第74話 ミリアのレベルアップ

 ミリアが素振り…手足の動き、体幹なんかの確認をしてる

 相変わらず安定感がありつつキレッキレの動きだ


「確認って何で?」

「団長が言ってたでしょ?急に力が付いたら危ないって」

「ああ!大丈夫なの?」

「なんか、ステータスの倍化を受けた時の感覚と同じかも。すぐ慣れそう。ステータスの増え方は一気にLvが上がったようなものなのに。やっぱりこれハジメの影響だって絶対!」

「じゃあ、倍化だけに、成長率も2倍?そんなまさか」


 副作用は…?

 そんな説明は無かったしむしろ、この現象そのものが倍化の副作用…?


「ミリア、ちょっと一旦、倍化を解くよ」

「え?うん」

「どう?体の調子は」


 ミリアが確認動作をとる


「うーん…違和感は特にないね」

「じゃあもう一回倍化」


 もう一度、確認動作


「うん、すぐに慣れそう」


 すぐに思いつく範囲ではわからないな

 まさかのマイナス効果なし、か?

 【女神の加護】の影響だとしたら、それはそれで納得できる

 っていやいや、こんなとんでもないもん寄越すからあんな消え方したんじゃ…


「とにかく!このチャンスは見逃せないよ!」

「…Lv上げる?」

「うん!」

「ガンガン行っちゃう?」

「う…ん」

「全力出しちゃう!?」

「待って待って!例えばハジメが本気で走り出して、ボクが追いつけると思う?ついていく事すらできないよ?」

「…冗談デスヨ」

「ほんとかなぁ」






「問題!このポーズは何でしょうか!あ、【魔法剣!】は今、伸びてます」


 俺は頭の上に切っ先を向けたポーズでジリジリと進んで見せる


「はい!」

「はいミリアくん」

「落ちてくるヤモリを警戒してる人!」

「せいかーい!」

「でもボクは短剣だし盾も持ってないから、同じ事をやっても結局ダメージ受けるよね」

「まず基本的に、Lvが高いかガチムチに鍛えた人じゃないと、こんな事しても衝撃で大怪我します。大丈夫な人でも、次の一歩で落ちてくるって前提で力を込めっぱなしだとすぐに疲れるし、中々進めません。もちろん短剣はリーチの問題で強烈なビンタを自ら食らいに行くようなものです」

「それに、それが出来るくらい強い人なら、そもそも何か対抗手段を持ってそうだよね」

「はい、その通りですね。というわけで、ミリアと同じステータスの場合、俺はこうします」


 反応のある方へ進むと、上からヤモリが降ってくる…のに合わせて、足裏で思い切り下顎を蹴り上げる

 脳震盪を起こしてひっくり返っている間に、渾身の力を込めて短剣を振り下ろし、そのまま引き裂く


「突くのも裂くのも、やっぱり肋骨の向きを意識するのが大事かな」

「…でもこれって、そもそも気付かないとだめだよね?」

「まず一つ目の答えとしては、コロちゃんにタイミングを教えてもらう」

「コロちゃんにお願いしてる役割の一つだね」


 ぷるぷる


「次に漢探知だけど…10歩くらい離れてついて来て!」


 魔力感知で標的が存在している場所を確認して、走り出す

 すると、俺が通り過ぎた直後にヤモリが落ちてくる


「ふんがっ!」


 一度着地した後、飛び掛ってくるのに合わせて鼻っ面に短剣を突き刺し、怯んだ隙に追撃で脳天を潰す


「ふぅ。これを、前衛の囮役と後衛の警戒役を交代しながらやったらどうかなって思うんだけど。って言うか、そうしてる人達をこの前見た」

「よくそんなギリギリの攻撃できるね…」


 そう思うよねー

 俺だってこっちに来る前の体で例えばワニと戦えって言われたら無理だって思うけどさ


「ミリアも、少なくとも倍化してる今はそれだけのステータスがあるんだよ。体術的にもゴブリン相手には同じくらい際どい攻防してたんだから少しは自信持って」

「わ、わかった」

「まだ不安なら…弾くんじゃなくて受け入れて纏わせるイメージしてね。ほいっと」


 ミリアの【魔法剣!】に【氷結魔法】をかける


「あーこれかー」

「ミリアはまだ今出せる力すら全てを引き出してなかったわけだ。これで頑張って先手を取れば、有利さが増すよ」

「これどうなるの?」

「斬ったとこが、多分凍る。あと、冷える事で更に動きが鈍る事が期待できる。こういうのも自力で出来るように練習するといいよ。せっかく【基礎魔法】を覚えたみたいだし、【着火】とかでさ」

「やろうと思っても、そうそう出来るようにならないと思うんだけどな…」

「俺はいきなり出来たよ。そういうスキルだから、ミリアにもできる!」

「またそれかー」

「できるできる。【魔法剣!】と【マジックフィルム!】は、操作系スキルと強化系スキルのいいとこ取りだと思って」


 そういうスキルが実際にあるのか知らんけど


「なるほど…」


 あ、やっぱあるんだ


「ところで、男探知って何?」






 あそこの天井に貼り付いてるな

 コロちゃんの合図でミリアがかわしたら速攻で初撃を入れてから…


 ぷるぷる


「了…解!」


 コロちゃんの警告を受けて、前方を走っていたミリアが急制動をかけて武器を構える

 そうなると当然、攻撃態勢に入った後続は追突コースなわけで

 気を付けろ、車は急に、止まれない


「ぬをっ!?」


 華麗なステップで横に跳…滑った!?

