第69話 新成人とだめな大人

 あれ、今日ってミリアの成人で入団の日だよな

 なんで外で学校の朝礼みたいな並び方してるんだ

 屋内だとこの全員が入りきる部屋がないのか?


 ぷるぷる


「ああ、今日はね、ミリアが大人の仲間入りをする日なんだよ。もう子供扱いじゃなくなるって事だね」


 ぷるぷる


「そうですよ~、おめでとうの日なんですよ~」


 ぷるぷる


「今日この日、我々の仲間が成人を迎え、見習いを卒業した。三年前に狭き門をくぐって以降、よく学び、厳しい訓練に耐えてくれた。特に彼女に於いては、その努力たるや並大抵のものではないと思う。フェミリア、前へ!」

「はい!」


 おお、花束だ…って


「で、でけぇ…」

「みなさんが一輪ずつ選んで作った花束らしいですよ〜」


 だからって一つにまとめなくても…


「それで統一感が」

「そういう言い方をしたらだめですよ〜」


 すんません

 お口にチャックしておきます


「フェミリア。見習いの卒業、そして成人、おめでとう」

「ありがとうございます!」

「訓練に比べて、お勉強の方はもう少し頑張って欲しかったがな!」


 うわー団長、こんな大勢の前でえげつない…

 みんな拍手しながら笑ってるじゃないか


「うぅ〜!」


 ほらミリアが真っ赤な顔でほっぺた膨らませてる

 って言うかミリアのお勉強ってどんなレベルだったんだ…


「まあ何事も一生勉強と言うから、これからも高みを目指して頑張って欲しい」

「わかりましたー…」

「学業担当の者達も、今までご苦労だった!後進の育成はまだまだ続くが、今日を以って一人、手を離れる事になる。とりあえず一区切りという事で、今日の宴はしっかり楽しんで欲しい」

「久々の宴会だー!」

「今日の主役はミリアなんだから!」


 なんだこの緩さ

 俺の想像と全然違う

 厳粛というより例の会議に近いんじゃないのか

 これが騎士団…じゃないよな

 ここが特殊なんだ、きっと、うん


「さてフェミリア。見習いを無事卒業したお前には今、選択肢がある。ひとつは正式に入団し、騎士として生きていくか。もうひとつはここを出て、別の道を生きるかだ。みんなの前で改めて聞かせてくれ」

「騎士になる気持ちは変わらないよ!」


 団長、目を潤ませながら、ミリアに頭ぽんぽんからのなでなでしてる

 って成人扱いしないのか自称父親代わり!


「よく言い切った!それでは入団テストを兼ねて、今日までの集大成を見せてもらおう!」

「はい!」

「みんな下がって!」

「始まるぞ!」


 人が離れて輪になってく

 やっぱあれか?戦うのか?それで屋外なのか?

 あ、ミリアがこっちに来る


 ぷるぷる


 コロちゃん、お話はあとでゆっくりしようね

 今はあんまり邪魔したら悪いからね


「ノーラ、この花束持ってて!」

「やっぱり戦うんですか〜?」

「うん!もうあの時とは違うって事を見せるから!そっちの二人もボクの事しっかり見ててね!」

「気を付けてくださいね〜!」

「頑張れよー!」


 ぷるぷる


「三人ともありがと!ボク頑張ってくるー!」


 空間の中心付近にはミリアと団長の二人

 この俺を乗り越えて力を示せ!みたいな?

 ノーラはなんか神様に祈ってるな


「一人目、前へ!」


 え?一人目?

 輪を作ってる人垣の中から、一人が進み出てくる

 まさか10人抜きとかそういうあれか?


「ミリア、今日は大人の仲間入りした記念にいつもより厳しく行くからな!」


 抜き放った…クレイモアだっけか?剣をミリアに突き付ける

 ん?

 なんか片足を庇ってないか?

 なんで?


「あれ?なんで怪我してるのさ?大丈夫なの?」

「なあに、ちょうどいいハンデだ。気にする事じゃない」

「え、うん…」


 周りをよく見ると、何人か怪我をしてる人達が居る…

 怪我人からはミリアやっちまえーとか、とっとと交代しろーとかヤジが

 ああ、なるほど

 多分、いつものノリがヒートアップしたんだろうな


「双方、構え!」


 あ、さすがに練習用の柔らかいヤツは使わないのか

 木剣でもないし、刃引きだけした本物?

 でもミリアは…あの柔らかいヤツだ!


「始め!」


 ミリアがいきなりのトップスピードで突っ込む

 相手がタイミングを合わせて剣を振り上げ…ミリアが加速した!

 さっきのはトップスピードじゃなかったのか!

 しかも相手は若干右寄りを警戒して…視線誘導でフェイントでもかましたのか

 踏み込んで反対側へ、すれ違いざまに防具のない左脇を突き刺して…


「そこまで!」


 短剣の刃に相当する部分だけを刺して寸止めしたのか

 訓練してないとできない芸当だよなあ


 ぷるぷる


 いやあ、ある程度は相手が強くないと、そもそもフェイントに気付いてくれないもんだよ?


