第71話 ミリアへおめでとう

 衝撃の事実!


 さっきの入団試験は、実はお呼ばれしていなかったらしい

 いや、ノーラは呼ばれていた

 俺は呼ばれていなかった

 ノーラが呼ばれたのは回復魔法担当としてのようだ

 どうせミリアの関係者だし、人員の割り振りが楽になるから呼んでしまえ、という事だったらしい

 その間は教会が留守になるんじゃないかと…ノーラが了承したならいいか

 まあそれで、金魚の糞だった俺は結果的に顔パスだったと

 ミリアの友人として認められてたわけだ

 ちゃんと招待状を読めよ俺!


 把握が甘かったせいで、危うく入団式までに時間を潰しすぎて遅刻するところだった

 その慌てぶりたるや、近道の為に屋根に飛び上がろうとしたところでやっと、市街地用に抑制したステータスの制限解除を思い出したくらいだ

 厳粛な空気で進行する中、息を切らした男が一人ずっとハァ、ハァ、って完全に危ない奴だ俺

 必死に抑え込んだお陰で変に目立つ事はなかったけど、そのせいであんまり覚えてない

 最後の方の、騎士として皆の為に頑張るかい?頑張る!よっしゃ今日からキミも仲間だイェー!みたいなやりとりしか覚えてない

 まあそんな言い方やテンションじゃなかったんだけど


 そう言えば何かの試験の時、試験開始時刻を会場入りする時間と勘違いしてギリギリに入った事があった気がする

 結構、いや、かなり大事な試験だったと思う

 あの時は息を切らせて部屋に入ったせいで、注目を浴びたはず…

 入団式では注目を浴びてミリアの邪魔をするなんて事がなくてよかった


 ともあれ、俺はミリアの友人なのである

 ノーラはミリアの家族

 団員はミリアの仲間


 そう、俺はミリアの友人だ

 団長と愉快な仲間たち主催のパーティーに友人枠で参加しているのは、現段階でまだ俺一人なのである

 でも何なのこの状態

 まるで、会議で自己紹介した時みたいな

 こういうのって、普通は結婚式とかで友人代表でやるもんじゃないの?


「えー、これを以って、フェミリアちゃんのお誕生日、新成人、騎士団への入団の祝福の挨拶とさせていただきます。おめでとうミリア!」


 あ、締め方間違えた

 おめでとうって直接言葉にしてるじゃん!

 まあいいか


 店を貸し切りにしてなかったから、他のお客さんからもおめでとうの声や拍手が届く

 みんなこんな時間から呑んでるのかー


「ありがとうー!」

「堅いし長えぞー!」

「はいはーい、それじゃあノーラ…はだめっぽいから、もうそのまま乾杯の音頭お願いねー!」

「うぇ!?お、俺!?」


 色んな人を差し置いて、俺がやるの!?

 団長を見ると頷いてるし、ノーラと目が合…逸らされた…

 せめて副団長…俺、知らねえ!いや団長がこの場に居るんだから仕事か!?


「ミリアからのご指名なのよ!」

「急いでください!お酒を持つ手が震えてる人も居るんですよ!」

「そんな奴居たらさすがにクビだろうが!」


 いやアル中かよおい!?

 こ、こうなったら…!


「みんな飲み物を持ちましたね!?いきますよ!ミリアの未来に、乾杯ー!!!」


 かんぱーいと声が続く

 やっぱりミリアは人気者だなー

 うん、後にしよう


「そう言えばノーラはお酒は飲まないの?」


 やっぱり知ってる人の近くが落ち着くね


「必要な時に少しだけ〜」

「ああ、飲めなくはないけど特に好きってわけでもないと」

「一口でふらふらになってしまいますから〜」

「え、必要な時って大変じゃないのそれ」

「正直、気が重いですね〜。飲んだふりだけです〜」

「まあ、飲まないならそれが一番だよ。依存性に負けたら滅茶苦茶お金かかるし、百毒の長なんて言われるし、酔って迷惑かける奴なんてもうどうしてやろうかと思うくらいだし」

