第77話 お家に帰るまでが冒険です

「助かったよコロちゃん!」

「お疲れ様コロちゃん!…よいしょっと」


 ぱたぱた

 しゅるるるる


「あれ、もうシャバに出るの?」

「シャバって…さすがに頼りっぱなしもアレだし、そろそろボクも働かないと」

「それじゃ、出口まで一緒に走りますか」

「え、走るの?」

「いやもう5時だよ。いつもならそろそろダンジョンの入り口から街に向かって移動してる」

「…そっかー。いつもの時間より遅くなったら、ノーラに心配かけちゃうね」

「どうする?俺に任せてくれれば多分、30分後には教会に着いてるよ」

「いやいやさすがにそれは…え、本気?」

「良かろう。それでは証明して進ぜよう」

「じゃ、じゃあ…」






「「ただいまー!」」

「おかえりなさい〜」


 帰宅と同時にノーラにPTを飛ばす

 もうこれも挨拶の一部みたいなもんだな


 ぴょいん

 ぷるぷる


「コロちゃんもおかえりなさい〜」

「どうだ!宣言通り30分で帰宅だ!」

「いやー、さすがハジメ、すんごく速かった!取り零しもトレインもなし!」

「はっはっは、褒めよ讃えよ崇め奉れ」

「そんな時間まで戦ってたんですか〜」

「まあ色々あったんだけど」

「ノーラ!お土産があるんだよ!」

「ダンジョンのお土産ですか〜?」


 お、さっそくノーラに話を通してるな

 説得は任せるか


「最大MP増やしたくない?」

「MPですか〜?」

「正確には、Lvを上げたくない?」

「確かにLvが上がれば最大MPも増えますけど〜」

「とにかくまずは報告について来て欲しいんだ」

「報告ですか〜?」

「お土産の詳しい事は道中話すからさ」

「わ、わかりました〜」

「ありがとノーラ!」

「お礼を言われる事なんでしょうか〜?」


 うん、今の会話で状況が理解できたらエスパーだな


「それじゃ、冒険者ギルドへ行こう!」

「それでお土産なんだけど、実は俺、まともに相手してられない魔物を生け捕りにしたんだ」

「ま、魔物がお土産なんですか〜?」


 おう、言い方が悪かった

 ノーラが若干引きつってら


「そのExpだよ。普通の生活をしてる人は魔物とExpはすぐ結びつかないよハジメ」

「それもそうか…」

「もらう理由がないですよ〜」

「魔物じゃない動物の狩りではさ、お肉を持ち帰ったりするでしょ?今回は魔物だから、ボク達のお土産はExpって事で」

「う〜ん、何かが違う気がするんですが〜」

「じゃあさ、ノーラはたまに俺の事、使徒様って言ったりするじゃない?それならこれは、神の思し召しだと思えばいいんだよ。俺は神の地上代行だーみたいなノリで。ちなみにあの女神様なら、今の流れでの俺の発言も怒らないんじゃないかと勝手に思ってる」

