが幾らくらいなのかなーって段階です」

「そうだなあ」


 火が出る魔石…要するにライターかコンロみたいなもんか。多分教会の台所でも使ってるんだろう

 発光する魔石…これも教会でも使ってるな。街灯の中身もこれなのかな

 水が出る魔石…今更だけどどっから湧くんだろ?集めてる?無から有?

 風を送る魔石…まさに送風機か。気圧でも操ってる?水みたいに空気が湧き出てるか…大穴で念動力とか?


 基礎魔法そのまんまの物もあるんだな

 見せてくれた中で目ぼしい物、と言うか食指が動いた物は…


 水に入れて使う水流発生器…これは洗濯機とか食洗機か?

 除湿乾燥機…洗濯物の乾燥とかできそうだ

 吸熱、放熱、蓄熱の三点セット…ヒートポンプ?ただ温めたり冷やしたりするより魔力消費が少ないのか

 自前の魔力を込めて魔力結晶の代わりができる蓄魔石…要するに充電池か


 価格はそれなりにするけど、家電と違って基本的に水濡れ厳禁とかじゃないのが素晴らしい

 しかも、どれも基本的に魔力結晶で動くから言ってみれば電池式でコンセントの近くみたいな場所に限定されない


「この辺なんか良さそうですね」


 温水と冷水が用意出来て、シャワーが使えてジェットバスにも入れるし、乾燥タイプの高温サウナだって用意できるしそのまま浴室乾燥機にだってなる

 …風呂関係ばっかだな


「兄ちゃん、旅に出るんだろ?蓄魔石はわかるが、他のは据え置き用だぞ?旅は利便性と携帯性を考えて選ぶもんだ」

「いいんですいいんです。三点セットはもっと強力なのないですか?」

「魔力効率を保ったまま強くしたり小さくすると、もっとお高いんだよ。そういうのは庶民向けの店で探すもんじゃないな。大店とかの業務用だったり金持ち用だ」

「なら効率そのままで入力を上げれば出力は上げられます?耐え切れずにドカン!とかないですか?」

「確かに力技でできない事もないがな。ウチのは安全第一で丈夫に出来てるから倍でも余裕はあるが、金かかるからおすすめしないぜ」

「じゃあ、お風呂にも流用できますよね」


 出力が大きい分には風呂を大きくすれば調整は可能だろう


「本気かよ」

「あと、蓄魔石も容量の大きいのを売ってもらえるだけ全部」

「まいど…」






「あとは調味料とか消耗品の買い足しとー」


 とりあえず、砂糖、塩、胡椒、蜜あたりのストックに余裕を持たせておこう

 特に塩は大事だよな、動いたら汗かくし

 感覚的には若干お高めだけど、貴重品というレベルではないのが救いだな

 油は…保存の問題があるから仕方ないか

 乾麺も大量に買い込んでおこう

 【湧水】があるから、血で茹でろみたいな事にもならずに済むし

 重曹は売ってるかなー

 あ、髭剃り用に石鹸も要るな

 カミソリは【魔法剣!】があれば木の枝でも…いっそ指でも問題なさそうだ

 おっと、調理器具の充実も忘れちゃいけない

 せっかく持ち歩けるんだから、基本的なのは一通り揃えておこう

 それから他には虫除けと常備薬とー…






「そう言えば予備の靴…この世界の靴にも慣れておかないとダメかー」


 よく今までビックリ人間ショーみたいな挙動に耐え続けてきたな、この安全靴

 こっちで似たような丈夫な靴って言うと…ブーツみたいなヤツになるのかな?

 サンダルっぽい履物だけの世界観じゃなくてホント良かった

 小石とか入り込んだら踏み込めなくなっちゃうもんな

 ああ、革製品だとこれもお手入れ用の油の類も必要そうだけど…店で相談すればいいか

 あとはリラックスタイム用のサンダルも予備を調達して…






「あの椅子が気になる…」


 なんだかんだ物欲が出てきたぞ

 もしかしたら焚き火に当たって寛ぎのひとときとかそんなのがあるかもしれない

 となると、椅子があっても無駄じゃないよな






「こうなったら食器も…」


 何らかの事情で洗えない事が続くかもしれないし、その場合は予備の食器が…

 いやでもまだあるまだあると思って皿洗いを後回しにしてしまう可能性も…

 ええい買っちゃうか!壊れないとも限らないし!






 ああ、直前になってアレコレと出費が

 快適空間を作ろうとするからこうなるのか

 魔物退治してればお金は手に入るからいいけど…キリがない


 でもまあ、お金は貯め込むばかりじゃなく使うべきだって聞いた事あるしね?