「そういうハジメさんはどうなんですか〜?」

「いや〜、元々居た場所では未成年で、そもそも飲んじゃいけなかったからな〜」

「こっちに来てからはどうなんですか〜?」

「正直、自分から飲みたいとは思わないかな」

「わたしやミリアと近いですね〜」

「ん?ミリアもなんだ?でもお酒に挑戦するって」

「人によってはですよ〜。多分そろそろ〜…」

「え?」


 ノーラの視線を追うと、そこにはお酒を断ろうとしているミリアが


「だから無理だったんだって〜!!団長〜!助けてよ〜!」


 ああ、一応は口にしたんだ

 付き合いとか立場とかあるもんな


「こらお前ら、無理強いするな」

「違うぜ騎士団長さんよ!こっちも一口舐めてみろって言ってるだけだ!」

「そうそう!チロっと舐めてくれればいいんだよ!舌先でチロチロっと!」

「ミリア、もう一度チャンスを!今度は酒で!」


 あ、だめな大人だ

 団員もそうじゃないのも入り乱れてる


「助けに行かないの?」

「自分で断れるようにならないとだめなので〜」

「言えてる」


 まあ、限度を過ぎるようなら助けに入るか

 …助けられるかなあ


「そもそもなんで自分から理性を手放さなきゃいけないのさー!」

「飲み過ぎなきゃいいだけよ?楽しいわよボク〜」

「じゃあみんなもう飲み過ぎだよ!断ってるんだから!飲みたい人だけ飲んでればいいんだよ!」

「大丈夫だって、こんなもん水だ水!」

「だったら水飲んでればいいでしょー!」

「お前ら、大人としての手本をだな」

「団長さんよ、成人したんだから過保護は良くない…ぜ!」


 あーあーあー

 口が達者であんよもお上手…ミリアの近くにばたーんと


「けほっ!こほっ!臭いがキツイよ!どんだけ飲んでるのこの人!?あー!ノーラに貰った服がー!?」

「ミリア、ここはいいから別のところへ逃げておけ」

「ありがとう団長!」

「あ、お嬢ちゃん〜!」

「逃げることはないでしょ〜?」

「おいおい、なぁ〜に転ん…お〜っと!」


 今度は別の奴ががちゃーんとやったな


 ミリアはもう無視してその場を離れる

 まあミリアが逃げる先って言えばノーラか団長だよな多分

 団長にあの場を任せたという事はこっちに来るわけで


「ノーラ!外へ出よう!」

「うふふ〜まららいりょうふふぇふよ〜?」

「手遅れだった!?」

「え!?空気中のアルコールで酔ってるの!?」


 おろおろ


 コロちゃんがまたおろおろしながら回復魔法を連発してる

 はたから見てると和む光景なんだけど、本人は必死なんだよなこれ


「だめだコロちゃん、回復するそばから酔ってく」

「お酒は解毒魔法じゃないと効きが悪いんだよ。今日は酒豪組じゃないからって見誤ってた。とにかく運ぼう!ほら、おんぶ!」

「お、おう」

「あれ〜?体がふわふわ浮いて〜ミリアは〜?どごにいるんでずが〜?みりあ〜…くすん」

「大丈夫だよ。ボクはすぐ近くに居るからね」


 これは男の前に出しちゃだめなヤツだ…


「コロちゃん、後ろをガードしてて」


 するする


「それならボクは水をもらってくるね。あっちから外の席に出られるよ。椅子とテーブルがあるから」

「わかった」


 べちんっ


「いてっ」


 さっそくノーラのお尻におイタをしようとした輩をコロちゃんが弾いたな


「コロちゃんいいぞ!」

「あんだこのスライムはぁ!?オレサマ直々に退治」

「はいそこまでー!キミ、後でお話があるからねー」

「ひぃっ!」


 ともあれ、ノーラを無事に外の席へ運び出した

 椅子に座らせたらテーブルに突っ伏して…完全に寝入ってる

 ベンチシートがないから仕方がない、この態勢で我慢してもらおう


「酔いを覚ましてあげないとな…ってコロちゃん、スタンバってたのね」


 ぷるぷる


 ノーラが突っ伏してるテーブルに飛び乗るや回復魔法をかけて、顔を覗き込んでる


「すーすー」

「もう少し寝かせてあげれば大丈夫だよ」


 たしか買い溜めした中に奮発した新品のマントが…あったあった


「寝てる相手にカッコつけてもねー」


 お、ミリア戻ってきたか


「優しい俺を演出中です」

「優しさは向ける相手も大事だと思うんだー」

「綺麗なおべべがお似合いですよ」


 こっそり【清浄】を…お、成功した

 俺も成長してるな、うんうん


「おべべ?」

「服のこと。スカートも履くんだね。いいとこのお嬢様みたい」

「ノーラにもらったの!でも今のハジメみたいな全方位の優しさってどうかと思うんだー」


 ニヤニヤ顔が小憎たらしいなもー


「むぅ。とにかく、はいこれ。誕生日とか新成人とか騎士団への入団とか、色々まとめてになっちゃうけど、おめでとう」

「ありがとう!今開けてもいい?」

「どうぞどうぞ」

「これは…スキル結晶?3つも」

「それ、3種類ね。予備の魔力結晶も用意してあるから、ミリアの時間がある時に覚えるまで付き合うよ」

「じゃあじゃあ!今からでもいい?」

「ははは、かまわないよ。あんまり主役を独り占めしたらみんなに恨まれそうだから、早いとこ終わらせよう」

「じゃあさっそく…」


 ミリアがスキル結晶から熟練度を掬い取る

 さて、どれだけかかるかな?


「うーん、スキルは増えてないなー」

「じゃあ次だ」


 2セット目を作って手渡す

 さあ、今度はどうだ?


