第72話 ミリアの初討伐

「ハーっジーメくーん!あっそびーましょー!」


 あれ、朝か

 今のはミリア?


「あ、おはようコロちゃん…って居ない」


 え?ミリアに抱っこされてるの?

 自力でドアの外に出られたんだ…

 とりあえず着替えるね


「もう〜、成人したのに子供みたいですよ〜?」

「それだけ楽しみだったんだよ!」

「浮ついてると危ないですよ〜?」


 そかそか、コロちゃんも楽しみにしてたんだね


「ドア開けるよー」

「「は〜い」」

「おはよう二人とも!」

「「おはよう!(ございます〜)」」


 うん、二人とも朝からいい笑顔で迎えてくれる

 世のお父様方はこういうのを見て、よーしパパ頑張っちゃうぞーみたいな気持ちになるのかな


「ほらほら朝!朝だよー!朝ご飯食べてダンジョン行くよ!」

「はは、テンション高いなー。ノーラは体調は大丈夫?」

「コロちゃんのおかげで〜」

「ボク外で待ってるね!」


 あーコロちゃんが拐われてくー…

 とりあえずミリアにもPT飛ばしとくか


「朝ご飯とお弁当できてますよ〜」

「いつもありがとう、ノーラ」


 寝起きでもノーラのご飯はおいしかったです






 いっちょあーがりっと


 ぴょいん!


「結局、二次会は無かったんだ?」

「殆どの人が今日の勤務があるからねー。って、コロちゃん怪我してたの!?」

「ああいや、食べるとMPも回復するからさ。余裕がある時は食べる前に回復魔法の熟練度を稼いでるんだよ」

「努力家だ…」


 ぷるぷる

 ぺっぺっぺっ


「はい、ありがとコロちゃん」

「それにしてもコロちゃん、朝ご飯食べたのによく食べられるね」

「この間なんて、倒した魔物を数時間で600以上食べたよねー」

「まぁったまたー!いくらなんでもそれはないよねーコロちゃんー」


 ぷるぷる


「なんなの二人とも…」

「なんなのって、頑張ったんだもんねーコロちゃん」


 ぷるぷる


「そっかー…そりゃあこの辺でコロちゃんがLv60まで上がったり、ダンジョンで堂々とお弁当食べる余裕があっても不思議じゃないよねーははは…」

「心配しなくても安全地帯を作るから、ゆっくり食べられるよ。って言うか、そのつもりで朝から向かってるんじゃないの?ノーラのお弁当も氷で傷まないようにして持ってきてるよ」

「戦う準備以外は要らないって言われたけど、移動しながら食べられるように携行食を用意してきたんだよ。違う献立で集団食中毒対策にもなるし。…けど、そういうのじゃないみたいだね」


 なるほど、騎士団的な基準だとそんな感じなんだなあ

 確かに食中毒で全滅しないように時間とか場所とかをずらすみたいなの聞いた事もあるな


「それって、どんなもの?」

「基本は挽いた粉とか豆とかを材料にして焼き固めてあって、栄養それなり、カロリー激ヤバ最優先で味は少し不味く作ってあるよ」

「不味くって、わざと?」

「わざと」


 Why!?

 食事って楽しみにすべきでしょ!?

 食事は美味ければ美味いほどいいのが当たり前じゃないの!?


 俺が驚いた顔で立ち止まると、得意気な顔で解説が入る


「遭難とかに備えて、保存食を兼ねてるんだよ。美味しいとパクパク食べちゃって、あっという間になくなるでしょ?美味しいからじゃなくて、必要だから、それも節約しながら食べる為のものだもん」

「なるほど…」


 俺の場合は嵩張るとか関係ないし、やっぱり数で勝負しよう!

 日持ちさえすればそれでいいんだし…


「しかもこれ新商品で、唾液で飲み込めるんだ。これって凄いんだよ?でも、ノーラのお弁当があるなら無駄だったかなー」

「んー、万が一はぐれたりしたら困るし、備えておいて損はないと思うけどね」

「そりゃそうだけど、不吉な事言わないでよー」

「そこはほら」


 しゅるるる


 あそっか、これでドアの隙間から外に出られたんだな


「ちっちゃくなっちゃった!」


 ぴょいん!

 ぷるぷる


「わわわっ!今日は専属護衛してくれるの?よろしくねコロちゃん!」

「ダンジョンではずっとくっ付いて、危なくなったらガードしてくれるし、回復もしてくれるよ。俺も何度も命を救われてるし、ゴブリンの集団や蜘蛛の時もどれだけ世話になったか。それに、その時よりももっと強くなってるし」

「すごいやコロちゃん!」


 つんつん

 ぷるぷる


「まあそんなわけで、行きがけの駄賃を安全に稼げるようになったから、次やってみようか」

「よ、よーし…」

「そんなに緊張しなくても大丈夫だって!俺が初めて魔物を倒した時なんかよりも、よっぽど基礎とか出来上がってるんだから!それに、見たいって言ってた、俺の魔物の倒し方、今見せたでしょ?」

