第73話 ミリアの初ダンジョン

「これがダンジョンかー」

「さっそくの歓迎だなっと!」


 入った直後に歓迎を受けるって、ミリアの幸先悪いな

 まさか俺の運じゃないよな


「あ、それはえーっと…ココチカバット?」

「うん。調べてきたんだね」

「…ねえハジメ、斬ったんだよね?」

「うん、斬撃で倒した」

「これ、ちゃんと最後まで刃筋が立ってないよ。最後の方は斬ったと言うより若干抉れてる。玄人でも常にとはいかないけど、乱戦でもない上にそのステータスでこれは…」


 ジト目いただきましたー

 なんか鑑識さんみたいだな

 まあそういうのも騎士団の仕事のうちだもんなー


「いやだって、刃物歴2週間ちょっとの、ド素人だよ?短剣術があって、やっとこれだもん。だからテオさんも短い刃物で急所への刺突をすすめたんだと思う」

「それもそっか。これは確かに武器もどんどんダメになるよねー」

「さてどうしよう」

「何が?」

「俺のステータス。コロちゃんが居るからミリアに合わせようかなーとか思ってたけど、早々に弱点が露呈する程度だし」

「うーん…それこそコロちゃんが居るし、ハジメは自由でいいんじゃない?」


 ぷるぷる


 コロちゃん張り切ってるな


「よし。ミリアが敵に慣れたら合わせるよ。暫くはミリアが1対1で戦えるようにしておく。大丈夫そうになったら普通に混ざるよ」

「わかった。それはそうと、剥ぎ取らなきゃね」

「じゃあ見張ってるよ。残った部位は…ここに入れて」

「…何これ?」

「異空間」


 みょーん、みょーんと大きくしたり小さくしたり

 あ、ふいごみたいになるなこれ

 そーれミリアに送風だー

 凍えそうな季節ほどじゃないけど涼しくていいだろー


「ふぉうふぁんふぇふぉふぁいふぁふぇ」

「え?」


 ごめんミリア、女の子にさせちゃいけない顔だった…


「…もう何でもありだね」

「コロちゃんのおやつになるからさ。お弁当は別の異空間の中でね」

「…はぁ。ハジメが悪人じゃなくて良かったよ。証拠が見つからないどころか、使い方次第で殺害現場とか監禁場所すらなくなっちゃう」

「わっかんないよー?もしかしたら俺も」

「ごめん、騎士団員のボクの前でそういう冗談はやめて。お願いだから」

「あー、うん。わかった。ごめん」


 少しだけ泣きの入ったマジトーンで怒られた…


「いい?悪そうな人もそうだけど、騎士団みたいな所とかにもそう簡単に見せたらダメだからね?あと貴族とか商人とか他にも」

「わかってるわかってるって!ミリアだから見せたんだよ!」

「…ならいいけどさー」






「よ!っと。こんな感じ?」

「そうそう。こいつら飛んでなきゃ大して怖くないから、片方でも羽を失って落ちたら殆どただの障害物だよ」


 なんなのミリアのこの安定感

 まともに魔物と相対するのは今日が最初じゃないの?

 団長あたりに何か心構えでも説かれたのかね

 いやそもそもこの世界の人達の死生観とかの賜物なのかな


 速やかにトドメを刺して、ミリアの切り口を見てみる

 綺麗な切り口だ

 あれだ、これがプロの犯行ってヤツだ

 手合わせで真剣を使うのは慣れてなくても、さすがに斬撃の訓練自体はやってたんだな


 剥ぎ取りはやっぱり面倒らしく、全部コロちゃんのおやつにする事にした

 よって倒した魔物は最初だけ解剖がてら解体し、残りはまるごと異空間に回収する事になった


「でも【魔法剣!】で丈夫になってるし、体も小さいから突き刺しても無力化できそうだね」


 最初の一回を乗り越えたら、あとは強いな


「そこから別の敵に投げつけたりね」

「いざとなったらそうなるよねー。あ、看板だ」

「ここから先が第二階層だね」

「魔物の種類が変わるんだよね。次は確か、蝙蝠とゴブリンとゴブリンリーダーだっけ」


 ちゃーんと予習してるなんて、さすがに俺とは違うなー


「そうだね。何故かこっちに出てこないからゴブリン共を引き籠もりって呼んでるけど」

「うーん…進んじゃおうかな?ハジメから見て無理そう?」

「捌き切れないほど囲まれない限り、今のミリアでも大丈夫かな。ゴブリン共の攻撃は危ないけど、HPもコロちゃんの回復魔法Lv1の一発で最大まで回復するし。Lvもそのうち上がり始めるだろうしね」