 この街で稼いだお金だし、やっぱりある程度はここに還元して経済回しておかないとダメってのもお約束だよね、うん


「そろそろ頼まれたお肉を受け取って帰ろうか」


 ぷるぷる


「もちろん、コロちゃんのお肉もたーっくさん買って行こうねー」






 ノーラの作ってくれた晩ご飯を食べて、まったりタイム


「明日は初出勤ですね〜」

「あんまり言わないでー。今から無駄に緊張してくるから」

「大丈夫だって。失敗したからって誰かが死ぬようなところにはいきなり配属されないでしょ」

「それはそれで大げさ…でもないね」


 ぴょいん

 ぷるぷる


「コロちゃん一緒に来てくれるの?ありがとねー」

「そう言えばスライムって怖がられてないよね」

「襲わなければ襲われませんから〜」

「コロちゃんほど人懐っこい子も珍しいけどね。野生どこいったーってくらいに」

「じゃあコロちゃんはミリアと一緒に巡回してるうちに人気者になったりして」

「…コロちゃん、知らない人についてっちゃダメだからね?」


 ぷるぷる


「ハジメさんも気を付けるんですよ〜?」

「え、俺?やっぱそんな扱いなの?」

「ほんとに悪い人に騙されないでよ?目立つのはもう少しくらい慣れてからにした方がいいからね?」

「慣れるって?」

「だって細かい決まり事とか、あっちとこっちで違うんじゃない?武器を持ったゴロツキとか貴族が居ないとかが違うんだよね?気付いたらハジメがお尋ね者になってて追いかける事になってるとかボク嫌だからね?」


 あー…登録した時に冒険者ギルドでも近い事を言われたなー…


「そこは、うん。明日から暫くギルドの人が同行してくれるから。その人にくっついて社会勉強みたいな感じになると思うから」

「ご挨拶した方がいいですかね〜」

「相手の人は時間とれるかな?」

「待って待って!一応、俺が護衛するというかたちで、正式な依頼だからさ。だからそんな、職場に家族が挨拶に来るみたいな恥ずかしいのは、どうか勘弁してください!」

「じゃあそのかわり後でまた、ボクと手合わせね」

「よ、よしきた」


 しばらく手合わせできないし全力でとお願いしたら、フルボッ…ノーラのお世話になった

 ふっ…ミリアも日々成長しているという事だな…イテテ

 ちなみに、足元もボッコボコになってて、二人して怒られた






 ぴょい〜ん、ぴちゃ

 ぴょい〜ん、ぴちゃ


 旅立ちの朝、ノーラのお仕事開始より、ミリアの出勤時間よりも早く


「止まないなあ」

「止まないね」

「止みませんでしたね〜」

「ミリアの初出勤が」

「ハジメの旅立ちが」

「最近はずっと夜中しか降らなかったのに〜」

「「はぁ〜…」」


 ぴょい〜ん、ぴちゃ

 ぴょい〜ん、ぴちゃ


「コロちゃんは雨でも元気ですね〜」

「雨水とかも吸収しちゃえば濡れるとか関係ないもんね」

「…やっぱり、見送りはいいよ。二人とも無駄に雨に濡れちゃうから」

「しばらく会えないのにですか〜?」

「うん。『いってきます』で出掛けて、帰ってきたら『ただいま』ってだけだよ。特別な事なんてなんにもない」

「口にしちゃったからには、壮絶な逆境の旅が始まりそうだけどねー」

「そういうこと言わない!」

「めっ!ですよ〜」


 旅に出ずにずっとここで暮らしたい気持ちもあるけど…自分で決めたんだから踏み出さなきゃな


「そっちのコロちゃん、俺が居ない間、二人の事を守ってね」


 ぷるぷる


「そっちのコロちゃんも、ハジメが拾い食いしそうになったら横取りしてね」


 ぷるぷる


 こやつらめ…ハハハ


「これを持って行ってください〜」

「これは?」

「聖水です〜。対アンデッドのお守り代わりに〜」

「ボクも作るの手伝ったんだからね」

「二人ともありがとう」

「忘れ物してない?」

「うん。大丈夫」

「神様のご加護…はちゃんとありましたね〜」

「うん。ばっちりね」


 俺は帰ってくる

 ただいまを言いに帰ってくる!


 …よし!


「それじゃ、ちょっといってくるよ。体には気を付けてね!」

「「いってらっしゃい!」」


 ふりふり


「いってきまーす!」

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