 あ、転ぶ

 ってか体が空中で横倒しに

 うん、ミリアに当たるねこれぶつかるマズいマズいマズい!

 そ、そうだ上に

 地面を殴って

 錐揉みしながらリミッター解除ステータス全開!衝撃に備…


 ばちこーん


「大丈夫!?」

「あっぶな…俺は無傷だよ。二人は?」

「ボクは平気」


 ぷるぷる


「うわー交通事故だよ…全身を強く打ったのがヤモリの死因だ。これもう解体要らずだね!」

「馬車って言うより破城槌…」

「よし、俺達に足りないのは話し合いだ」

「連携の為の作戦会議だね」






 幾度かヤモリと蝙蝠を倒し小休止をしていると、ヤモリが近付いて来る反応がある

 二人は休憩中だし、ここは俺が撃ち落として…


「もしかして、近付いて来てる?」


 ぷるぷる


「え、わかるの?」


 武器を手に立ち上がり、構えながら天井を見やるミリア


「なんとなーくだけど、あの辺を歩いてきてるなーって感覚が…なんか、気配?音かな?あ、揺らぎってああいう事か。確かによーく見るとわかるね」

「とりあえず落下の迎撃、やってみる?」

「そうだね」


 ミリアがスタスタとヤモリの方へ歩いて行き、天井と足元を確認してちょっとズレて…しゃがんだ?

 そうこうする内にミリアの真上にヤモリが来て…落ちてきた!


「よっと」


 そしてミリアが迎撃…しないで飛び退った

 あれ?

 着地と同時にミリアが構えを解いて…

 ヤモリが…やられてる!?


「ミ、ミリア…何したの…!?」

「そこの地面がたまたま尖ってたから、周りの石を退けたの」

「落下地点?」

「誘導できるかなーって」

「…えぇぇぇぇー」

「あわよくばって思ってたんだけど、まさかピッタリ狙った場所にぶつかるなんてね」

「そんなんありかよ…」


 ぴょいん

 つんつん


 いやでも、コロちゃんと倒したわんころも、頭をぶつけて死んだんだもんな…


 なでなで

 ぷるぷる


「でもこれで、戦って倒せる事の他にも、近付いて来てる事と落ちてくるタイミングも何となく掴めてるって事がわかったね!」

「索敵のスキルは生えた?」

「生えてないねー。って言うか、スキルなんてそうそう増えないって」

「とりあえず、増える事を期待して、暫くここを狩場にしよう。もしも次の階層に行くなら、索敵スキルがあるとないで大違いだし」

「蛇が魔法を撃ってくるんだよね?」

「うん。やられる前にやる。それが出来ない状況では常に撹乱しながら走るんだけど、蝙蝠とかヤモリが邪魔くさい」

「常に?」

「だって索敵手段もないのにゆっくりしてると、知らない内に近付いて来た蛇に魔法を撃ち込まれるよ?蛇に向かってる時は向かってる時で、どこから邪魔が入るかを把握してるとしてないとで違うし。まあ、魔物の密度で言ったらそこまでじゃないんだけどね」

「…とりあえず、魔物を狩ろっか」






「ふんっ!…はぁぁぁっ!」


 ミリアが蝙蝠を近くの天井のヤモリへと蹴り飛ばし、ヤモリが落ちてくるところで首を斬り飛ばした

 よくもまあ狙った場所に蹴り飛ばせるもんだ

 魔物は友達か


「もう一撃だし場所も完全に見切ってるよね」

「でも索敵スキル増えてないんだよね…」

「きっとミリアにとってこの程度、スキル化するまでもないんだよ」

「まあ、新しいスキルなんてそうそう増えないよね」


===

 フェミリア 猫人 16 リスガー

 パーティ:ヤマト、コロ

 状態:正常

 Lv 17 → 22 Exp 9,490 → 27,096

 HP 310/100 → 155

 MP 70/24 → 35

 SP 237/86 → 133 (10%↑ 体術Lv2)

 ATK 99 → 155 (10%↑ 体術Lv2)

 DEF 87 → 135

 MATK 15 → 23

 MDEF 13 → 20

 SPD 97 → 158 (10%↑ 体術Lv2)

 STR 110 → 173

 VIT 109 → 169

 MGC 36 → 53

 AGI 109 → 178

 スキル:ステータスLv3、夜目Lv1、集中Lv2↑、体術Lv2↑、SP回復量上昇Lv1、短剣術Lv1、パーティLv1、基礎魔法、魔力回収、魔法剣!Lv1、マジックフィルム!Lv1

