第79話 一家団欒

 ノーラ…

 スキルって人となりが分かってしまうものだなぁ

 ノーラのことだから、この歳でこういったスキルを持ってるのは凄いんだろう

 多分そうに違いない


「癒やしを〜!」


 ほら、俺のHPが減っている事を目ざとく見つけた

 あと、人を癒やす為の力は【回復魔法】だけじゃないんだな


「ありがとノーラ。でも俺のHPはこれ以上は増えないと思う」

「何が起きてるんですか〜?」

「ノーラ、凄いことが起こってるんだよ!」


 ミリアが興奮気味にノーラに説明する

 俺の所持するスキルで、俺の弱体化と引き換えに仲間のステータスが上がる事

 その状態での成長率の上昇と体の馴染み具合

 今のLvだったら本来はどれくらいの強さなのか

 ここまで強くなるのに、例えばグラスウルフならどれくらい倒さなければいけないか

 ダンジョンでの敵との遭遇率や、強さを先行して得る事による効率の良さ

 そして、ギルドでシメた魔物がどれだけ異常な強さとExpを持っていたか


「帰る時にまでそれだけのExpの魔物がたくさん出てきたんですか〜」

「もうね、ひっきりなしだったね。ボクじゃ敵わないからハジメに任てコロちゃんに抱きつ…抱っこしてたけど」

「つまりコロちゃんはミリアを守ってくれてたんですね〜」


 なでなで

 ぷるぷる


「最初のデカいのは格段に強かったな…さっきシメた時、普通にやっても刃が通らなかったよ。どんな閉じ込め方をしたのか知らないけど、水晶が壊れたのは成長したせいかもしれない。もしくは、すでに強い状態の奴を閉じ込めてて、それが経年劣化で、とかかな」


 魔王復活とか、創作物でよくあるパターンだよな


「何であの一匹だけ強かったのか知らないけど、ハジメよりステータス高いとかどうしようかと思っちゃったよ」

「でもミリア、逃げようとは言わなかったよね。目が据わってたし」

「そもそもハジメより強いんじゃ、逃げようがないじゃないか…」

「しかもコロちゃんと一緒になって、俺が一人で立ち向かうんじゃないかって、肩を掴んで首をガックンガックンさせてきたよね」

「そんな事もあったかなー…」


 ぷるぷる


「混乱しててもミリアですね〜」

「あれだけステータス上がったから魔物にやられる事はないだろうと思い込んでたけど、俺一人だったら何も出来ずに死んでたよ。ほんと二人には助けられた。改めてありがとね」


 なでなで

 ぷるぷる


「みんな無事で本当によかったです〜」

「強くなっておいてよかったねハジメ。それがなきゃ、それこそ何もできなかったかもだよ」

「運が良かったんだか悪かったんだか。そうそう、今のノーラも、俺の血塗れ帰宅事件とか盗賊討伐の時とは比べ物にならないくらいに強くなってるよ」


 あの時はホント心配かけたな

 【マジックフィルム!】の切っ掛けのひとつだな


「そんなにですか〜?」

「具体的には、この街の周囲どころかココチカのダンジョンでの俺の主戦場を越えて、第五階層の蜘蛛と殴り合えるくらい。【回復魔法】がある分、競り勝てると思う。その先はどうなってるか知らないから判断できないけど」