「…ちょっと」

「な、なに?なんかマズかった?」

「これ、どんだけ熟練度が込められてるのさ?」

「どんだけって…マリボアの魔力結晶を使ったんだけど」

「なんか、【魔力回収】って聞いたことないスキルが増えてるんだけど」

「じゃあ残り2つだね」


 さあ、残り二つの3セット目を…

 熟練度、大丈夫かな

 カッコつけ過ぎたかなぁ


「魔力の残滓ってなに?どういうこと?なんか覚えるのが大変なスキルだったりしない?」

「詳しい説明は後でまとめてするから、先に覚えちゃおう。はい、これ」

「これ以上の熟練度が必要なスキルって一体…」

「どう?」

「…魔法剣だ!」

「ノンノン、【魔法剣!】ね。もうひとつは?」

「う…まだだけど、もしかして…」

「多分、当たりだよ。それじゃこれを」

「うん」


 これで覚えてくれると、俺としても正直ありがたいんだけどなー


「…どう?」

「覚えたよ!マジックフィルムだね!」

「よし!【マジックフィルム!】も成功だ!Lvが上がれば、守りや手足での攻撃にも使えたりするから!」


 今思えば、個別のスキルじゃなくて【俺ニウム】みたいなカンジでひとつのスキルとして創ればよかったな

 次があったらもう少し考えて創ろう


「もらってから言うのもなんだけど、ほんとにいいの?これ全部、苦労したんじゃないの?熟練度は大丈夫?」

「実はカラクリがあってさ。【魔法剣!】と【マジックフィルム!】は【魔力回収】で消費MPが実質0なんだよ」

「へ?」

「展開してる魔法が消えたら回収できないんだけど、単純に熟練度を稼ぐだけなら、MPが足りるようになったらあとは根性でなんとかなる」

「ハジメだから根性って言うか…惰性?」

「なにをぅ」

「冗談だってば、冗談」

「ミリアは【SP回復量上昇】のスキルを持ってるくらいだしー、俺なんかと違って根性的なものはかなりありそうですよねー」

「でも、【魔法剣!】はもう少しだけど【マジックフィルム!】はまだまだ自前で発動できるだけのMPが…」

「そこはほら、魔力結晶を使いつつ頑張ってLv上げて行こう!」


 魔力効率化をあげてもいいんだけど、どうせLvが上がっても他にMPの使い道はなかなかないだろうし

 そもそも、ミリアにまであげちゃうと俺の熟練度が大ピンチだし…


「あ!なんだかんだで伝え忘れてたかも…明日ダンジョン大丈夫?都合が悪かったら別の日に…」

「大丈夫大丈夫。でもさすがに今のステータスでは第一階層の蝙蝠にも勝てないから、俺とパーティ組んだあとステータス強化させてもらうからね。多分、技術でどうこうできるレベルのステータス差じゃないから」

「そんなに?」

「相手のDEFがミリアのATKの倍近くあるし、逆方向は向こうの一撃でやられちゃうくらいだよ。そんなのと手合わせじゃなくて命のやりとりになるからね」

「あー…でも…うーん、装備じゃどうにもならない感じかー」

「無茶したらダメですよ~…」

「あ、起きた?」

「…いや、寝言だこれ」


 突っ伏したままモゴモゴ言ってる


「コロちゃんが頼りです~…」

「どんな夢を見てるのさ…」

「夢でまで心配かけてるのか、俺」

「あーあ、いけないんだー」


 ぷるぷる


「ほら、コロちゃんも呆れてる」

「えー」

「二人をお願いします~…」


 コロちゃんの他に…二人…?


「あ、多分ミリアも同じだこれ」

「なんで!?」

「だってミリア、意外に残念って言うか…ここの4人を分けるとノーラとコロちゃんが保護者枠でミリアは俺側で…」


 さすがに技術やらセンスやらは俺なんかよりよっぽど良いんだけどなー

 団長との手合わせを見た後だとなー


「前衛として似たようなタイプだしボクは実戦経験が不足してるんだから仕方ないじゃないかー」


 遠回しに同じ穴の狢と言いたいわけですね


「しかも俺はコロちゃんとノーラに無茶しないって約束してるから実質…」

「それじゃまるでボク一人問題児みたいじゃん!」

「まあそれはそれとして」

「流したよこの人…」

「起こした方がいいのかな?」

「どうなんだろ?」

「このままだと夜、眠れなくなったりとか」

「よし起こそう」

「コロちゃん、出番だ!」


 ぴょいん


 つんつん


「すー…すー…」


 ぺちぺち


「ん、う〜ん…」


 ぷるぷる


「起きないかー」

「…ミリア、【魔法剣!】の変わった使い方を一つ、見せてあげる」

「へ?」

「まずは【魔法剣!】を出します。練習次第で、こんななまくらソードにできるから」

「う、うん、なまくらなのね」

「ここに【氷結魔法】をかけます」

「いやいやいやいや、複数同時とかそう簡単に…え?」

「さてここに、氷の棒が出来上がりました」

「何をさらっと仕出かしてるのさ…」

「こいつをノーラのうなじに〜」

「ちょ、ちょっと!」


 そーっと、そーっとね、一瞬だけ!


「ひゃん!?」

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