「今のExpは…ステータスオープン」


===

 フェミリア 猫人 16 リスガー

 パーティ:ヤマト、コロ

 状態:正常

 Lv 15 Exp 2,340

 HP 156/78

 MP 38/19

 SP 137/67 (5%↑ 体術Lv1)

 ATK 76 (5%↑ 体術Lv1)

 DEF 68

 MATK 12

 MDEF 11

 SPD 72 (5%↑ 体術Lv1)

 STR 85

 VIT 85

 MGC 30

 AGI 82

 スキル:ステータスLv3、夜目Lv1、集中Lv1、体術Lv1、SP回復量上昇Lv1、短剣術Lv1、パーティLv1、基礎魔法↑、魔力回収↑、魔法剣!Lv1↑、マジックフィルム!Lv1↑

===


「えーっと…Lvが上がり始めるまで、あと5,000も要らない、かな?」

「ほんとだ」


 さすがにこのLv帯のExpは暗記してないので、表を取り出して覗き込む


「何見てるの?」

「冒険者ギルドで用意してくれた、Lvと必要Expの対応表。一部は正確なものじゃないらしいけど、ボリュームゾーンのLv帯はサンプル数が多いだろうから信用できると思う」

「わざわざ作ってくれたんだ…」

「リリアナさんっていうエルフのお姉さんが居るんだけど、すんごい優秀っぽい」

「あー有名人だねー」

「じゃ、次行っちゃう?」

「もう行っちゃおう!第二階層には蝙蝠とゴブリンだけだし!」

「いやリーダー居るからね!?」






「ハジメ、お願い!」

「了…解!」


 後ろから近付き、ゴブリンリーダーの首を刎ねる

 動きに対応する分には問題なくても、単純に攻撃力が不足して満足にダメージが通らないみたいだ


「やっぱ今のミリアじゃステータスがギリギリだね」


 【魔法剣!】で攻撃力を底上げしても、成人直後からLvが上がってなきゃこうなるか


「むぅー…」

「ほんとに、後はステータスだけの問題だからさ。やっぱりゴブリーは俺に任せて、しばらく他の相手をしておかない?蝙蝠なんか的確に迎撃してたらそのうち【カウンター】ってスキルが身に付くと思うし、その方が早くLvも上がると思う」

「やっぱりステータスの差って大きいんだね…騎士団の武器なのに刃が満足に通らないなんて…」

「じゃなきゃ、誰もLvなんて上げなくなっちゃうよ」

「でも正直、もうちょっとくらいはどうにかなると思ったんだけどなー」

「うーん…もしかして、ゴブリンが人型だから無意識に手加減…じゃないけど、力が入らなかったり始めから急所を除外したりしてない?普段の訓練通りと言うか…相手に参ったと言わせる攻撃の蓄積で倒そうとしてるとか。ダメージが通りにくい敵の場合、それじゃなかなか勝負が決まらないと思うよ。倒す気じゃなくて、殺す気で行かないと。せっかく敵が怯んだならそこに合わせてトドメを刺さなきゃ。外で急に交代した時は首の裏を狙えてたじゃない」

「そう言われると、そんな気もする…しっかり急所を狙えばいいのかな」

「最後にゴブリー残して俺がやってみようか?」

「お願い」

「わかった。次の群れを探す…のもめんどいから、口笛吹いちゃおう」

「好きだねー」


 この反響する洞窟内で口笛を吹いて、どうして正確にこちらの居場所が判るのか

 相変わらず不思議だ

 そしてゴブリンの群れを追いかけて蝙蝠までやってきたか


「団体サマの、お着きだー」

「まずは数を減らさないとね。それじゃ、行っくよー!」


 ミリアが先陣を切って集団に斬り込む


「ああ、周りから俺がどう見えるのか改めてわかった…」


 今度はミリアのフォローに入る形で乱戦に加わる


「ハジメ!ステータス、下げてない!?」

「せっかくだし…ね!」


 でもミリアのフォローは頼むねコロちゃん!