「ずいぶんと大きく出ましたね〜」

「ハジメは話を無駄に大きくしすぎなんだよ。ボク達三人、ノーラに受け取って欲しいと思ってるんだ」


 ぷるぷる


「もう〜、しょうがないですね〜」


 お、これが正解か

 結局は正攻法が一番効果的だったな、うん






「ばんは〜」


 夕食時だから報告が終わって飲み食いする人が多いな

 忙しい時間に来ちゃったな


「あらヤマトさん、とうとう両手に花ですか」

「ありましたね、そんなネタ」


 ぷるぷる


「コロちゃんも居るので両手では足りませんね。では私が」


 何だかんだで結局コロちゃんを拐って…


 するする

 ぴょいん


 いやコロちゃん自主的に移ったな…自主的に…


 で、いつものように個室へと


「ご無沙汰してますシスター」

「お久しぶりです〜」

「貴女はミリアさんですね。リリアナです、初めまして」

「初めまして!よくボクだってわかったね?」

「お話は伺ってますよ。ハジメさんが手も足も出なかったとか」

「技術だけならまだなんとか、かな?」


 なんとか、じゃないでしょうが

 あんなネット動画で見る外国の軍人のナイフ格闘術みたいなの相手にするとかステータスが開いてなかったらそもそも無理だから…


「自然な流れでここに来たけど、いつもなの?」


 リリアナお姉さんがコロちゃんを可愛がってるのも、いつからかのいつもの流れですよね


「ハジメさんの対応は個室でする事にしたんです。ハジメさん、身内のようなので説明してしまっていいですか?」

「構いませんよ」

「魔力結晶の量が多くて受付のカウンターに載りきらなかったり、扱う金額もこの地域にしては桁違いなので、色々な意味で邪魔が入らないようにという理由ですね」

「そっかそう考えるとお金持ちなんだよね」


 じーっ


 ってその獲物を見つけた猫のような爛々とした目をやめなさい


「もう〜ミリア〜、そんな目で人を見るような娘に育てた覚えはありませんよ〜」

「育てられてないもーん」


 おっと

 もしや孤児院ジョークですかお二人さん

 お兄さんツッコミづらいなー


「教会への寄付もたくさんしてくれてますよ〜」

「随分とシスターに救われているみたいですから」

「ちょっ」

「なになに〜?そんなに焦っちゃって何か面白い話〜?」

「わたしこそ助けられていますから〜それこそ命だって〜」


 これなんか恥ずい!ムズムズする!

 授業参観…?三者面談…?とかの気分かこれ!?それとも親戚の集まり!?


「あの!その事についても後ほどお話があるんですけど、先に報告しなきゃいけない事が!」

「そうだった!ダンジョンが崩落したんだよ!」

「ミリア言い方!」






「俺ぁよぅ、そんなにパカパカ飲まねんだ。他のドワーフ連中と違ってな。たまーに仕事に区切りがついたり明日から忙しくなるぞって時によ、気持ちの切り替えに一杯飲みてえだけなんだよ。どうせ一杯じゃ酔えねぇしな。そのたまの機会によ、注文した酒が出てきた瞬間によ、重大な情報が入ったって職場に連れ戻される気持ちが」

「ギルマス、諦めてください」


 ダンジョンの一部が崩れその先に強力な魔物が出たと話すと、すぐにリリアナお姉さんがマドロイさんを連れ戻しに行った


 用がないとは言え、最近見かけないからどうしてるんだろうと思ったら何か忙しかったんだな…ついてないなこの人

 リリアナお姉さんもキリっと窘めてるが、癒やしを求めるかのようにコロちゃんを愛でるその手は止まらない

 ストレスフルな職場…いや、働くってそういう事か…


 ぷるぷる


 あ、コロちゃん、マドロイさんを狙わないであげてね

 情けは必要だからね


「で、ダンジョンが一部崩れたって?指示は出したのか?」

「第一報の後、調査班の手配と注意喚起を行うよう、指示を出しておきました。こちらが書類です。決裁をお願いします」

「もうそんなに動いてたんですか」

「あなた方の報告が一番乗りではないという事ですね」


 ああそうか、落ちて、戦って逃げて、脱出して、の間に別の人の報告が届いたんだな

 リリアナお姉さんもマドロイさんに時間をあげようとギリギリまで動いたけど、ってところか

 ホントこの二人ついてない


「そんで指示を出して、人員と情報が集まるまでは待ちの態勢かと思いきや話がそれで終わらなかったんだな」

「ダンジョンの封鎖とかは?」

「お前さん達の情報で確定かもな。で、具体的に何があった?」


 第四階層で唐突に揺れが起こった事から始まり、脱出して帰るまで、順を追って説明した

 素人の俺の考えが及ばない事柄が存在する可能性は大いにある

 ましてやどこにどんなヒントが隠されているかなんて見当も付かないから、できるだけ全部話すのが確実だろう


「コロちゃんにまた助けられましたよ。今回はミリアにもです」

「大活躍でしたねコロちゃん」


 なでなで

 ぷるぷる


 俺も後でいっぱいなでなでしなきゃな


「ミリアも頑張りましたね〜」

「確かに頑張ったけど頑張ったウチに入るのかな…?」

「ミリアはいつだって誰かを守ろうと頑張ってます〜」

「そういうノーラだってー」


 こっちもこっちで相変わらず仲の良いことで


「ハジメは相変わらずだな。ついこの間ゴブリン相手に死にかけてたと思ったら、今度はそんなバケモノかよ」

「え、俺だけ褒められない流れ?しかも今回は不可抗力ですよ!?ミリア一緒に怒られようよ!討伐初日にダンジョンの第四階層まで到達して謎のバケモノとの遭遇からの生還だよ!?ミリアもこっち側でしょ!?」