「最短最速で刺す、でしょ?本気過ぎて参考にならないよ…」


 しまった…

 ステータス全開だと技術も何もないどころか手抜きすらできるもんな…


「じゃあ…今からゴブリンを呼び出して、ステータスをミリアに合わせて戦ってみるよ。その代わり、【魔法剣!】と【マジックフィルム!】は使うからね。昨日渡した魔力結晶って残量ある?」

「ごめん、使い切っちゃった」

「いいのいいの。2つ渡すからこれで発動しといて。1つ使い切ったらまた渡すから言ってね」

「うん…できた!」

「スイッチの練習はした?」

「ほら、【魔法剣!】を左右入れ替えても魔力は霧散しないでしょ?」

「やむを得ず両方同時に発動する場合は?」

「【マジックフィルム!】の分から工面する!まさかスキルを魔力結晶みたいに増槽に使えるとは思わなかったよ」

「MP総量が足りない間は工夫しないとね。スキルLvが低いうちは【マジックフィルム!】に防御効果はないし」

「良く言えば頭柔らかいよねー」

「悪く言うと?」

「ケチ臭い?」

「…こっちの常識に染まりきる前に色々やっておかないと、固まっちゃうからね。ステータスはどう?普段の倍にしたけど、何か違和感とかない?」

「んー、これなら割とすぐに慣れそうだね。倍と言っても差は大きくないみたいだし」

「最後の確認。Expはこのままコロちゃんと等分でいい?状況次第ではパワーレベリングになる可能性があるけど、成長率の上昇がもったいなくない?一応、【パーティ】のスキルLvを4まで上げてきたけど」

「それを言い始めたら、いつまで経ってもLvなんか上げられないし、いくら何でも今日一日で取り返しのつかないところまでは行かないでしょ」

「じゃあ、口笛吹くよ。コロちゃん、ミリアの事、お願いね」


 ぷるぷる


 ピューイ


「おいでなすったー!そっちに流れないとも限らないから!気を付けて!」

「うん!」


 ゴブリンが4匹!

 横にほぼ並んでるな

 まずは端っこの奴からフェイントをかけつつ…


「すれ違いざまに…斬る!」


 オーバーランして折り返して

 【魔法剣!】を伸ばしつつ跳び込むように…


「突く!」


 って、伸ばしたら参考にならないか

 次は横薙ぎをスウェーバックして…


「突く!」


 あ、ゼロスターイル!だこれ

 さすがに上半身が吹き飛んだりしないか

 残りの1匹は…


「ちょ!なんでこっちくるのさ!?」

「はいバトンターッチ!ほらほら来るよ!」

「あーんもう!」


 そう言って、走り出すでもなくズンズンと歩き出すミリア

 走ってきた勢いそのままに振りかぶった、ゴブリンの一撃を左の短剣でいなして…


「ふっ!」


 そのまま右回転して延髄に右の短剣を突き刺した


「鮮やか…」

「急に交代とかびっくりするじゃんか!」

「あ、ごめんごめん。でも、今までの訓練の成果が躊躇する暇もなく発揮できたじゃない」

「あ…」

「まあこの荒っぽいやり方は団長に助言をもらったんだけどね」

「えー…」


 ぷるぷる


「ああうん、コロちゃんお願いね」


 ぴょいんっ!


 いけない、ミリアの目から光が消えかけてる


「少し、休憩する?魔物が近付いたらちゃんと分かるからさ」

「う、うん…」


 二人してその場に座り込む


 コロちゃん、ちっちゃいまま食べてるな

 さすがに体が小さいと、食べるスピードはゆっくりになるんだなあ


「何かコメントないの?」

「あー…俺、気の利いたセリフとか苦手なんだよね…」


 先生!その後の展開のアドバイス欲しかったです!


「この流れだからってちょっとでも期待したボクが馬鹿だったかー」

「やーいやーい馬ー鹿馬ー」

「それはさすがにないと思う」

「自分でも思った…」

「…」

「大丈夫?」

「わりと」

「そか」

「…」

「…」


 もっと嬉々として跳びかかってく可能性も考えてたんだけど…

 猫耳尻尾がついてるとは言え、結局は人だから理性的行動で敵を倒したって事か?