「…お見事!ぐふっ」

「えー。怪我ひとつ…は初めからしてるけど、今のはダメージないでしょー」


 今みたいな戦い方は俺相手にはしなかったな

 単純に手数で圧倒されるよりもやりにくそうだ

 それに本人が疲れにくいし

 このペース配分は、何人とやる前提なんだ


「次!」

「ふっふっふ…奴は我々の中でも最弱。怪我をしてまで無理に仕合いそして負けるとは、先輩騎士の面汚しよ」


 おーい、自分の事を棚に上げてまで言われてるぞーさっきの人ー

 あ、まだ負けてないのか

 この人はこの人で、バスタードソードって勇者っぽいのにセリフは悪役ってあべこべだな


「自分だって怪我してない?そもそもなんで怪我してるのさ」

「知れた事よ。今日この日を」

「双方、構え!」


 団長、喋らせてあげてよ…


「最早言葉は不要!」

「あ、うん」

「始め!」


 今度は待ち受けるわけではなく、双方共に接近する

 ミリアは先制攻撃を誘い、一歩踏みとどまる

 同じようにリズムを崩した緩急でも、今度は先の後の先だ

 今度は首筋に、すれ違いざまに突き立てた


「そこまで!」


 ステータスと経験が格上であろう相手でも翻弄してるな

 俺じゃ勝てないわけだ


「くっ…例えこの身が倒されようとも、必ずや第二第三の対戦相手が…」

「次、3人目だよね」


 ミリアさん、やめてさしあげて

 その手のツッコミは相手が可哀想です


「次!」

「やっと出番ね」

「ここまで3人とも怪我人だよね」

「気にしたら負けよ」


 そりゃね、君の相手をみんなが取り合いしたからだと思うよ、多分

 左手を怪我してるから右手一本だな


「双方、構え!」

「今までのように大振りの攻撃を期待しないでね」

「まだやりようはあるからね」


 レイピアかー

 流石に先端を丸めても突きは痛いじゃ済まないぞー


「始め!」


 両者同時に攻め込む

 と見せかけて、ミリアが踏みとどまる

 さっきと同じ戦法か?

 相手の右手が伸びきる寸前で…短剣を投げた!?


「とりゃ!」


 左手を怪我しててマンゴーシュ持ってないからなー

 怪我をした手で払い除けると地味に痛いよなー

 ほら、包帯を巻いてるところに当たって…


「ひゃん!」


 で、肉薄されて一本、と


「そこまで!」

「なんでみんな、回復魔法をかけてもらわないのさ?」

「頼んだんだけど、自業自得だって言われちゃって…」


 俺の予想、多分当たってるな


「次!」


 横のノーラに目を向けると、ハラハラしてるな

 祈りながらチラチラとミリアの方を見たり目を瞑ったり忙しい


「ノーラ、そこまで心配は要らないと思うんだけど」


 聞こえてない

 なんか、この目でしっかりと見届けないと〜とか、でも神様に祈らないと〜とかそんな事を言ってる

 コロちゃん、Go!


 つんつん


「あ、コロちゃん何ですか〜?」


 ミリア、オレが勝ったら…その…


「ノーラ、そもそもこれは試合であって殺し合いじゃないんだから」


 えー、そんなこと急に言われてもボク困…


「でも怪我をしたら大変ですよ〜」


 双方、構え!


「回復魔法をかけてあげればいいじゃない。魔力結晶だって一応は持ち歩いてるんでしょ?」


 俺が勝ったら…


「怪我をしないのが一番なんです〜!」


 始め!


「今からそれを心配してたら、騎士団の活動が始まったら神経が擦り切れちゃうよ」


 ていっ!


「そんなこと言っても心配なものは心配なんです〜…」


 ぐぇっ!


「そう言えばミリアは今までに大怪我した事ってあるの?極論を言えば、これ普段の稽古の延長なんだけど」


 そこまで!


「ミリアが勝ちました〜!」


 ボクが勝ったから今の話は聞かなかった事にしとくね


 あ、いつの間にか終わってた…

 随分と盛り上がってたみたいだな

 なんか今の対戦相手、後で裏へ来いとか言われてるけど無様な負け方とかしたのかね


 ぷるぷる


 ああ、ミリアが人気者って事は理解してるよ


「次!」


 ともかく勝負を決めるの早いよミリア

 でもそろそろ息があがるな


「ぬるい!力こそパワー!握力、体重、スピードの全てを兼ね備え」

「双方、構え!」


 ほっとくと一行で矛盾しそうな発言が遮られる

 もはやミリアも何も言わない

 なんか言ってやれよ、先輩だろ相手

 ところでその武器ってランスじゃないですかね

 いくら新人に対するハンデだからってそこまでしますか?

 地上じゃただの扱いにくい鈍器じゃないんですか?


「えっと、当たらないように気を付けるね!」

「始め!」


 お、ミリアが多分ここに来て初めての待ちに入った

 相手は鋭く…多分鋭く踏み込んで、突き出す!直前にミリアが跳んだー!

 更にミリア選手、前方宙返りして…体を縮めたままランスに着地!

 先端が地面に触れた瞬間に足を伸ばした!そして相手は武器を取り落とすまいと必死だー!

 今日初めて見せた技らしい技だが身も蓋もない言い方をすれば要するにストンピングだー!


「ぬおぉっ…ふごっ!?」


 あっちゃー

 最後まで獲物を手放さないから、受け身が取れずに顔から地面に…

 すかさずミリアが走り寄り


「え、えいっ」


 短剣で首を刺す…直前で寸止め

 これ短剣の形したスポンジみたいな物なのに、ここに追い打ちって罪悪感すらあるもんな…


「そこまで!」

「だ、大丈夫?」

「ふぁいひょうふふぁ…」


 あー、鼻を押さえて…赤いのが垂れてる


「うわー!回復!回復!」

「まあ今回はいいだろう」


 そうか、この人のは試合中の怪我だから回復魔法OKなんだな


「ノーラおねがい!」

「は〜い〜」

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