「ちょっとやめてよね!?」

「冗談だ!よく無事で帰ってきてくれたな。封印っぽい水晶やら中に居たバケモノに関しても一応調べる事になるはずだ。何かわかったらお前ぇにも連絡入れっから、もし興味あんなら聞きに来い」


 よかった、除け者は居なかったんだ…


「わかりました。それで、これがその水晶の欠片です。他に何か装置っぽいものは、あるのかどうかも俺にはわかりませんでした。こっちに書いてあるのはその蜘蛛達のステータスです」

「こいつはまた…」

「調査班に回して、編成の参考にします」

「頼んだ。で、生け捕りっつったな?」

「はい。もののはずみで生け捕りにしちゃったんですけど、これってシメちゃってもいいですか?」

「おう、シメろシメろ」


 軽っ

 ギルマス軽っ!


「いいの?」

「小せえ方は必要なら現地で捕獲できる。でけえ方はぶっちゃけ、手に負えねえ。生体研究しようにも、まかり間違って逃げられでもしたら簡単に対処できねえ。お前ぇ達どっちか、その強さの魔物を殺さずにギリギリまで弱らせるなんて芸当ができるか?俺ぁ人死には見たくねえぞ?」

「すいません無理です」

「うん、無理」

「なら決まりだな。とりあえず死体が残りゃそれでいい。それから、生け捕りにしたのは内緒にしとけよ?その事実もそうだが、それが出来るってのもだぞ?」

「それらがバレなければ、ギルマスが指示したのも内緒にできる可能性が高いですからね」

「お前ぇが黙認したのもな…」


 なるほど、内緒にすれば平和的に物事が回るわけか

 どこかで知ったマッドな研究者が、形振り構わずに危険に手を染めるみたいなのはよくあるお約束だしな


「な、内緒ですね〜?」

「内緒だね、内緒、うん」

「じゃあ早速シメて…」

「そりゃ【収納魔法】か?まさかここで出すなんてこたあ」

「さすがにそれは。秘密の作業スペースを確保するなら、この魔法が手っ取り早いんです。この部屋に施錠だけして貰えれば」


 部屋を取次禁止扱いにしてもらい、【収納魔法】を展開し、みんなが中に入ったところで、出入り口を閉じる


「これで、誰にも見られませんね」

「なんでえ、空っぽじゃねえか」

「別の空間に入れてあるんですよ。興味あるなら見てみます?」

「いいか?」

「心臓が弱かったりしませんよね?」

「お、おう」

「びっくりするかもですけど、あちらから攻撃する手段は封じますからそのつもりで居てください」


 マドロイさんの前方に覚えたての【障壁魔法】を展開する

 俺が使うと蜘蛛の巣には見えないな…


 そして反対側にくっつけて蜘蛛の居る異空間を開く


「ふぉっ!?」


 蜘蛛がマドロイさんを【障壁魔法】で取り囲むが、それだけだ

 ここから何らかの遠隔攻撃を出来るわけではない

 大きい方の蜘蛛だったら押し潰される可能性があるから危ないけど


「これが小さい方です」


 蜘蛛がガッツンガッツン体当たりを繰り返すが、【障壁魔法】にMPを注ぎ込み続けて維持する


「やっぱ怖ええな。でけえ方は生きた状態で拝むの止めた方が良さそうだ」

「そっちの二人は?」


 ノーラとリリアナお姉さんは首をぶんぶんと横に振る

 まあ、クリーチャーがガラス越しに体当たりを繰り返すみたいな、ホラーかパニック映画みたいな絵面だもんな、しかも超近距離大画面

 心臓に悪い

 俺だって見なくて済むなら見たくない

 ダンジョンに潜る前の、かつての俺ならショック死してるかも


「じゃあ、始めますよ?」

「おう、頼んだ」

「コロちゃん、滅多な事はないと思うけど、バックアップお願いね」


 ぷるぷる


「スキル欲しいって…あれか!毒関係と【障壁魔法】か!」


 ぷるぷる


「なら強い方は後回しにして、このまま弱い方からやってこうか。でも大丈夫?食べられそう?」


 ぷ、ぷるぷる


 コロちゃん、食べ放題のトラウマを克服しようとするなんて偉いぞ

 味は我慢しても…コロちゃんのステータスじゃ蜘蛛のDEFの上から食べるのは手間取りそうだな

 こういう時は…試しに熱を通してみる?