===


「ところで今何時くらいだろ?」

「えーっと…10時半だよ」

「まだ!?」

「疲れた?」

「休憩は少し欲しいけど、そうじゃなくて、これだけ戦えるようになったのに」

「だってステータス倍化してるもん」

「あそっか…」

「本来のステータスだと、まだゴブリンリーダーの攻撃も当たったら危ないからね。多分、蝙蝠を倒すのだっていいのが入ったとしても3発か、下手したら4発くらいは攻撃が要るかな」

「調子に乗るって意味でこれ、危ないね…」

「お昼にするにはまだ少し早いけど、どうする?」

「さすがにこの時間だとね。少しだけ休憩してから再開でもいいかな?」






「さて、注意事項は大丈夫?」

「うん」

「一言で言うと?」

「蛇はヤバい!」


 ぷるぷる


「さすがコロちゃんは違うね…」

「疲れそうになったりヤバくなったら遠慮無く言ってね。余力を残さないような無理だけは絶対に禁物だから」

「わかったよ」






「ハジメ!コロちゃんが!」


 蛇を倒しに行ったミリアがコロちゃんを抱き抱えて叫びながら駆けて来る


「入って!」


 急いでミリアの目の前に異空間の入り口を展開する


「うん!」


 周りの魔物を始末し、後を追って入ると、コロちゃんは体に付着した氷を砕いていた

 この前は擬態で氷を砕いたけど、【変形】スキルのある今はちょっと大げさにうにょんうにょんするだけでも大丈夫なんだな

 最後に回復魔法をかけて終わり、と


「コロちゃん大丈夫!?ごめんね!ボクの身代わりに!」


 どうやら撹乱に失敗したミリアをコロちゃんが庇ったみたいだな


 ぷるぷる


「大丈夫だってミリア、落ち着いて」


 ぷるぷる


「ほらコロちゃんも大丈夫だって言ってる」

「…本当に大丈夫?コロちゃん」


 ぷるぷる


「コロちゃんのステータスならダメージもさして通ってないし、なんか氷も簡単に砕けるんだよ」

「そ、そっか…」

「でもミリアが食らうと危ないからね。コロちゃんナイスだ!」


 ぐっ!

 とサムズアップすると


 むふー!

 と返ってくる


「お、新しいリアクションのお披露目だな!」

「コロちゃんそれ、胸を張ってるの?」

「もーコロちゃん可愛いなーもー!もう!もう!もう!」


 なでなでなでなでなでなで

 ぷるぷる


 ぴょいん


「わわっ!」


 ぺちぺち


「ううん、コロちゃんの事だもん、心配もするよ。ボクの方こそごめんね、庇ってもらっちゃって」

「ミリアミリア、こういう時はありがとうだよ」


 って言っておくのがお約束ですよねー


 ぷるぷる


「うん。ありがとねコロちゃん」






 ミリアはスキルこそ発現していないものの、索敵自体はできるようになった

 実地訓練で撹乱のコツも身につけ、おかげでレベル上げに重点を置く事ができた

 結果として3Fと同じくらいのペースまで上がり、お弁当を食べるまでにはそれなりのExpも手に入った


「「ごちそうさま!」」


 ぷるぷる


 やっぱりノーラのご飯、美味しかったなあ


「こんな所でもノーラのご飯が食べられるなんて、思いもしなかったよ。しかも動いてもお弁当が台無しになったりしてないし、簡単なヤツだけどお手洗い完備だし、安心してゆっくりできるし、収納魔法って本当に凄いね。これで明かりが魔法要らずで、お弁当も冷めたりとかしなかったら完璧なんだけどね」


 どうも、もともと閉鎖的な異空間を開くってだけで、人が過ごしたり物を保管するのが本来の存在意義じゃないみたいだからそこは仕方ない

 【収納魔法】ってネーミング、絶対に間違ってると思う


「動いた後にあれだけの食欲を発揮できたミリアも凄いと思うんだけど…」


 ぷるぷる


 あ、コロちゃんもそういうの関係なかったね、うん


「んー、訓練の賜物?」


 絶対、過酷だろ騎士団の生活…


「ミリア、ここおべんと付いてる。あ違う、反対反対。取れた」

「あむ。あとやっぱり、ノーラのご飯美味しいし!」

「それは同意」


 ぷるぷる


「冷めたの食べて確信したよ。ノーラの料理はやっぱりまた美味しくなった。もう一度習わないと」

「え、ミリア、料理させてもらえるの?」

「それくらいするよー!ボクのこと侮りすぎだよ」

「いや俺、頼んでも台所を使わせて貰えなくて」

「…多分、男の人をそういう所で信用してないんじゃないかな?昔ウチに居た男連中を見てたらそうなると思う」

「よし。旅から帰ったら見返してやる」

「休憩が終わったら、そろそろ次の階層に行っちゃおうか!」

「ふぇぇ…」


 ぷ、ぷるぷる


「どしたのさ?二人とも」

「蜘蛛、出る。俺、嫌い。コロちゃん、トラウマ」


 ぷるぷる

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