「そんなノーラ見たくないし想像できないよ…」

「いやだから、例えだから、例え」

「まあでもMDEFが高い分、蛇相手にもボクなんかより安定してるよね。ボクは魔法が直撃したらダメージ受けちゃうだろうけど」

「それなら少しくらいは街の外に出ても大丈夫ですね〜」

「迷子になる方がよっぽど怖いかもね!」

「人の居る所に辿り着けないとか想像するだけでも嫌だな」


 俺の場合はすぐにコロちゃんが友達になってくれて案内してくれたなあ

 あれ、考えてみれば、俺ってコロちゃん誘拐犯なんじゃ…

 しかもコロコロ転がってたからってコロちゃんなんて安直な名前を勢いで勝手に付けちゃったのに、自然に受け入れてくれたんだよな

 あーなんかなでなでしたくなった


 なでなで


 あ、もう撫でてた


 ぷるぷる


「目印をたくさん入れた大きな鞄を用意します〜」

「ん?」

「街の外に用事でもあるの?」

「自分の力で薬草を集められます〜!これで安定して聖水を作れますよ〜」

「「ちょっと待って!」」


 ぷるぷる


 えい、えい、おーじゃないですノーラさん


「なんですか〜?」

「Lvが上がって怪我をしづらくなっても、戦い方を知ってるわけじゃないんだから。いきなり街の外はダメだよ」

「まず、ミリアに護身術くらいは習ってからの方がいいよ」

「なるほど〜」

「そもそもそういう用事があるならこれからはちゃんとボクに言ってよ!どうしても街の外に出たいなら護衛もするからさぁ!ボクもう街の外に出られるようになったんだから!」

「と言うか、薬草、必要だったの?俺、そういう感じの依頼を全然受けてなかった…」

「ハジメさんは事情がありますし〜」


 魂の修復とやらをサボったらどうなるのか恐いのは事実だけど…


「あー鍛えて稼いで、旅の準備だもんね」


 旅かあ

 どんな結末を迎えるにしろ、なるようになるし、なるようにしかならないよな

 俺の望む結末…無事に帰ってきて、ただいまを言って、それから…

 帰ってきたら今度こそちゃんと色んなことを手伝おう


「おーい?」

「ハジメさ~ん?」

「ところで二人とも、【基礎魔法】は自力で覚えたの?」

「そうですよ〜」

「うん」

「魔法ギルドで魔法に詠唱は必要ないって教えてくれた人からもう一つ教わったんだけど、【基礎魔法】を覚える前の段階の練習をスキル化するまで繰り返すと、【魔力操作】のスキルを覚えるらしい…って、俺もう言ってたかな…?」


 まあいいや

 お役立ちノート、久々だな


「なにこれ?」

「ああ、ミリアは見た事ないんだっけ。女神様の置土産」

「えぇ!?」

「ミリア内緒ですよ〜?」

「え、うん」

「ほらこの、【魔力操作】のページ。こんな風にスキルが増えてるんだよ。一部は二人にも覚えてもらったよね」

「これ凄い…」

「あと、効果から逆算して考えると、この時に感じられる魔力の塊って言うか流れって言うか、それを観察する感覚を体の外にまで広げると、【魔力感知】っていう索敵に使えるスキルが覚えられるかもしれない」