 待てよ?これ、下手したら差別的内容か?この世界の基準がわかんないから迂闊な事は言えないな…

 ヤバイ、2週間もこっちに居て、こういう考察した事なかったぞ

 相手は愛玩動物じゃなくて人なんだとちゃんと思えるようになって、視界の端に尻尾とかが揺れるのが気にならなくなってきたとか、そんな自分にホッとしてる場合じゃないのか


「最短最速ってさ」

「う、うん」

「意外と難しいね」

「ある意味、捨て身みたいなもんだしね」

「見せてもらったのはいいんだけど、結局は訓練通りの動きになっちゃったよ」

「とっさに出るって事はそれだけ染み付いてるって事だよ。それに、必要な時に必要な事が実行できればそれでいいんじゃない?」

「うーん…うん。確かに、いつもハジメみたいな戦い方してたら、すぐに疲れちゃいそうだね。でもズバーっと倒せたら気持ちいいんだろうな」

「囲まれないようにってところが出発点だからね。今だと囲まれても、格下相手なら横薙ぎ一閃で片付くんだけど」

「届かないじゃん」

「【魔法剣!】のスキルLvが上がると…こんな風に伸びるんだよ」

「あの、届いてない突きがなぜか刺さったヤツ?でも見た目は変わらないよ?」

「やっぱ見えないのか。自分のだから見えるのかな?それとも魔力感知かな…」

「地味だけど凶悪だね。さっきよりもっと伸びるの?」

「魔力次第ですんごい伸びるよ」

「うわー…見えない間合いを測れたとしても、それが変わるんじゃ対処できないや。やっぱ凶悪だ」

「頑張ってスキルLvあげてね。便利だから」

「手に負えないスキルだったらどうしてくれるのさー。具体的には間合いとか」

「そこはもうほんとに、頑張ってとしか…」


 コロちゃんがんばれーあと3匹だー


「ハジメはさ、最初に殺生した時、どうだった?言いたくないならいいんだけど…」

「さすがに、こっちに来てからが初めてだろうと思うけど…うん、必死だった。グラスウルフを手懐けられると思っててさ、コロちゃんが居なかったら確実に死んでた。…ってあれ?これ、コロちゃんの活躍だな。俺の話じゃないや」


 事ある毎にコロちゃんの武勇伝を話してるから癖になってるのかな

 しかもこれ、盗賊を捕まえた時にも話したかもしれない


「一緒に死線を越えた仲だったねー。じゃあ、初めて自分で倒した時は?」

「ゴブリンだね。遭遇戦みたいなものだった。その…口笛を吹いてゴブリンが来るなんて知らなかったし」

「あ、やっぱり口笛なんだ」


 案の定、笑われちゃったよ


「テオさんが近くに居たんだけどさ、俺とゴブリンとのタイマンには手出ししなかったんだよ。それどころか、逃げてないで攻撃しろって言うんだよね。その時の俺さ、もしかしたらだけど、まさにLv0のステータスだった可能性があるんだよ。しかも武装なし。仕方ないから、土を投げて目潰ししたり、飛び蹴りでチクチク体力を削ったり、動けなくなったら手足の関節を砕いたり。最後になって、楽にしてやれってこのナイフをくれた。今思い返すと、相当なスパルタだったな…ひどくない?」


 なんか今更こう、怒りじゃないけど…釈然としないものを感じる

 まあ似たような事を今ミリアにやっちゃったんだけど…


「壮絶だね、色々と…」

「で、終わってから訊いたんだよ。なんで助けてくれなかったんですかって。そしたら、何て言ったと思う?」

「んー…なんだろう…大丈夫そうに見えたから、とか?」

「…当たり。なんか器用に避けてるし、対人戦っぽいのならなんとかなるだろ!とか思ったみたい」

「それは災難だったねー」

「その後やっとかな、もしそれが必要で可能なら、最短最速で刺せって言われたの。そもそもゴブリンを相手にしてた時は素手だったっての!まあもっとも、他のゴブリンはテオさんがやっつけてくれてたんだけどね」


 結局は感謝、かな

 考えてみれば、最短最速なんてある意味で当たり前みたいなものなんだけど…

 言葉で教えられると、ひとつの正解なんだって確信が持てるし


「あははは!ボクはねー、孤児院に居た時の事を思い出すなー」

「あ、ノーラが回復魔法を覚える決意をした時の話?」

「そうそう!まあその時はトドメを刺してないから、初めて魔物を倒したのは厳密にはついさっきだけどね」

「そもそも何で魔物と遭遇したの?」

「それが探検とか言ってノーラを連れ回してたら、なぜか魔物と遭遇したんだよねー。多分、壁の抜け穴を通ったんだと思う」

「それ、ちゃんと塞がないと危ないよね…」

「さすがに、その後は騒ぎになったよ。それで、もうこんな事は起きないからーとか、誰かが言ってた。十分に怖い思いをしただろうってお咎め無しはラッキーだったね!」

「ラッキーって…まあ、小さい子ってそんなもんかもなー」


 今の話だと、外から魔物が入り込んだ可能性も否定しきれないよな…


「ノーラには怖い思いをさせちゃったなー。もう許してくれてるけど。とにかくボクは、ノーラを守るよ。騎士団員なら、みんなを魔物から守れるし。あ、犯罪者からもか」

「続けられそう?」

「当然!そろそろ行こっか。ダンジョンに辿り着いてもいないのに、休憩しすぎたね」


 ぷるぷる

 ぺっぺっぺっぺっ


 ぴょいんっ!


「おかえりーコロちゃん」

「コロちゃんありがとね」


 それにしてもこのタイミング…

 コロちゃん、空気を読んだな

 何て賢い子なんだ!

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