「コロちゃん、ちょっと細工してみるね」


 異空間の壁で蜘蛛を捕まえて…隙間なくビッチリ固定してっと

 頭の近くに着火を纏わせた【魔法剣!】を差し込んで


「コロちゃん、牙以外に毒があるのかわからないから、様子を見ながらゆっくりね。少しでも変だと思ったらすぐに回復魔法をかけるから戻ってくるんだよ」


 まあ種族特性とかじゃなくスキルによる毒みたいだから、体液の有毒性とか毒腺もない可能性もあるけど…


 ぷるぷる

 ぴょいん


 そして俺の作った傷口からコロちゃんが…

 うん、深く考えない深く考えない


 あれ、なんか体から力が抜けるような…

 HP、MP、SPが200近く下がったぞ?

 …そうか、今ノーラあたりのLvが上がって、倍化の効果で俺のステータスが移ったんだ


 一匹倒してどんだけLv上がったんだか

 確かExpが30万越えてたよな

 俺以外の三人で均等に分け合うと…Lv1から起算してだいたいLv30か

 一気に上がるな

 で、独り占めすると…それでもLv40に届かないくらいか

 やっぱりLvってどんどん上がらなくなるんだな


 ぴょいん

 ぷるぷる

 ぺっ


「ん?最初は美味しかった…?やっぱり焼いたからなのかな…?あの、蜘蛛の死体って、いくらかコロちゃんに食べさせてあげていいですか?」

「でけえのと、小せえの一匹、残せるだけ残してくれるか?」

「わかりました。よしコロちゃん、試食しながら残りを片付けよう」


 ぷるぷる


 一列に並べて…

 コロちゃんはトドメを刺した後、着火で炙りながら食べてるのかな?

 ちゃんとした攻撃魔法を覚えさせてあげた方がいいかな

 ゆくゆくはノーラにあげたスキルのセットと【オーバーロード】か


「おぉ…力が抜けていく…」


 どんだけ自分が弱体化してるのか、計算しないと正確に把握できないな

 今更だけどこれ、俺自身、すんごい危険じゃないか…?


 ぷるぷる

 ぺっぺっぺっぺっぺっぺっぺっ


 ぷるぷる、ぷるぷる


 喜んでる…コロちゃんが喜んでる!


「次から美味しくないお肉は焼いてみようね!」


 ぷるぷる


「それでスキルは覚えた?」


 ぷるぷる


「なら最後にあのデカいのやっつけるか!」


 異空間の窓を開けて…


「おっと!」


 そりゃ【障壁魔法】を使える程度にはMPが回復してるよな

 何度か無駄撃ちさせて…


「うわ…刃が通らない…」


 処理する順番間違えたかな

 倒して俺のステータスが上がってもみんなのLvアップと倍化の相乗効果で結局下がってるぞ

 かと言って倍化を解除したら今回の趣旨から外れるし…

 蛇の魔力結晶でも10個くらい使って【魔法剣!】を【オーバーロード】するか


 【オーバーロード】は効率がブーストされるとは言え、それでも魔力を込めれば込めるほど強化効率はダダ下がりする。が、今回は仕方ない

 本当は異空間の壁で圧殺とかできるか実験したかったけど、ノーラの前で必要以上に残酷な事をするのも気が引ける

 それに蛇の魔力結晶はまだまだあるし、その気になれば幾らでも手に入るしな!


「さあコロちゃん、食べ過ぎないようにトドメだけお願いね」


 ぴょいん


「これで後は、死骸を引き渡すだけだな」


 さて、あっちの二人の様子はどうかなーっと

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