 多分あってる、ゲーム的に考えて…


「ここに侵入してきた盗賊団の連中に気付けたのは、これのお陰なんだよ。だからスキルをくれた謎のお兄さんはノーラの命の恩人だね」

「お名前はわからないんですか〜?」

「ずっと向こうのペースで、スキルと知識くれた後、気付いたら追い出されてた」

「ほんとに謎の人だねそれ」

「そうだ、スキル結晶を使う感覚と魔力結晶からMP補充する感覚って似てない?」

「似てる似てる!」

「そうですね〜」

「あれやってる事はどっちも魔力の操作でしょ。あの感じでやれば、さっき言った【魔力操作】が覚えやすいんじゃないかな」

「「なるほど〜」」


 あとはなんだっけ、えーっと他に俺のスキル…


「なんか今日は色んな事を教わりっぱなしだなー」

「今日は特に色んなものを受け取っていますね〜」

「ハジメってスキルとかお金をばら撒いたり色んな事を教えたり、実はそういう趣味持ってたり?」

「心配だからお相子と言っても受け取る方が多いですよ〜」


 ばら撒くって、ここのメンバー限定だから無差別にじゃないんだけどな


「だってほら、チヤホヤされるの気分いいじゃん?遠慮無くチヤホヤしてくれていいんだよ?ほれ、ほれ」

「えー」

「何だか誤魔化されてる気が〜」

「ね、嘘くさい。確かにありそうだけど、嘘くさい。自分からそれ言う?」

「嘘は良くないですよ〜?」

「別に嘘は吐いてないんだけどな…」

「あ、確か詐欺師って、嘘を吐かずに勘違いさせるって教わった」

「ちょっと待って!詐欺師とかひどくない!?」

「ミリア〜」

「ここはやっぱりアレかな」

「いや、どれよ」


 ハッキリ口に出さずとも通じ合う、この仲の良さは見てて和む

 和むけど…

 何を二人だけで納得してるんだ

 コロちゃんわかる?


 ぷるぷる


 そっか…


「俺は君たちが大切だからだよ!くらい言えないの?」

「ミリア悪い顔してますよ〜」

「え、なにそれ言わなきゃだめ?って言うか、ギルドで言わなかったっけー?あれれー?んー?」

「な〜にをですか〜?」

「あ、ノーラも悪い顔してる」

「ふふふ〜」

「なんなのこの流れ?俺こんなイジられ方されると思ってなかった!」

「そう言えばノーラへの感謝で泣いてたとか泣いてないとか」

「今まで流してくれてたのにここで蒸し返すの!?…お、俺はここで暮らす人を家族だと勝手に思ってます!これでいい!?」


 恨むぞリリアナお姉さん!

 黒いままじゃきっと適齢期が過ぎても奥さんじゃなくてお姉さ…ゲフンゲフン


 ぷるぷる


 コロちゃん、除け者にしてないから。大丈夫だから。君も大事な家族だから。むしろ家族の一人目だから


「しょうがないなー、もう勘弁してあげるかー」

「照れ屋さんですね〜」


 まったくもう

 えっと、何か考えてたよな

 何を考えてたんだっけか


「拗ねないでよハジメ〜」

「やりすぎました〜」

「いや、うん。大丈夫だから、大丈夫」

「ウチから独り立ちする男って、同じように誰かに何かを渡して同じようにイジられるんだよ」

「我が家の伝統ですね〜」

「我が家の…伝統…」

「まさかまたこれをする日が来るとは思わなかったよ」

「わたしもです〜」

「あ、独り立ちじゃなくて旅立ちか」

「早く帰ってきてくださいね〜」

「なんなの泣かせたいの?」

「泣くの?」

「よしよししてあげますよ〜?」

「ヤローの泣くのなんて見て楽しい?」


 これで楽しいとか言われたら、別の意味で泣くよ俺…


「あ、女の人のは見て楽しいんだ?」

「いやそうじゃないってわかるよね!?」

「でもやっぱりハジメさんですね〜」

「まあハジメだしね」


 よくわからないイジられ方が止まらないなぁ

 もうひとつスキルについて考えてたような…


「あ、そうだ。酒場でボクの服に付いた汚れがいつの間にかとれてたんだけど、もしかしてハジメじゃない?」

「ああ、うん、多分俺がやった事について言ってるんじゃないかな」

「やっぱりそうなんだ!ありがとハジメ!」

「どうやったんですか〜?」

「うーんと…【魔力操作】で、対象になる場所をこう、魔力に浸す感じで、そこに【清浄】かな?」

「難しそうですね〜」

「多分、【魔力操作】を覚えたら上手くいくんじゃないかな?あとは…汚れって漠然としてるから、その辺りを意識しないと。自分の服で試した事はあるけど、まだ人体で試す勇気はないかな」