 ぷるぷる


「付き合い、良い…ね!あと、ボクにも念話…聞こえてるから、ね!」

「そうだった!それにしても、一撃…で!相手が沈まない、のも!久々だ!」

「そもそも、冒険者になって、2週間ちょっと…でしょ!」

「倒した数で…言えば!4桁行ってた…はず!」

「もうゴブリンの天敵じゃなくて…!魔物の捕食者…だね!」

「それじゃ…食べるの大好きな、コロちゃんと、お揃いだ!」


 倒すのに時間がかかったからか増援を呼ばれたが、残るはゴブリンリーダー2匹だ


「それじゃ、やってみるね」

「うん」


 【魔法剣!】までミリアに合わせるのは難しいから…なしでいいか

 俺は2匹に向かって駆け出す


 両方仲良く俺を迎撃するつもりか


「まとめて相手に…するわけないだろ!」


 向かって右の顔に砂まじりの砂利を放る

 左のゴブリーが俺にタイミングを合わせて剣を振り上げ…


「ふんがっ!」


 大きく鋭く踏み込んで間合いの内側へ

 左腕で加速前のゴブリーの右腕を開き、体を入れて可動域を封じる

 と同時に眼窩に短剣を突き込み、捻って抉る


 もう一方の目潰しをされたゴブリーは仲間を呼ぶ余裕も無いようで、無茶苦茶に棍棒を振り回している

 背後へこっそり回り込み、右手で逆手に持った短剣を勢いを付けて首筋に…先端しか刺さらなかったから脚をかけて左の掌底で短剣を押し込むように突き崩す

 そのまま流れるように、膝で短剣の柄を踏むようにして体重を乗せる


「ふぅ。とりあえず、俺が思いつくやり方はこんな感じ」

「なんだか、妙に人型の相手に手馴れてるのが気になるんだけど…特に最後」

「もともと覚えのあった体術の簡単な応用なんだけど…もしかして俺、引かれてる?しょ、正直に言ってごらーん?ほら、お兄さん怒らないから」

「ハジメは怒らない代わりに泣きそう…」

「Oh…」

「ごめん…」


 泣いてないぜ、泣いてない

 若干涙目だけど…


「と、ところで、Expの方はどうなのかな?」

「なーんか最後の方、ほんの少しだけ敵が弱く感じたんだよね…ダメージが通るようになったと言うか」


===

 フェミリア 猫人 16 リスガー

 パーティ:ヤマト、コロ

 状態:正常

 Lv 15 → 16 Exp 2,340 → 9,144

 HP 156/78 → 89

 MP 39/19 → 22

 SP 146/67 → 76 (5%↑ 体術Lv1)

 ATK 76 → 87 (5%↑ 体術Lv1)

 DEF 68 → 77

 MATK 12 → 14

 MDEF 11 → 12

 SPD 72 → 85 (5%↑ 体術Lv1)

 STR 85 → 97

 VIT 85 → 97

 MGC 30 → 33

 AGI 82 → 95

 スキル:ステータスLv3、夜目Lv1、集中Lv1、体術Lv1、SP回復量上昇Lv1、短剣術Lv1、パーティLv1、基礎魔法、魔力回収、魔法剣!Lv1、マジックフィルム!Lv1

===


「おお!上がってる!おめでとう!」


 ぷるぷる


「ありがと!ってうわっ、基本値が2桁も上がってる!それも3つも!」

「うわー…騎士団の訓練ってどんだけキツいんだ…」

「いやいやいやいやこんなのボク聞いた事ないよ!」

「ノーラ的に言って、頑張り屋さんって事だな、うん」

「これ、ハジメの影響じゃないの…?」

「…なんで?だって、コロちゃんにはそんな影響ないよ?それに、女神様からもらった力にそんな説明なかったし」


 ぷるぷる


 だよねーコロちゃん


「うーん…あ、それと次のLvまでのExpが」

「あ、蝙蝠だ」


 ズバッと倒して異空間に放り込む


「ほらまただ!」

「え?」


===

 フェミリア 猫人 16 リスガー

 パーティ:ヤマト、コロ

 状態:正常

 Lv 16 → 17 Exp 9,144 → 9,490

 HP 156/89 → 100

 MP 39/22 → 24

 SP 147/76 → 86 (5%↑ 体術Lv1)

 ATK 87 → 99 (5%↑ 体術Lv1)

 DEF 77 → 87

 MATK 14 → 15

 MDEF 12 → 13

 SPD 85 → 97 (5%↑ 体術Lv1)

 STR 97 → 110

 VIT 97 → 109

 MGC 33 → 36

 AGI 95 → 109

 スキル:ステータスLv3、夜目Lv1、集中Lv1、体術Lv1、SP回復量上昇Lv1、短剣術Lv1、パーティLv1、基礎魔法、魔力回収、魔法剣!Lv1、マジックフィルム!Lv1

===


「おお、あと蝙蝠1匹でLvが上がるとこだったんだね。またおめでとう〜!」


 ぷるぷる


「ありがとう!…ってほら!また基本値が!」

「だからそれは、ミリアが鍛えまくったからじゃないの?」

「だったら係数も大きいはずだよ!算出値がもっと大っきくなるしさすがに偏るの!体だってもっとムッキムキになってる!」

「…ムッキムキじゃないね。しなやかな感じにスラーっとしてる、いい筋肉だ」


 いかにもネコ科って感じ


「ちょ、ちょっと…そんなにジロジロ見ないでよ…もう…」

「ごめんごめん」


 邪な目で見たんじゃないんだけどなー


「とにかく…これは確認しないと」

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