「そうなると、ボクも【魔力操作】を覚えて損は無さそうだね。頑張ってスキル覚えてみようかな」


 あ、そうだそうだ【毒軽減】と【収納魔法】だ

 特に【毒軽減】はもう強制だ


「大事な事を思い出した。特にノーラ、これは強制。覚えて」

「こんなに沢山ですか〜!?」

「いいから、覚えて」

「は、はい〜」

「何か怖いよハジメ」


 その場で限界まで【毒軽減】のスキル結晶を作る

 俺はそのうち【簒奪者】でスキルLvが上がる可能性があるし、そもそもこの二人が優先だ


「覚えました〜!」

「何?何を覚えたの?」

「【毒軽減】です〜!」

「また簡単に手に入らないスキルだ…」

「ありがとうございます〜!」

「確かに、ノーラには必要だね、うん。すぐに酔って倒れたら自分に解毒の魔法を使えないもんね」

「ミリアも、念の為に使っておいて。毒持ちの魔物から一撃貰う可能性は排除しきれない」

「ハジメの熟練度は?」

「大丈夫、アテがあるから心配しないで」

「それじゃ…」


 これで少なくとも、少量のアルコールで倒れるって事はなくなる…はず

 軽減だからどこまで効果があるか分からないけど、自分で回復はできるだろう、きっと、うん


「ときに質問なんだけどさ、ステータスって見える範囲を限定できるんだよね?」

「覗かれた時にどれだけ抵抗できるかはスキルLv次第かな。一定以上になるとステータスLvのせめぎ合いになるけど。あと、細かくはどうこうできないよ。例えばスキルの欄を表示させないって感じだね」

「それって、普通の事?」

「まあ自分から見せる場合で考えて、無頓着か見せたがりの目立ちたがりじゃなければ、頭の一行だけだったりするね。そもそも日常的に他人のステータスを見るような事ってないし」

「全部を表示しない事で何か不利になったりしない?」

「んー、ハジメが受けたみたいに、裁判とか?この場合は、スキルを見せなさーい、とかかな」

「そっか…」


 結局は見せなきゃいけない場合がないわけじゃないんだよなあ


「どうかしたんですか〜?」

「実は【収納魔法】のスキルを渡そうと思ったんだけどね。今のステータスなら使いこなせるだろうって。でも隠せないなら、覚えてるだけであらぬ疑いをかけられ兼ねないからさ」

「まーたとんでもないものを渡そうとしたねー」

「仕送りの権利すら受け取ったんですからこれ以上は〜」

「うん、無理に押し付けようとは思わないから。どうせ悪魔の証明を求められたり、仮に裁判で無罪判決を受けても世間の疑いが残ったりとか、簡単に想像つくもんね」

「あれば便利には違いないんだろうけどねー」

「収納仲間を作るハードルは高いかー」

「なんですかそれ〜」


 ぷぷるるぷぷるる


「あれ…コロちゃん、お友達?」


 【魔力感知】の反応では急にそこに出たような…


 ぷぷるるぷぷるる


 できたーって…見事にユニゾンしてるぞこれ


「って言うか、ごめん、どっちがコロちゃんなの?二人ともどっちかわかる?」

「区別がつかないです〜」

「俺も…」


 態度と言うか細かい動きを見ても区別がつかない

 悔しいけどステータスを…


 ぴとっ

 ぐねぐね

 ぷるぷる


「え…」

「くっついちゃった!?」

「コロちゃん〜?」


 みにょ〜ん

 ぷちんっ


「ぎゃーっ!!!!!!コロちゃーーーーーん!!!!!?????」


 回復魔法!回復魔法!回復魔法!回復魔法!回復魔法!回復魔…


 ぺぺちちぺぺちち


「はいどーどー。コロちゃん、分裂と合体ができちゃう子になったの?」


 ぴとっ

 ぐねぐね

 ぷるぷる


「えええぇぇぇーーー!!!???」

「すごーい!デキる子だ!おめでとう!」

「おめでとうございます〜」


 ぷるぷる


「おめでとう…?いやでもコロちゃんにそんなスキルないぞ!?」

「そんな事言ったって実際に分裂したじゃんかー」

「どちらもコロちゃんならなでなでしてあげればいいだけです〜」

「…たしかに!」

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